現在、液体ヘリウム(4.2 K)温度で汎用に使われているニオブ合金超伝導磁石の標準型は3 T程度から10 T程度で使われている。20 Kという高温での7 T磁石の実現は、高温超伝導でなければ実現できないもので、これまで多くの開発機関が努力目標としてきた課題であり、その達成は歴史的なマイルストーンと言えるだろう。一方、通常のヘリウムフリー超伝導磁石は磁場を上昇させて行く(励磁)のに相当な時間をかけないとクエンチングという事故を起こす。しかしながら、20 Kでは熱容量が4 Kに比較して、一桁以上も大きいために、また、臨界温度までのマージンが大きいために、7 Tまで3分余という高速励磁が可能となった。これは、磁場をオンオフさせながら使いたいユーザーにとっては大変に便利な特性といえる。現在のところ、この性能はまだ十分に試験されたものではなく、さらに高速励磁しても大丈夫である可能性も残されているようだ。これは、高温超伝導磁石の魅力を増す大きなファクターとみることができよう。現在、JRのリニアモーターカーは5 T程度のヘリウム冷却の超伝導磁石を用いているが、今回のような磁石が使用可能となれば、周辺の冷却装置などが小型・軽量化できるため、リニアの将来に明るい因子を与えるものと思われる。
この磁石を見たことがあるという人からの情報によると、磁石の大きさは風呂桶を小さくしたような楕円形をしており、上部から小型冷凍機が取り付けられている。必ずしも正確ではないが、高さは台の上に載って150 cm程度、径は60 cm程度の印象であったという。また、磁石はビスマス2223系線材を24個程度のパンケーキで構成しているものと見られている。
スーパーコム編集長の古戸義雄氏は「大変に嬉しいことだ。今回の成果は、超伝導業界のビッグニュースであるだけでなく、高温超伝導史上マイルストーンを画すものと言えよう。今後、液体ヘリウムレスで高速励磁可能な特徴を活かしたHTSマグネット応用が急速に進展するだろう。詳しい成果の公表を期待したい。」とコメントしている。
(Prof. K)