SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

4. 大型ボア酸化物ソレノイドコイルの永久電流モード動作で
0.2 Tの磁場トラップに成功
− 神戸製鋼所、金属材料技術研究所 −


 (株)神戸製鋼所と科学技術庁金属材料技術研究所は共同して、直径62 mmの実用サイズのボアを有する永久電流スイッチ付き酸化物ソレノイドコイルを製作し、4.2 Kにおける永久電流モード動作を行って、丸1日が経過した後も0.2 T以上の磁場をトラップすることに成功した。

 最近になって、酸化物超電導コイルにも永久電流スイッチを付加し、これを永久電流モードで動作する試みがなされるようになってきた(編集部注 : 本誌前号でも東芝の試みを紹介している)。昨年、本誌(Vol.5 No.4 1996.10)でも紹介されたように、神戸製鋼所と金属材料技術研究所は、酸化物線材同士を超電導接続したBi2Sr2CaCu2Ox(Bi-2212)ソレノイドコイルにより、4.2 Kにおいて約0.01 Tの磁場を永久電流モードで発生させることに成功している。しかし、この時のソレノイドコイルは、線材全長が約30 mと短く、ボア径も10 mm程度と小さいものであった。しかもこの時には、線材長手方向の臨界電流密度の分布が大きい単芯の線材が使用されていた。

 しかし今回製作されたコイルは、長さ約400 mの1本の多芯Bi-2212丸線材を用いて巻線され、直径62 mmの大型ボアを有する。もちろんコイル内部には接続部は存在しない。また、押出し・伸線等の線材作製の全ての加工は、工場における金属系超電導線材加工設備を用いて行なわれた。従って、今回確立した技術を適用することにより、実用レベルの長さ(〜10 km)を有する線材の作製も可能であるという。

 神戸製鋼所では以前から、大型ボアを有する酸化物ソレノイドコイルの製作を試みてきたが、巻線部内層と外層で臨界電流密度に大きな差が生じるという課題が残っていた(低温工学 Vol.31 p435, 1996)。この課題についても、多芯線材の適用と熱処理条件の改良により、今回は線材全長にわたって均一な特性を有するコイルを作製することができた。

 製作したコイルの写真を図1に、諸元を下表に示す。図1のコイル上部に見える突起部分は永久電流スイッチである。本コイルは、この永久電流スイッチを含めてワインド&リアクト法で製作された。図2にはコイルボア中心部に発生した磁場の永久電流モード動作時間依存性を示す。1回目の測定では発生磁場を0.4 Tから、2回目では0.5Tから行っているが、途中の時間(〜103 sec)から両者の結果は重なっている。このことは、103 sec以後における再現性が確認されたことを意味している。共に、丸1日(86400 sec)経過後も0.22 Tの磁場をトラップしている。また、丸2日(172800 sec)経過後にも0.17 Tを保持している。

 縦軸が発生磁場の対数である図2において、直線的に発生磁場が緩和していることから、今回の永久電流モード動作では全回路中に有限の微小抵抗(1×10-7Ωレベル)が残存することがわかる。ソレイドコイルと永久電流スイッチは、2箇所の超電導接続部分で接続されているが、これらの部分で微小な抵抗が残存していることが判明しており、この点はこれからの課題である。

 全回路中のこの抵抗値は、市販の核磁気共鳴(NMR)用超電導マグネットの永久電流モード動作時の常電導抵抗値に比較してまだ3桁程大きい。しかしながら、今回の結果は、実用サイズのボアを有する酸化物ソレノイドコイルの永久電流モード動作の可能性を実証したものと言え、NMR用酸化物超電導マグネットの実現に向けて大きく前進した。

(H)

連絡先 : 株式会社神戸製鋼所開発推進センター超電導グループ 長谷隆司、林 征治
〒651-22 神戸市西区高塚台1-5-5 Tel:078(992)5652 Fax:078(992)5734

表(コイル諸元)

巻線外径 : 116 mm
巻線内径 : 68 mm
クリアボア径 : 62 mm
巻線部長さ : 128 mm
線材全長 : 388 m

図1 永久電流スイッチを備えた大型ボア酸化物ソレノイドコイルの外観

図2 永久電流モードにおける発生磁場の時間変化(縦軸は発生磁場の対数)