SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

7. 塗布熱分解法による超電導セラミックス膜の作製技術を開発
− 物質研 −


 物質研では、原料溶液を基板に塗って焼くだけという、簡便で低コスト、低エネルギー負担な方法により、高品質な超電導セラミックス膜を作製する方法を開発し、発展させてきている[日化, vol. 1997, no. 1, pp. 11-23 (1997)]が、この研究に関する業績に対して、今年度2つの賞が贈呈された。「エネルギー技術における化学的プロセスに関する研究」に対する電気化学会技術賞と「塗布熱分解法による超電導セラミックス膜の作製技術に関する研究」に対する工業技術院長賞である。

 同所無機材料部の水田 進部長、熊谷俊弥、真部高明氏らの研究グループは、1986年の酸化物超電導体発見の直後、この方法によるYBCO系超電導膜の純粋化学的合成を世界に先駆けて実証した。その後も原料物質である金属有機化合物の選定、溶剤の探索、酸素分圧を制御した新規な合成条件の提案、基板の選定等により、性能向上の努力を続け、単結晶的(エピタキシャル)超電導膜の製造技術を確立し、77KにおけるJcとして106 A/cm2以上を達成した。これは他の高価な気相法プロセスで作製される薄膜の超電導特性に匹敵し世界最高レベルのものである。また、格子ミスマッチの大きなMgO基板上においてもエピタキシーを発現させる合成経路を見いだした。塗って焼くだけという簡便な方法を用いて常圧で高性能なエピタキシャル成長膜の作製方法を確立し学術的にも明らかにした意義は大きく、また、大面積・長尺の超電導厚膜の実用化への可能性を評価されたものである。この方法で作製される超電導膜は、大電流制御素子(限流器)、通信用同調回路、電力輸送用ケーブル等への応用が期待されており、現在、北大大西研究室と共同で限流器の試作と評価の研究を行っている。

 また、同グループでは、日、米、欧でこの方法と原料溶液に関する基本特許を成立させ、超電導特許国際競争における先導的役割を果たすとともに、国内十数社への技術指導によりわが国企業の超電導関連研究開発の促進に貢献してきた。特許の実施により、日本化学産業(株)から超電導原料溶液が販売されている。ここで開発されたエピタキシャル膜成長技術は汎用性が高く、すでにペロブスカイト型のいくつかの強誘電体、巨大磁気抵抗効果材料等の機能性セラミックス膜のエピタキシャル成長へ応用することにも成功している。熊谷氏は「グループの地道な努力と成果を評価していただいて大変光栄です。この方法では、卒論に来た学生さんが1週間もすると、ひとりで高Jcの超電導膜を作れるようになるんですよ。」 と述べている。

(超指揮者)



図1 : 塗布熱分解法によるYBCO膜の合成



図2 : 作製したエピタキシャルYBCO膜のJc - B特性 (a) 77 K, (b) 4.2 K.