SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

3. 移動体通信用高温超伝導フィルタを開発
− 移動体通信先端技術研究所 −


 表面抵抗が常伝導金属よりも2桁以上低いことを利用して、高温超伝導体(HTS)のアンテナ、フィルタ、ミキサなどへのデバイス応用が活発に研究されている。移動体通信先端技術研究所(AMTEL)ではYBCO薄膜を用いて低損失、シャープスカートな移動体通信基地局用受信フィルタシステムを開発している。

 移動体通信で用いられる周波数は1〜3 GHzの準マイクロ波帯である。この周波数帯域でHTSの特徴である低損失性を活かした多段の平面フィルタを作製するには、基板サイズは数十mm角程度が必要となる。AMTELではターゲットと基板が直交しているオフアキシス型の直流スパッタにより40mm角MgO基板の両面に成膜した膜厚0.5μm±0.05μm、臨界電流密度 ≒ 2 MA/cm2、表面抵抗 ≦ 0.35 mΩ(10 GHz, 70 K)の均一なYBCO膜を用いて9段のチェビシェフバンドパスフィルタを設計・試作した(写真左)。中心周波数は2.6 GHz、通過帯域幅は34 GHzである。

 設計に当たっては、等価回路により結合係数を算出し、フィルタパターンレイアウトを作成したあと電磁界解析により最適化を行っている。この様な手法を用いてヘアピン型以外にも様々な共振素子パターンを設計している。フィルタパターンの加工は通常の半導体加工プロセスを応用し、フォトリソグラフィのあとArイオンミリングによってYBCO薄膜を加工している。この際に、パターンのエッジがArイオンミリングによって熱ダメージを受けて超伝導性が損なわれないように留意している。加工の終わったフィルタ基板は放射損の影響が少ない金属パッケージに実装している。通過帯域の損失は70 Kにおいて0.3 dB程度、リップルは0.1 dB以下であり、反射も-20 dB程度と低損失なフィルタが実現できている。耐電力性能についても3次相互歪みによるインターセプトポイントが70 Kで42 dBmと良好である。

 AMTELではHTS基板、フィルタ設計と加工、小型冷却器、電気的・熱的インターフェース等基地局用HTSフィルタシステムに必要な全ての重要要素技術を開発している。開発した小型冷却器にHTSフィルタ及びインターフェースを組み込んだのが写真右である。米国ではベンチャー企業がHTSフィルタシステムによりフィールドテストを実施している。AMTELではまだフィールドテストを行っていないがフィルタ性能ではそれらと比較しても遜色無いレベルにある。代表取締役常務の青木賢之氏は「HTSフィルタシステムが移動体通信の重要な基盤技術の一つになり得るには、最新のエレクトロニクス技術と最新のメカニクス技術が不可欠である。」とコメントしている。

(エべレスト)



写真1 : 9段バンドパスフィルタ



写真2 : フィルタシステム