東京大学工学部超伝導工学専攻 北沢 宏一
早いもので、超電導コミュニケーションズ(通称スーパーコム)が発刊されてはや5年となりました。この間隔月刊で超伝導コミュニティの話題を約1,500人の読者に届けて参りました。特段の予算もなく、ボランティア活動だけでやって参りましたので、いつ刊行が行き詰まるかも知れない状況でしたが、「石の上にも3年」と思っていたことが、いつの間にやら5年となりました。この間、バブルの崩壊と時期を同じくして、高温超伝導に対する期待感の喪失、多数企業の研究開発からの撤退を経験して来たところであります。初期は悲壮な覚悟でありましたが、徐々に投稿も増え、また、製品開発などのニュースのバラエティも拡がってきています。編集に携わる私達も「これなら高温超伝導が世の中から消え去ることはあるまい」と思えるようになったのはつい、3, 4年まえのことであります。
最近では高温超伝導実用化への立ち上がりの兆候かと思える記事も増えて参りました。とくに米国では超伝導企業の拡大投資、吸収合併のような動きもあわただしくなってきました。そろそろ「日経超電導」が再刊行される日を期待し始めている次第です。これまで編集は弱体でありましたが、超伝導開発に永年携われた古戸義雄氏が編集長に就任され(週に1回月曜日)、記事内容も充実して来ました。国際会議などに出席される方は、是非ジャーナリストとしてメモを取って頂き、帰国後、面白いニュースをお届け頂けると幸いです。
編集長 古戸 義雄
本誌は、今月号で発刊5周年を迎えました。まず発刊以来、読者の皆様から寄せられた暖かいご協力、ご支援に感謝し、厚くお礼申し上げたいと思います。さて、スーパーコム発刊5周年記念企画として"読者の声"を公募致しましたところ、早速予想を上回る多数の"読者の声"を戴くことができ、感謝、感激しております。
"読者の声"の全文を以下に収録します。お蔭様で、北沢先生創刊の情報誌"スーパーコム"の評価は高く、"自由な形式により価値ある情報を、タイムリーに提供するという本誌のモットー"も支持されており、我々関係者として心強く嬉しく思います。
超伝導の将来性についての明るい展望と本誌の使命についても多くの激励をいただきました。関係者一同これを励みに、本誌の一層の充実、発展のため、次の5年間を一区切りとして頑張りたいと思います。今後とも一層のご支援宜しくお願い申し上げます。
思い起こせば5年前に「日経超電導」が廃刊になるということで、関係者一同いささか暗い気持ちになっていました。フィーバーが過ぎ去っていくのは判っていても、現実をつきつけられるのは辛いものでした。
それでも長期的な視点に立てば、高温超電導の実用化は、未来社会に不可欠であり、いささかの遅滞も許されないと信じておりました。そこへ「スーパーコム」が発刊されて、大変うれしかったことを思い出しています。いろいろな事情でお手伝いできなかったのは残念ですが、東大北沢研究室の努力で、今まで続けられて来たことに深く敬意を表す次第です。
難しかった高温超電導体の研究も、10年を経過して材料としての感覚はほぼマスターし、いよいよ本格的実用化に取り組む時期に入り、今後5年間くらいに大きな山がくるものと予測しています。
ISTEC、超電導工学研究所は、産業界と一体となって研究開発を遂行する覚悟でおります。環境問題やエネルギー問題が世界的課題として浮上しつつある現在、超電導の重要性が再び認識されることを確信して全力投球するつもりでおります。「スーパーコム」が今後も継続され、いっそう充実されることを祈っている次第です。
過去をふりかえりますと、1950年代後半に見いだされた金属系超伝導体の開発は、1960年代はいわば揺籃期であり、線材等も初歩的なものでした。1970年代は、発展期に移り、極細多芯線が実用化され、応用もMRI、磁気浮上列車、大型加速器など当初予想しなかった分野に広がりました。その発展の鍵となたのは、作り易く使い易い材料の開発であったと思います。
銅酸化物系高温超伝導体も発見後10年を過ぎて、揺籃期から発展期へ移れるかの正念場にさしかかり、ここ数年間の研究開発が重要でしょう。現状では、例えば臨界電流密度や作製プロセスにもう一段のブレークスルーが必要ですが、充分その可能性を秘めていると思います。また、かつて磁性材料が金属系からフェライト系さらに希土類系とステップアップしたように、より単純で高性能の新物質の探究も期待されます。このように、わが国の研究者が一層協力を深めて超伝導体の発展につくさねばならぬ折から、スーパーコムの役割りも益々重要性を増しているといえましょう。
