SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

5. Y系薄膜線材の研究動向


 銀シースBi系線材を用いたマグネット、限流器、変圧器、電力ケーブルなどの応用開発と共に、現在のBi系線材よりも高温、高磁場で使用可能な次世代線材としてY系の薄膜線材は、我が国が先んじて開発を進めてきたが、2年ほど前から米国でも注目され研究が盛んになってきている。米国ではエネルギー省主導で薄膜線材の戦略委員会が設置され、開発計画が検討されているほどである。

 Y系線材では粒界弱結合の観点から単結晶に近い面内配向膜が必要であり、これをいかにして達成するかが重要である。7/28〜8/1に米国のポートランドで開催されたCEC/ICMC97においては、薄膜線材の特別セッションが設けられ、日米欧から15件の最新成果の発表があった。IBAD法については、高温超電導線材に本手法を最初に適用したフジクラ、ロスアラモス国立研究所、大面積化に適用したドイツのシーメンス他のグループ、RABITS法についてはオークリッジ国立研究所、IGCなどから発表があり、成膜の手法もレーザーアブレーション、電子ビーム蒸着、CVDなどが試みられている。この分野は前述のように日本が一歩先んじてきたが、米国においてもロスアラモス国立研究所で1 m級の線材が作製されるようになった。ただ1 m級線材では特性のばらつきがまだ大きい。

 また、長尺化に必要な成膜速度の向上が種々議論された。IBAD法は面内配向中間層の高速成膜に課題があるが、従来多く用いられているイオンビームスパッタ法から、高速化を狙った電子ビーム蒸着法なども試みられるようになってきた。RABITS法は基板そのものが面内配向しており、中間相、Y系超電導層とも、レーザーアブレーションなど高速な成膜手法が採用されるようになってきた。さらにRABITS法ではこれまで数々の組み合わせの多層膜が試みられてきたが、面内配向基板上にCeO2、YSZを中間層として順に成膜し、YBCOを成膜する構造が標準的になってきた。

 一方、新たな面内配向の手法として、ISD法(Inclined Substrate Deposition法)と呼ばれる、面内配向中間層をレーザーアブレーション法で高速に成膜する手法が住友電工と東京電力のグループから報告され、IBAD法、RABITS法に次ぐ第3の手法として注目されている。通常の成膜ではターゲットと基板が平行に配置されるが、ISD法は基板を傾けるだけで面内配向が実現できる。これまでISD法による面内配向のメカニズムがはっきりしていなかったが、今回、Self Shadowingメカニズムが同グループから提案され注目を集めた。

 平行配置では2層目以降の粒子はランダムに堆積できるが、Self Shadowingメカニズムでは、粒子が斜めに飛来してきた場合、2層目以降の粒子の堆積方向が制約を受けるというもので、基板垂直方向が結晶学的に決まる(YSZでは(001)方向)ことと併せて成長方向の2軸が決まるため面内配向すると説明されている。

 また、他の手法においても面内配向の機構が詳細に検討されるようになってきており、これらの面内配向機構に関する理解が進めば、高速成膜、線材の長尺化に関する研究開発もさらに加速されるものと期待される。

(ソロイグミ)