SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

2. 酸化物超電導コイルの永久電流モードで1 Tの磁場を捕捉
− 日立製作所、日立電線、金属材料技術研究所 −


 ビスマス系を中心とした酸化物超電導線材の高性能化に伴い、その応用が真剣に検討され始めている。科学技術庁金属材料技術研究所(金材研)では、第2期マルチコアプロジェクト研究の一環として1 GHz級NMRマグネットに開発を進めているが、このようなNMRマグネットの技術課題の一つとして永久電流モードでの運転が挙げられる。最近では永久電流モード運転が可能な酸化物超電導コイルの開発も進められており、本誌でも紹介されているように、既にいくつかの研究グループがビスマス系超電導体を用いたソレノイドコイルを試作し、永久電流モード運転の実証に成功している。

 上記研究グループの一つでもある、金材研、日立製作所、日立電線の共同研究グループでは、この度、捕捉磁場と通電電流の向上を目指してコイルを試作し、運転試験を行った。その結果、液体ヘリウム中において、通電電流134 Aで約1 Tの磁場のトラップに成功し、さらにその状態から永久電流モードで116時間(4.2×105秒)の連続運転を行い、捕捉磁場の衰退を評価した。このループ回路の微小抵抗を仮定して捕捉磁場の減衰から回路全体の抵抗値を見積り、コイルの電圧一電流(V-I)特性を評価したところ、通電電流 < 40 Aの領域で急激なn値の増加が観測された。通電電流32 A時のn値 = 37は、上記の永久電流ソレノイドコイルも含めたこれまでの酸化物超電導コイルで得られている値に比べて約一桁高く、永久電流マグネットの実用レベルに達している。(現在J.J.A.P.に論文投稿中とのこと。)

 今回試作されたコイルは、Bi-2212銀シース線材を用いたダブルパンケーキコイルを4個積層したもので、サイズは、外径48 mm、内径17 mm、高さ44 mm。コイルの上部には、永久電流スイッチ素子として、やはりBi-2212から成る無誘導巻きシングルパンケーキコイルが置かれ、これら5つのコイルは、計5ヶ所で超電導接続され一つの閉ループを形成している。コイルの製作を担当した(株)日立製作所日立研の岡田道哉主任研究員によると、「コイルの形状をソレノイドコイルから、高電流密度が得られるダブルパンケーキコイルに変更し、そのために増加したコイル間の接続部分には、従来より開発を進めてきた突き合わせ法(本誌Vol.6, No.1(1997年2月)で紹介済み)による超電導接続を適用し、対処した。今回用いた超電導接続は、短尺試料レベルでは、IcのみならずJcに関しても線材本来に比べて遜色のない特性を示している。」とのこと。また、銀シース線材の製作を担当した日立電線(株)の佐藤淳一研究リーダーは、「接続部の良好な通電特性は、今回のような永久電流コイルの実現に不可欠であるのはもちろんのこと、コイルの大型化を容易にするメリットもある」と述べている。

 さらに、今回の成果に関して、金材研の熊倉浩明グループリーダーは、「捕捉磁場の向上はもちろんのことだが、それよりもむしろ、いわゆるコイルのIcに比べてかなり低い電流レベルでの値とはいえ、極めて高いn値が観測されたことに注目したい。今回のn値の変化は、ビスマス系線材特有の不均一な電流パスに起因している可能性がある。この不均一性の改善により、さらに高い電流レベルで同様の高いn値が得られるものと期待できる。今回の結果は、その可能性を示唆するという意味で興味深い」とコメントしている。

(KEI2)