バブルがはじけ、日本における(世界的にも)超電導研究開発も、ともすれば衰退の道を歩もうとしていた当時の雰囲気をどうにか食い止め、一定の水準を維持している一端はスーパーコムの熱意と努力によるものと推察しています。
不勉強な私は、スーパーコム(日経超電導ともども)を通して超電導研究の動向や最新の情報を得てきました。特に、私達はBi系の特許審査(いつ最終審査が出されるのかは今のところ全く判りませんが)の資料として日経超電導の記事を極めて重要な証拠として大いに利用させてもらいました。 例えば「誰が一番先にBi2223相を同定したか」、当時の研究開発進展の時間的変遷等。
私も昨年4月、金材研から金研に移り、また一研究者にもどり、何とかしてBi系を窒素温度でも一人前扱いを受けるようにしたいと考骨にむち打ち努力しています。が仲々思うようには…。そんな時スーパーコムがいつも勇気付けてくれます。今後も刊行を続けて下さいますよう期待しています。
高温超電導酸化物のことを考えるたびに言葉の魔力とジョージ・オーエルの「1984年」のことを思い出します。
言葉の魔力のほうは、差し障りがあるのでオタカゼ(お他風)を引き合いに出しますが、低温核融合はやっと、そしてついに幕引きになりました。話題の種になるような反応の存在についてはいまも疑っていません。それを膨大なエネルギー密度に結びつけたり今にも可能だといういうように主張したりする姿勢は科学者、技術者のものではありませんでした。ユタから生まれたものは広大な砂漠の上に結ぶかげろうのようなヨタでした。そこから見ると高温酸化物超伝導体は立派なものです。いまにでも沢山の若い研究者を産み続ける胎土であるという価値は失っていません。
「1984年」のことはもういいですね。傍若無人に思えるほどに声高なキーワードだった2年、3年、5年、いや10年でさえもう過去のものになったのですから。こんどは「2005年」ですって?
超伝導・超電導の問題は理学的にも工学的にも、ただに磁場・磁界のからむ問題なんです。とくに工学的には磁界の技術的意義の問題です。若い人たちはこのことにもっと注意を向けてください。そして「酸化物の上に現れた超伝導性」の生かしかたと。どんなものでもちゃんと生きるにはそれを支えてくれるもの、いまの場合は材料(支持材料)と技術(支持技術)がいるのです。1957年のBCS理論以降の実用超電導の歴史は支持材料、支持技術の研究開発の歴史なんです。さて、この「酸化物の上に現れた超伝導性」について何かを考えるとき、人は酸化物に力点をおいてこの物質を見たらいいのでしょうか、それとも超伝導性に力点をおくのでしょうか。
たった、これだけの原稿を書くのにも高温超伝導をとりまく沢山のキーワードを使わなければなりませんでした。一人の研究者・技術者としても、また、一つの研究グループ、開発グループの一員としても、そんなにめくばりをできるものではありません。全くスーパーコムの存在はありがたいことです。話題が技術のことであれ科学的なことであれスーパーコムが生きてる限り高温超伝導の命脈が続いているということでもありましょう。ナガシマ巨人なんて明日無くなってもかまいませんがスーパーコムは永遠であってほしいものです。これがどうしてシェーンな気持ちですって?もう、書くスペースが無くなりました。
ところで、新編集長以来、応用がらみの記事に書生っぽい興奮が消えたのは結構なことです。もちろん、新発見、新合成ではおおいに興奮してください。
高温超電導が発見されてブームが起こった頃、財界の方々の集まりで話をしたことがあります。その時「"高温"というけれどもやっぱり冷やすのですか」といわれたことがあります。あれから10年経過たこの頃、「超電導も下火になったね」と周りの人から言われます。「超電導報道が下火になったということです」と答えています。科学技術を社会の皆様に理解してもらうことは大変難しい問題です。科学者もその一翼をになって、社会にわかり易く説明してゆくことの大切さを痛感します。
