SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

3. 高温超伝導サンプラーの研究でベストポスター賞
− NEC基礎研日高氏ら 国際超伝導エレクトロニクス学会(ISEC97)で −


 1997年6月25日よりドイツ・ベルリンで開催された 国際超伝導エレクトロニクス学会(ISEC97)において、デバイス分野163件のポスター発表の中からNEC基礎研(つくば市)の、日高睦夫、寺井弘高、佐藤哲朗、田原修一氏が発表した高温超伝導ジョセフソン素子を用いたサンプラー回路による超高速電気信号波形測定回路の開発とその実証研究に対して、ベストポスター賞が授与された。

 ジョセフソン回路を用いる高速シグナル計測器はその有用性を指摘されながらもこれまでヘリウム冷却を必要としたことから広汎な実用化に至っていなかった。今回のNEC基礎研の成果は、従来困難とされてきた多層高温超伝導集積回路を卓越した接合形成技術と独自の積層構造を用いて実現するなど、高度な技術展開をもとに成し遂げられたものであり、出席者からも絶賛を受けた。これにより、未来計測技術として注目されてきたサブピコ秒の超高速電気信号の計測がランチボックス程度のサイズの小型冷凍機冷却で可能になることが予想され、1987年に低温超伝導体を用いて製品市販を試みた米国Hypres社の夢が現実のものとなりそうだ。

 「高温超伝導のエレクトロニクス応用として研究を行っているサンプラー回路の製造方法と動作実験結果について述べたものである。高温超伝導グランドプレーンを接合上部に配置することで接合特性を劣化させることなく配線インダクタンスの低減に成功し、またin-situプロセスにより再現性、均一性に優れたランプエッジ接合を作製することができた。その結果、50Kという高温でサンプラー回路を用いた波形再現に成功した」というものである。

 詳細はApplied Physics Letters, Vol.70, 2690 (1997)、IEICE Transactions (1997年10月超伝導デバイス特集号) などに発表され、未踏科学技術協会発行の新超伝導材料研究会NSMFニュース No.62 (1997.6.15)に解説記事がある。

 研究に携わった日高氏らは「再現性のよい接合をつくることと配線インダクタンスを下げることには苦労したが、in-situプロセスと上部グランド構造で見事に解決できた。超伝導サンプラーは、ピコ秒オーダーの高時間分解能とマイクロボルトオーダーの電圧感度を同時に実現する唯一の計測器であり、今後の実用化に期待が大きい。高温超伝導のエレクトロニクス応用の分野で大きな前進といえるであろう」とコメントしている。

(スーパーウッズ)