SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 5, Oct. 1997.

1. 高温超伝導単独コイルで7 T磁石完成か
− 住友電工・科学技術振興事業団 −


 高温超伝導がついに強力磁場の発生においても完全に実用化の域に到達した。本誌6月号(vol.6,No.3)で紹介されているように、住友電工は科学技術振興事業団の開発委託により、冷凍機直冷式の20 K作動型ヘリウムフリー高温超伝導磁石を試作し、世界最高の4 Tを達成していた。いくつかの信頼できる筋からの情報によると、その後、住友電工はこの磁石の高性能化に成功し、7 T以上の磁場発生が可能になった模様である。また、励磁特性にも極めて優れ、7 Tまで3分余で到達できているという。この発生磁場はHTSCコイルにより得られるものとして、また、この励磁速度はヘリウムフリーとしての世界最高である。室温ボア径が50 mmと大きく、そのまま実用品として委託元の磁気科学研究室に納入されると見られている。住友電工は、まだこの成果を公表できないとしているが、今月末に岐阜市で行われる国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)主催のシンポジウム ISS '97, International Symposium on Superconductivityでの発表は濃厚だ。

 現在、液体ヘリウム(4.2 K)温度で汎用に使われているニオブ合金超伝導磁石の標準型は3 T程度から10 T程度で使われている。20 Kという高温での7 T磁石の実現は、高温超伝導でなければ実現できないもので、これまで多くの開発機関が努力目標としてきた課題であり、その達成は歴史的なマイルストーンと言えるだろう。一方、通常のヘリウムフリー超伝導磁石は磁場を上昇させて行く(励磁)のに相当な時間をかけないとクエンチングという事故を起こす。しかしながら、20 Kでは熱容量が4 Kに比較して、一桁以上も大きいために、また、臨界温度までのマージンが大きいために、7 Tまで3分余という高速励磁が可能となった。これは、磁場をオンオフさせながら使いたいユーザーにとっては大変に便利な特性といえる。現在のところ、この性能はまだ十分に試験されたものではなく、さらに高速励磁しても大丈夫である可能性も残されているようだ。これは、高温超伝導磁石の魅力を増す大きなファクターとみることができよう。現在、JRのリニアモーターカーは5 T程度のヘリウム冷却の超伝導磁石を用いているが、今回のような磁石が使用可能となれば、周辺の冷却装置などが小型・軽量化できるため、リニアの将来に明るい因子を与えるものと思われる。

 この磁石を見たことがあるという人からの情報によると、磁石の大きさは風呂桶を小さくしたような楕円形をしており、上部から小型冷凍機が取り付けられている。必ずしも正確ではないが、高さは台の上に載って150 cm程度、径は60 cm程度の印象であったという。また、磁石はビスマス2223系線材を24個程度のパンケーキで構成しているものと見られている。

 スーパーコム編集長の古戸義雄氏は「大変に嬉しいことだ。今回の成果は、超伝導業界のビッグニュースであるだけでなく、高温超伝導史上マイルストーンを画すものと言えよう。今後、液体ヘリウムレスで高速励磁可能な特徴を活かしたHTSマグネット応用が急速に進展するだろう。詳しい成果の公表を期待したい。」とコメントしている。

(Prof. K)