昨今、産業界の情勢はきわめてきびしく、研究開発資金は短期的なテーマに傾斜し、材料研究などは敬遠され勝ちです。こうした時期こそ、国の研究開発投資に期待する所が大きくなります。
超電導も10年間の研究がやがて終了し、次のフェーズにすすむことになります。今後は従来の基礎研究の上に立って実用を目標に輸送、エネルギーの各分野において適切なターゲットを設定し、研究開発が有効にすすめられるよう期待しています。
この際、産業界が求めているニーズと研究者のテーマとがマッチすることが大切です。わが国では、この両者が乖離していることがなかなか革新技術を創設できない大きな要因となっています。産業界も積極的に研究の現場を理解することと、研究者も実用化するための課題を発掘して研究をすすめることが大切です。少しでも実用の芽がでてくれば超電導界も元気が出てくると思います。
終わりに、スーパーコムの益々の発展と研究者の皆様の一層の進展をお祈りします。
現在では、長さ1000mを超える線材、これを用いた高磁場小型マグネット、30mを超える超電導ケーブルなどの開発が行われ、実用化への期待を高めております。将来の高温超電導システムを期待して、超電導発電機、SMESなどの機器開発も成果をあげつつあります。今後、これらの実用化を一層促進するためには、個々の装置の置き換えを考えるのみではなく、全超電導電力系統システムを検討し、超電導の特長を最大限にいかすことも考える必要があると思います。
高温超電導体が発見された当時は、一時の流行を追う場面もありましたが、もともと超電導の研究開発は、将来の地球環境保護やエネルギー危機に対応するといったスケールの大きい基盤技術としてのミッションがあり、この意味では着実な成果を蓄積してきたものと思われます。日経超電導廃刊は残念でしたが、ビジネスとしてはやむ得ないものであったと思います。そのあと北沢先生が、超電導研究開発の本来の任務を啓蒙されるため、スーパーコムを発刊された慧眼は大いに尊敬するところであります。その恩恵に浴した私達は幸運であったと深く感謝しております。しかも本誌が5年間も継続されており、その間の関係をされておられた方々の御努力は誠に敬服に値すると思います。今後とも、ご活躍をお祈り申し上げます。
幸い国家プロジェクトとしての高温超電導の研究開発も来年からフェーズUへの節目を迎え新たなステージに入ることになります。今までは、どちらかというとシーズ技術の開発を重視して進めて来たのですが、今後はどういう産業あるいはマーケットにこの技術がインパクトを与えるのか、その技術スペックをはっきりさせて、ブレークスルー技術にチャレンジしていくことが必要です。それには産業界ももっとコミットして、議論しながらいい展開をしていくべき時だと思います。研究者も研究するだけでなく、世の中の要求をどう受けとめるかが重要で、それがまた研究へのエネルギーになります。
エネルギーとエレクトロニクスは日本にとって生命線ですし、今後のグローバルなメガ・コンペティションの激流の中でどうやって日本のコンピタンスを構築していくかが大きな課題です。超電導は日本が世界をリードする技術分野であり、この点でも期待は大きいわけです。しかも、まだまだブレークスルーを要する技術が幾つもあり、とても民間だけでは新しい道を切り拓いていく力はないので、引き続き国の大きな支援を得て強力に推進していくことが重要です。そして、新しい時代の産官学協働の構築により力が結集されるとともに、材料屋、デバイス屋、システム屋が同じ土俵で知恵を出し、日本ならではのブレークスルー技術が生まれることを期待しています。
原理の発見から、応用にいたる道のりは、画期的な新材料や新デバイスの場合、一般に10年、20年、30年にもに及ぶ。この過程で、人間の知恵をしてゼロから有限への不連続的変化を遂げしめた初期の発見には、れにふさわしい栄誉が与えられる。その後、応用面で材料やデバイスを、一定の水準に立ちあげる過程は、準連続的で指数関数的な進歩の世界である。この進歩の過程を、その意味を含めてきちんと追跡し続けることは、実はあまり容易ではない。その動きだけに幻惑されることなく、それを常に周りの技術の進歩・変化と、社会の変化とに関係づけるダイナミックな観測を継続し、ある時に「ここでものにする」との判断をしなければならない。その見極めができる人達の中から、事業上の成功者が出る。その他の多くの人は、指標がしきい値を越えて線形関数的な変化に落ち着き始め、先駆的な応用の発表がなされてからようやく、新たな時代が到達したことを知るのである。
