SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

2. 東芝が超電導マグネット用のクーラーボックスを開発
− 極低温を従来の一万倍の時間にわたって保持 −


 (株)東芝は液体ヘリウムや冷凍機を一切用いずに超電導マグネットを長期間にわたって極低温に保持するためのクーラーボックス(開発製品名 : クライオサーモス)を開発した。このクーラーボックスを用いることにより、常伝導の電磁石と全く同等の簡便さで超電導マグネットが使えるようになるため、今後超電導マグネットの普及が一段と促進されることが期待される。

 このクライオサーモスは冷却対象の超電導マグネットを、初期においてそれと同一温度にまで冷却したN枚の独立した断熱層(MSI : マルチシェルインシュレーション)で囲む構成となっている。常温雰囲気に近い外側のMSIから順々にゆっくり温度上昇することにより、最内層の超電導マグネットの温度は長期間にわたって極低温に保持される。多重等温断熱層MSIの熱容量、重ねる枚数などを最適に選ぶことにより超電導マグネットを数ヶ月以上にわたって臨界温度以下に保つことも可能となる。

 写真に示したのは高温超電導バルク材を液体窒素温度(絶対温度77K)以下に保持するための小型のクライオサーモスである。このクライオサーモスは小型の極低温冷凍機を用いて高温超電導バルク材と3層に重ねた厚さ1mmの銅板製のMSIをあらかじめ予冷しておくだけで、一日近くにわたってバルク材を臨界温度以下に保持することができる。写真は永久磁石製のレールの上を、バルク材を納めたクライオサーモスが浮上走行している様子を示している。

 高温超電導体は液体窒素温度で超電導状態となるため、従来の液体ヘリウムを用いる超電導マグネットに比べてより簡便に使えるものと期待されている。しかし液体窒素を頻繁に補充しながら使うのではあまり実用的とはいえない。一方、小型の極低温冷凍機で高温超電導体を冷却する方法は今後広まっていくと考えられるが、将来的には冷凍機の電気代や信頼性などが問題となってくる可能性がある。高温超電導体用のクライオサーモスは、初期の予冷時を除いて液体窒素も冷凍機も一切用いないため、小型、安価、使いやすいなどの特徴を持ち、今後高温超電導体を用いたマグネット、センサーなどの実用化を一気に促進するものと考えられる。さらに、多重等温断熱層MSIの初期の冷却温度は液体窒素温度のみならず、液体ヘリウム温度(4.2K)以下に至るまで自由に選べるため、液体窒素温度で使用される高温超電導マグネットやセンサー類のクライオサーモスから、今後はリニアモーターカーやMRI(磁気共鳴を用いた断層診断装置)用に実用化されている液体ヘリウム温度で使用する超電導マグネットまで幅広い応用が見込まれる。

 同社は1993年に従来の液体ヘリウムを用いて冷却を行っていた超電導マグネットに対して、新開発の磁性蓄冷材を用いたGM(ギフォード・マクマホン)極低温冷凍機のみで直接冷却する方式のマグネットの実用化に成功している。これにより、超電導マグネットの大幅な小型化、操作の簡略化、価格の引き下げなどを達成し、現在この方式のマグネットは広く利用されている。今後極低温のクーラーボックス(クライオサーモス)中で超電導マグネットが使えるようになると、マグネット運転のための極低温冷凍機が不要となる上に、マグネットのサイズもほぼ常伝導の電磁石と同等までに小型化できる見通しである。また価格もよりいっそう低下できる見込み。

(クライオメイト)