SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 6, Dec. 1997.

11. 高温超伝導線材の市販始まる − 英、米、デンマークで


 高温超伝導線材の開発が始まって、ちょうど10年、これまで線材を外販する企業がなかったが、ここにきて3社から市販が始まっていることが分かった。コペンハーゲンのノルディック・スーパーコンダクター・テクノロジー社(NST)とフロリダ・タラハッセのユーラス・テクノロジー社はすでに価格も公表した。英国ウェールズのBICCケーブル社がこれに次いでいるが、いまのところ価格は公表されていない。11月、中国で行われた超伝導磁石の国際会議では、特にノルディック社のセールス活動が目立ったという。線材が市販されないと、装置、システムメーカーが自由に製品開発を進められないため、これまで超伝導応用製品メーカーから、線材市販の要求が強かった。日本企業はいまのところ線材市販を開始しているところはない模様。以下に3社の概要と線材購入のためのスペックを示す。

 NST社はNKT Holding Associates社の高温超伝導線材開発部門が独立して、資本金2億円、研究開発要員9人でスタートしたもの。線材以外の研究は引き続きNKT社が行う。NSTの線材製造能力は1997年10 km、1998年にはこれを60 kmに増強し、その後、毎年、設備の倍増を計画している。線材価格は kAm 当たりで条件により10〜20ドルとしている。標準品のスペックは : 線材長さ−250 m、フィラメント数−19本、Ic―15 A、断面−2.8 × 0.2 mm(表面セラミックコーティング含む)、銀比−3.3:1、納期−発注後1か月、長さは1 kmまで注文に応じる。

 米国ユーラス社は1995年に設立され、従業員数19名、国立高磁場研究所NHMFLのあるフロリダ州 TalahasseのInnovation Parkにある。社長はMarilyn S.Adams。これまで欧州の加速器 CERN 向けの高温超伝導パワーリードなどを作っていたが、線材開発を行っていた Plastronic Corporation 社を本夏に買収併合することで、線材製造技術を得たもの。すでに、ポートランドで開催された国際低温技術/材料学会(CEC/ICMC)では2 km線材を出品し、話題となっていた。

 この線材は、住友電工、アメリカンスーパーコンダクター社などの製法(PIT-パウダーインチューブ法)と異なり、オハイオ大学の技術移転でできた「連続粉末充填成形プロセス−CTFF法」によって作られ、いくらでも長いものができるとしている。タラハッセに月産12 kmの線材工場を完成した。標準品のスペックは : Jc - 10,000 A/cm2, Je - 2500 A/cm2, Ic - 25 A(77 K, 自己磁場)、価格19ドル75セント/m、商標名 : EURUS Power Plus。同社は上記NHMFL の他に、旧ソ連国防宇宙研究所群、英バーミンガム大、米ボストン大、ロスアラモス国立研、オークリッジ国立研、バリスティックミサイル国防機構、エジソン材料テクノロジー、伊Supco Srl.社、やスペインの研究所などとの共同技術開発関係を結んでいる。

 英国BICCケーブル社(チェアマン : V.Weir氏)は商標名CRYOBICCのPIT法による線材市販を打ちだし、そのスペックは : Ic - 25 A、Jc - 10,000〜16,000 A/cm2、充填率 : 21〜25%、断面 : 3 × 0.3 mm、シース−銀または銀合金、フィラメント数 : 85本まで、標準長さ : 200 m(1000 mまで可)。価格および製造能力については公表されていない。BICC ケーブル社は、欧州最大の光ファイバー生産を誇り、世界の電線会社でも大手に属し、米、伊、豪、タイ、フィリピン、アフリカなどにも生産拠点を有する。本年始めより外販を開始し、すでにOEMなどにより、応用機器に組み込まれているとしている。大学や研究機関にも供給を行っている。インターネットホームページは間もなく超伝導線材情報を掲載する予定 : http://www.BICC.com。見積りや共同研究の問い合わせは、Dr. Wolfgang Blendl (Business Development Manager)まで : wblendl@bicc.co.uk

 高温超伝導材料開発の技術水準は、これまで日本が進んでいるという見方が内外でなされていたが、製品市販の段階でこのところ欧米の活発な起業活動が目立ってきている。線材関連の開発ではこれまで住友電工、アメリカンスーパーコンダクター社などの先行グループのリーダーシップが目立っていたが、いずれも線材の市販には消極的で共同研究でしか線材を供給しないという態度をとってきた。ここに来て、その他の欧米3社が市販を開始したことで、超伝導応用製品の開発がやりやすくなることが予想される展開となった。これまで、「線材の市販がなされない限り、高温超伝導線材は本物ではない」と各種会合で「まだだ、まだだ」と叱咤激励をとばしてきた元東芝首席技監、現湘南工科大教授の荻原宏康氏はこのような動きに対して「熱意があって、10年もたつとここまでこれるものなんですね。楽しみが増えました。この線材を供給してもらっている大学や研究機関からどんな報告が出てくるかが楽しみです。また、この線材そのものの性能向上と、これにふさわしい新応用分野の出現が楽しみです。さっそく購入手配をしてみることにしました。市販に踏み切った線材メーカーには今後3年の年限で、これまでの開発費抜きの費用で線材を供給してくれることを望みます。結局はそれがマーケット成立を確かなものにしてくれるはずです」とコメントしている。

(SSC)