昔の諺に「急がば廻れ」と言うことがある。実用化を急ぐあまり基礎的な解明を怠っては決してならない。前例のない研究開発に従事するものとしては常に強い意識を持つべきであろう。
さて10年前の高温超伝導発見直後に吹き荒れた超伝導研究に対する追い風も、Tcの上昇が落ち着いてる現在では、残念ながらさすがに弱まってきたと言わざるを得ません。しかし、主流の風は弱まったものの、今後はあちこちに地面から力強い熱上昇風(サーマル)が発生してきました。着実な研究によって、新しい研究、応用の芽が育ってきているのです。線材、バルクの順調なプロセス開発とそれにともなう新しい応用開発、ジョセフソンプラズマなど新しい現象の発見とその応用、等々です。しかしサーマルの周囲には必ず下降流(シンク)が存在します。したがってサーマルのコアを的確に据えて、それをはずさずにより高く到達するフライト技術が今後は研究者に求められているのです。かつてのように黙っていても自然に強い風が押し上げてくれるという訳にはいきません。何が重要な研究なのかを適切に把握して、さらに効率的にその研究を行っていく必要があります。
私はそのために今後重要なことは、研究の連携だと思います。今までは国内の研究機関が互いに競争しながら、良い意味でのライバル意識を持ちながら成果を挙げてきました。しかし、行政改革が叫ばれている現在、研究にもより効率化が求められるのは必定で、場合によっては役割分担ということも念頭に入れなければなりません。一つのサーマルコアに大勢のフライヤーが集まると、衝突して墜落する危険性が出てきます。予算要求などもこのことを踏まえて、互いに連絡を取り合いながら、場合によっては共同での提案等を行っていく必要があると思います。そのためにも、スーパーコムの情報は今後大きな役割を担っていくものと期待しております。
スーパーコムでは世界各地の新しい動きをタイムリ−に紹介されており、上記のような方向性を探る上で、大変役に立つ情報源となっております。今後とも最新の情報をご提供下さることを期待し、発刊に当たっておられる方々の御健闘をお祈りいたします。
超電導に関し全ての分野に渉って,酸化物超電導体も金属系超電導体も,さらに基礎も応用も含めて最新の情報を集めておられるのは大変なご苦労だと思い,大いに敬意を表する次第です。
超電導は21世紀のキーテクノロジーだと思います。世紀末の世の中,何となく閉塞感がある昨今ですが,明るい来世紀を迎えるためにも,超電導の将来に期待するところ大であります。事務局の皆様の献身的な活動に感謝申し上げると共に,スーパーコムの一層の発展を祈ります。
その役割を十分に果たしているのが、本「スーパーコム」であると、この5年間の実績から、感謝を込めて確信している。小生の場合、ある程度、超電導の具体的な応用技術開発に関係していたことから、より高度な利用価値の動向にもっぱら関心を持ち続けてきている。今後も国内外の関連した情報を提供して欲しいと考えているが、この期待にきっと応え続けてくれるものと確信している。
私は「超電導は21世紀に花開く夢の技術である」と信じる一人です。本誌は、超電導の夢が綴られた、夢日記に喩えられるかもしれません。本誌に綴られた多くの夢を正夢にすることを目指し、今後も超電導技術の開発に不断の努力を惜しまぬ決意です。5年にもわたる関係者のこれまでのご苦労をお察しいたしますと共に、今後も本誌が、世界に誇れる日本の超電導情報誌として、ますます御発展することをお祈りいたします。
できれば各項目を1) 実用(応用)面、2) (物理、化学といった)やや学問的な面 等とに分類して頂けたらと感じます。内容については、時流にのった内容であり、その時期その時期の先端的な内容、一般の読者に関心のあることが掲載されておりますので、これからも続けて頂けたら・・・と存じます。
