SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

4. Y-123線材の基板に新顔登場
− 日立製作所、京大 −


 (株)日立製作所日立研究所と京大工学部の研究グループは、Y-123など次世代線材の長尺化に有効な新しい基板を開発したと、東海地区超電導研究会(名古屋、7/25)で発表した。Y-123線材で高いJc値を得るには、超電導体層を基板の効果により結晶軸がきれいに揃った面内配向膜にする必要があることは、ご承知の通り。現在その基板としては、金属テープの上に結晶面が揃ったYSZなどの中間層を形成したものが主流で、その代表的なものにIBAD(フジクラ)、RABiTS(Oak Ridge NL)、ISD(住友電工)などがある。今回発表された基板は、外見上は何の変哲もない普通の銀テープであるが、テープ表面の銀原子が図(a)あるいは(b)のような規則的な配列をしているのが特徴。この銀原子の規則性がY-123の面内配向に特に有効とのこと。

 もともと同グループは、強加工を受けた金属材料が熱処理によって結晶方位を一方向に揃える現象に着目し、超電導膜を配向させるための基板開発を進めてきた。これまでにもTl-1223線材の基板として、やはり銀原子が図(c)のような"立方体集合組織"と呼ばれる配列をした銀テープを開発している(本紙Vol.4 No.11995に紹介記事)。立方体集合組織では、銀テープを構成する多結晶粒子のほとんどが{100}面をテープ面に平行に、かつ<001>軸をテープ長手方向に平行にして並んでいる。Tl-1223の場合、この銀テープ表面の原子配列に影響を受けて面内配向したTl-1223膜が得られ、磁場中でのJcが上昇することが確認されている。しかし、これまでY-123に対してはIBADなど従来の基板のような高い配向制御性が実現できていなかった。

 今回の結果は、銀の{100}面より{110}面の方がY-123の配向制御性が高いという点に留意して、{110}面がテープ面に平行に並ぶよう銀の組織制御技術を発展させたもの。これにより、形成できる銀の組織はこれまでの立方体集合組織({100}<001>)に、{110}<001>、{110}<557>を加え合計3種類となった。これらの銀基板は同グループによって"CUTE METAL"と命名されている。発表者の日立研究所藤原徹男研究員によれば、「 "CUTE"という名前は、もともと立方体集合組織(CubeTexture)をもじった社内のニックネームでしたが、今回開発した二つの集合組織と合わせて、希望に応じていろんな集合組織が作れる(Customized Texture)という意味も含んでいます。」とのこと。実際、3種類の集合組織はいずれも高い集積度を示しており、再現性も良好とのこと。共同研究者の京大工学部長村光造教授は、「金属材料の集合組織形成メカニズムは極めて複雑。その複雑さゆえに種類の異なる集合組織を制御できる余地があった。」とコメントしている。日立研究所では、立方体集合組織{100}<001>の銀基板については既に100m長さのテープ作製に成功し、Tl-1223線材への適用を進める一方、銀テープの無償提供をいくつかの研究機関に行っている。新たに開発した{110}<001>、{110}<557>についても量産体制が整い次第供給を開始したいとしている。

 Y-123の基板として銀の{110}面を使った研究は、これまで東芝や超電導工学研究所などからも報告されている。この6月にハワイで行われたISTEC/MRSWorkshopでも英国のグループが{110}<110>の銀テープを作製しその効果を報告していたのも、記憶に新しい。銀テープの長尺化に実績のある同グループがこの分野に参入してきたことで、今後のY-123線材の長尺化競争が面白くなる(面白くなって欲しい)、と言ったら少し不謹慎だろうか。いずれにしろ、Y-123超電導線材の開発には、基盤技術ならぬ "基板技術"が重要であることはだれしもが認めるところ、競争と協調の中からブレークスルー技術が生まれ出て欲しい。

(Cute Twin)



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