SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

8. 超伝導PrBa2Cu3O7-y単結晶その後の進展
− 電総研 −


 123構造をとり、唯一超伝導を示さない物質として知られていたPrBa2Cu3O7-yが、電子技術総合究所により低酸素分圧に制御された雰囲気中で溶媒移動帯溶融(travelling-solvent floating-zone: TSFZ)法を用いて超伝導体の単結晶製造に成功してから1年近くが経過した(Jpn. J. Appl. Phys., 36, (1997) L18.)。実験の再現性が高くなり、結晶育成の条件や超伝導を示す単結晶の特徴についてのかなりの進展がみられたということで、このほどプレス発表が行われた。

 単結晶作製は溶媒を用いたTSFZ法でアルゴン中に0.1%の酸素を含む雰囲気下で、高速で溶媒を走査した結晶化原料棒を用いて0.5 mm/hの速度で結晶育成がおこなわれ、約1週間から10日で直径 4-5 mm、長さ8-10 cmの円柱棒状のPrBa2Cu3O7-y単結晶が得られる。その後酸素中で熱処理をすると80 Kの超伝導を示すという。岡邦彦主任研究官は結晶成長について「いままでに25例単結晶を作製し、そのうち5例が超伝導を示すという再現性は得られたものの、これらの棒状結晶全体が超伝導性を示すのではなく、その中の一部が超伝導性を示すため、超伝導を示す単結晶を探さねばならないこと。また、結晶中には微量のBaCu2O2がふくまれており、長時間大気中に放置すると灰色の粉末と1ミリ角以下の細片化した結晶に分離してしまう。これらの細片化した10粒ぐらいをまとめてSQUIDで磁化測定して超伝導性を探し、そしてその中の1粒を探し出すというように行われるため膨大な量のSQUID実験が必要となること。そして当面の課題は超伝導を示す結晶の再現性の確率をあげることと、結晶のグレインを大きくすることをあげた。また、まだ他所で追試に成功していないが、多くの研究者が結晶育成に参加すれば問題点の解決も早くでき、物性測定が進展するだろう」と述べた。

 超伝導を示すPrBa2Cu3O7-y単結晶の特徴を鄒志剛重点基礎支援研究員は次のように述べている。
「超伝導を示さないフラックス法の結晶と超伝導を示すTSFZ法の結晶を比較すると
(1) TSFZ結晶のc軸長が長い(123系のイオン半径に対するc軸長はPr123だけがはずれているといわれていたが、TSFZ結晶は図1のように同じ123系のグループと同じ傾向を示していることがわかった。
(2) Cu1の占有率がTSFZ結晶では90%以上なのにフラックス結晶は70%程度である。
(3) 組成もそれを反映してPr:Ba:Cuの比が、TSFZ結晶では1.05〜1.31:1.85〜1.95:2.80〜2.96。超伝導を示さないTSFZ結晶は1.15〜1.19:1.80〜1.84:2.46〜2.74であり、フラックス結晶は1.12:1.88:2.60と超伝導を示さない結晶にはかなりCuが少ないことがわかった。
(4) as grownではフラックス結晶はプリセッション写真で結晶性が良いことがわかった。一方TSFZ結晶は(hol) 面で環状のdiffusingが観察され、c軸が若干ずれた小領域である欠陥が結晶中にあることがわかった。その後同じ酸素処理をしてTSFZ結晶は環状のdiffusingが見えなくなり欠陥が緩和されることがわかり、双晶を示してorthoになった。フラックス結晶は酸素が入らず、tetraのままであった。
(5) TSFZ結晶もフラックス結晶もPrは3価である
等のことがわかってきた。また金属材料研究所の葉金花主任研究官との共同研究で、常圧でTc = 57 Kを示した試料が9 GPaの静水圧下で116 Kを示すという興味深い結果が出る。」

(tennis hopper)



図1 : RE123系結晶のc軸長とRE3+イオン半径の関係