また最後頁の"本号の項目"は見やすいですし、研究会等の会告の欄は是非とも掲載を続けてほしいです。(なお贅沢を言っては申し訳ないのですが、各Volume毎に、マスターインデックスの類があればと存じます。) 更には折角ですから、ホームページを作りPDF file形式とかでダウンロードできるようにすれば、少ないコストでより多くの方々が目を通すことができるのでは・・・と存じます。その場合、紹介する図等が他の論文誌、雑誌に掲載されている場合は、著作権の問題があるとは、思いますが…
さて、超電導を離れて別の分野(鉄鋼)におりますが、この世界でも電磁力利用(連続鋳造の電磁攪拌など)は行われています。この中で、先端を走るためにも超電導の状況を知ることは役立ちます。多分、フィーバーの時期を過ぎて私のように超電導を離れた方も数多いと思いますが、超電導の分野にいたことで、多くの方と知り合い、また最先端技術分野の研究開発を経験できたことに感謝し、せめてもの恩返しできることといえば、これまでの超電導の知識、このコミュニケーションズでの最新情報などをもとに、微力ながら現在の分野で超電導の利用を考え、推進することではないかと思っています。今後の超電導分野の発展を祈念します。
研究者でない我々にとっては、毎号の記事の内容はとても高度で理解できないものも多いのですが、超電導研究が「今」どの方向を向いているか、世界の超電導研究の「今」はどうなっているのか、国内のどこでどのような研究が「今」なされているのか、といった最新の動向は、ほとんどスーパーコムで得ています。研究者以外でも参加できるマルチ参加型の総合情報誌として末永く続いていかれることを心から期待しております。
21世紀と言えば、ちょっと前までは何もかも悲観的にしか考えられなかったのですが、最近はほのかな希望が芽生えてきました。核戦争の危機が遠のいたとか,世界の人口増加率が予測を下回っていると言ったマクロ動向もさることながら,もっと現実的なところで二つほど小さな楽しみを感じています。
一つは,ディジタルテレビです。パソコンとテレビが融合した新しいメディアで,まもなく米国で実用化が始まります。このインテリジェントな放送システムにはインターネットも融合するでしょう。全世界のテレビに買い換え需要が発生する,と言った経済効果に加えて、付帯するさまざまな放送サービスが新しい産業を産み出し,私たちの日常生活を大きく変えてくれそうです。
もう一つは,電気自動車です。技術的な課題は着実に解決され,10年後には格段に低価格で性能のよい電気自動車が市販されているとのことです。無公害であることに加え,夜間電力が使えたり総合エネルギー効率がガソリン車より高いことなどから,手詰まりのエネルギー問題に解決の糸口を与えてくれそうです。とくに電気をフローでなくストックで使うという文化は,太陽光発電や風力発電のようなソフトエネルギーの再認識にもつながるでしょう。
この楽観論が本当なら,21世紀の最初の数十年は久しぶりに技術主導型の経済成長が見込めそうです。慢性的な不況に悩んでいる先進資本主義国には、ちょっとうれしい話です。もっとも、私が楽しみにしているのは、そうした経済効果より,これらの第二世代の製品が私たちの世界観にどんな影響を及ぼすのだろうかということです。
ディジタルテレビによって画一的な情報の垂れ流しは忌避され、価値観の多様化が進むでしょう。専門性の高い情報へのアクセスも容易になり,衛星238チャンネルではスーパーコムが提供する超電導国際会議のニュースが無料で見られるかもしれません。電気自動車と太陽光発電は,社会を自然と調和した文明へとうながし,エネルギー産業や大企業の支配力を弱めるでしょう。
前半の50年は帝国主義的な侵略戦争に明け暮れ,後半の50年は工業化と自然破壊に突き進んだ20世紀に代わり,次の世紀は一段ハイレベルな社会が創造されるでしょう。そしてもし,2007年にもう一度,室温超電導が見つかりかけたとしても,その時にはどこかの国の大統領が演説をしたり,通産省と電力会社が開発組合を作ったり,新聞社が高額のニュースレターを発行したりということはきっとないでしょう。自然の神秘を尊敬する科学者の人たちや、私たちのようなサイエンスファンの市民たちだけの間で、静かなフィーバーになっているのではないでしょうか。
