SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

6. タークスヘッド加工により高均質Bi系多芯テープの開発
− ジュネーブ大 −


 スイス、ジュネーブ大学のFlukigerのグループは、従来の2段圧延加工によるBi系多芯テープ線とは異なるタークスヘッド加工による多芯平角線の開発をISS'96において発表した。

 従来のBi系多芯テープは比較的Jcが高く長尺製造に適したものとして広く研究開発が行われているが、その線材アスペクト比は10以上であり(厚さ0.2 mm、幅4 mm程度)応用機器の設計からは低アスペクト比の線材開発が望まれている。低アスペクト比線材はこれまでにも幾つかの機関で開発されてきているが、通常の圧延加工したテープ線と比較すると低いJc特性にとどまっていた。しかし、Flukigerらは多芯構造の改良とタークスヘッド加工の適用により、テープ線と同等のJc特性を持つ平角線の開発に成功した。

 多芯ビレットの構造は従来の単芯の6角素線を丸パイプの中に集合した構造とは異なり、単芯の四角素線を四角パイプに集合したもの(A)と単芯のテープ素線を四角パイプに集合したもの(B)である。これら2種類の四角ビレットをモター駆動式のタークスヘッドで加工し、図に示すような平角線(A),(B)を作製した。典型的な平角線(A)のサイズは幅3 mm、厚さ0.5 mm、平角線(B)のサイズは幅0.9 mm、厚さ0.6 mmである。ここで、タークスヘッドとは2組の2段ロールを垂直に配置した圧延機で、4ヶのロールで幅と厚さを同時に減少させることができる。通常の圧延テープ線のフィラメント硬さはテープ幅の端部で減少するが、タークスヘッド加工ではその減少を抑制することができた。



図 : タークスヘッドで加工したBi系線材の断面形状 左/平角線(A)、右/平角線(B)

 また、通常多芯テープのJc特性は全体で28kA/cm2,中央部で35 kA/cm2、端部で22 kA/cm2と変動が大きいが、タークスヘッド加工したテープ(A)のJcは全体で26 kA/cm2,中央で29 kA/cm2、端部で25 kA/cm2と変動が押さえられている。一方、平角線(B)のフィラメントは厚さ方向にも平行なフィラメントが配置されているため外部磁場の方向によるIcの異方性が通常テープ線より低減され、Jc特性としては20.5 kA/cm2を得ている。この手法により、フィラメント形態とJc特性の均一性を高めることができたとしている。 なお、この平角線の開発成果は、下記の論文
R. Grasso and R. Flukiger, Advances in Superconductivity VII(ISS'96) (1996) 835. 
R. Flukiger et al., Supercon. Sci. Technol. 10 (1997) A68.
G. Grasso and R. Flukiger, Supercon. Sci. Technol. 10 (1997) 223.
で報告されている。

 古河電工の宇野直樹氏によれば「低アスペクト比の線材でも加工方法を工夫することによりテープ線と同等のJc特性が得られることが実証された。これで、酸化物超電導線材を使用した電力機器の設計がより 現実的なものになっていくだろう。」とコメントしている。

(3M−honesty)