SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

7. ネオジウム系超電導体の米国基本特許を取得
− 超電導工学研など −


 超電導工学研究所、(財)鉄道総合技術研究所、四国電力株式会社及び東ソー株式会社(発明者 : 村上雅人、劉相任、坂井直道、高市浩、田中昭二)は、高温超電導体の中でも加工性、安定性、表面平滑性に優れ、しかも臨界温度や強磁場中の臨界電流密度などの基本性能に優れたNd系高温超電導材料の基本特許を米国において取得した。

これまで高温超電導物質としては国際的にY系物質の研究開発が先行しているが、その基本特許は米国が取得する予定である。超電導工学研究所はOCMG法により、基本組成Nd1+xBa2-xCu3OyにおけるBaとNdの置換を抑制したNd系超電導体の作製に成功し、(財)鉄道総合技術研究所、四国電力株式会社及び東ソー株式会社と共同で日・米・欧に特許出願していた。この物質は臨界温度や強磁場中の臨界電流密度などの超電導特性ばかりでなく、実用化のために不可欠な加工性、安定性、表面平滑性などの諸性能がY系に比べ優れているため、超電導バルクマグネット、超電導線材、超電導素子などの応用研究は、今後Nd系を中心に進められる公算が大きく、高温超電導体の商業化を加速するものと期待されている。

 超電導工学研究所では、OCMG法を開発し、高性能のNd1+xBa2-xCu3Oy超電導体の合成に成功し、その基本構造がY系とは異なることを明らかにした。その後NdサイトをSm, Eu, Gdなどで置き換えても同様に優れた特性を示すことを明らかにした。本特許には、これらの系も含まれる。この物質を用いた超電導バルク磁石は、液体窒素温度においても高磁場で高臨界電流密度を有するため、将来は液体窒素冷却で3 T以上の磁場を発生する磁石開発が可能と予想されている。

 また、最近の研究により、高性能Nd1+xBa2-xCu3Oy超電導体は、OCMG法によらずに出発組成の工夫により大気中でも作製できることが明らかになっており、大量生産も可能となった。

 超電導工学研究所第五研究部長の森下忠隆氏は、「この物質の超電導薄膜を作製し、超電導デバイスへの適用を研究している。Nd系超電導薄膜は表面の凹凸が1 nm程度にとどまり、酸素分子が離れて表面が劣化しがちなY系より極めて平滑であり、表面を多層に積層する超電導多層回路などの超電導デバイスに最適である」と語っている。

 発明者の一人である村上雅人氏にいくつか質問をぶつけてみた。

1. Nd123はすでに公知の物質であるが、今回の特許は、なぜ取得できたのか?
「特許の第一のポイントは、BaがNdサイトを置換した構造の存在にある。XPSなどのデータを示して審査官が納得した。また、特許にはNdがBaサイトを置換した領域が微細分散した物質も含んでいる。これにより、臨界電流密度の高い試料が得られる。実際には、この構造が重要である」

2. 審査官はすぐに納得したか?
「NdがBaを置換するのであれば、その逆も簡単に起こるのは自明ではないかと審査官は考えていたようだ。ただし、文献にそのような報告例がないこと、また、酸素分圧が低く、高温で合成してはじめて生成できた相であることを、いろいろな実験結果を示し、最後には米国特許庁まで出かけてインタビューして納得していただいた」

3. この特許の意義は?
「Y系については、まだ特許を誰が取得するか決まっていない。Nd系についてはISTECが取得したことで、企業も安心して応用開発に取り組めると思う」 。

(田町ひっこしのS)