しかし、今日、この物質の発見をきっかけに新会社を設立し活動中の企業はあるものの、開発の主流は従来の金属系超伝導材料を手がけていた所に戻ったとは言えそうです。超伝導は相変わらず儲けの少ない分野なのでしょう。現時点の超伝導は、病院のMRI診断装置か近い将来の磁気浮上式列車がかなり見近な応用例になるのであろうが、これとて国民大多数にとっては日々の生活に必要不可欠なものではない。しかし、室温超伝導が発見されると事情は一変するに違いない。といったような、夢を楽しみながら、現実に戻っては、材料屋としては、せめて液体窒素温度で安上がりで安心して使える高性能酸化物超伝導線材の開発に成功したいと、研究を半ば趣味と決め込んでピッチを挙げている。そして、今まで貴重な情報を数多く掲載してくれた「超伝導コミュニケーション」の記事種として協力できればと望んでいる。
5年もの間、高いレベルを維持しつづけられた編集スタッフその他の関係各位の努力に敬服と感謝の意を表します。
この5年間で高温超伝導をめぐる情勢も変化しつつあります。最も深刻なことは、基礎と応用の対話が日毎になくなっているように思えることです。 (私自身、応用サイドの人たちから度々そう聞かされます。)私事になりますが、前の職場(超電導工学研究所)で私が学んだことは、ひとつの新物質(物性)が世に出るまでには非常に多くの才能が必要だ、ということでした。私の想像以上に基礎と応用の対話は大切だったのです。高温超伝導の研究がさらなる発展を遂げるためには、異分野の研究者とどれだけ真剣に対話ができるかにかかっているのではないでしょうか。スーパーコムが超伝導に携わる人々への情報発信だけでなく、基礎・応用・その他の異分野の人々をつなぐ架け橋としていっそう発展することを期待いたします。
スーパーコムもホームページに掲載されるようになったことですし、メーリングリストや電子掲示板などを通じて、リアルタイムの情報交換の場を作ってみたらいかがでしょうか? (運営される方々の苦労を無視した、かなり無責任な提案ですが)。
少ないスタッフの中で、これだけの発刊部数と記事の内容、量ともに確保することは、非常に大変な仕事ではなかったかと思います。特に、超伝導の研究は、日本ばかりでなく、世界各国に広がっており、最新の研究情報を得ることは、非常に難しいものです。貴誌は、この意味においても重要な役割を果たしてきたと思います。一時のブームを経て、高温超伝導の研究は現在難しい時期にさしかかっています。この中で、情報によって活力を注ぐことは、研究者を励まし、次の目標に向かって進ませるために重要なことです。これからも重要な情報源としての役割を果たしていただきたいと願っています。
近年の酸化物関連の研究を評して、「着実な研究」という言葉に接する事が多くなりました。「着実」とはどういうことだろうと最近良く考えています。
日本の自動車産業は円高の荒波を経てもなお世界に於いて圧倒的な競争力を誇っています。ここでの「着実」とは何でしょうか。ショルームで高級スポーツカーが人の目を惹くのに貢献はしても、それは所詮一部止まりです。主力の大衆車でのたゆまぬ競争力強化がここでの「着実な」歩みだったと思います。
超電導においても、今後の広範な展開を期するには、まず従来の金属系材料をベースとした大衆化が重要だと思います。地味であっても金属系を中心とした着実な動きも積極的に本誌に採り上げられ、超電導の大衆化への媒体として今後も貢献される事を期待します。これが、ひいてはまだまだスポーツカー的立場にとどまっている酸化物の実用化と大衆化を加速する事につながるのだと思います。
スーパーコムは、超伝導の研究活動の最新情報(しかも正確かつ詳細な情報)を得る場として今では我々研究者には欠かせないものとなっています。また、Superconductor Weekを通して、世界の読者にも有効な情報を与えていると思います。 今後も頑張って、末永く刊行を続けて下さい。
冒頭から少しペシミスティクになってしまったが,最近流行りのプラス思考で今後の展望を考えると,超電導でしか実現できない分野がある限り需要がある訳で,まだまだ"線材屋"で食べていけるのではないかと踏んでいる。特に,化石エネルギー枯渇問題に関連して核融合炉関係の需要が近い将来には急増してくると予想している。その早期実現,即ちエネルギー問題解決のために微力ながら貢献できればと思っている。
最後に,スーパーコム誌には,それまで食いつなぐためにも新規応用分野開拓のトリガーとなる関係記事の積極的な掲載を期待する次第である。