SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

12. HTSフィルタ/レシーバの実地テスト進む
− ISC社、Conductus社、SCT社、STI社 −


 過去何回か本誌に取り上げたように、高温超伝導体(HTS)を用いたフィルタ/レシーバの開発及び実地テストの進展はい。今回、米国4社の最近の進展状況を紹介するが、それに先立ち、その背景を簡単に解説しておきたい。

 多くの企業がHTSフィルタ/レシーバの開発に集中する第一の理由は莫大な需要見込みにある。現在、米国のセルラー電話基地数は25,000といわれ、1年以内に30,000、10年以内には50,000に増加すると予測されている。各基地局では最低6ヶのフィルタが必要である。さらに将来はPCS(Personal Communication System)の需要が附加されるだろう。1〜2年の内に、PCSの基地局数は全世界で70,000、10年内には恐らく140,000に増え、各基地局では最低12ヶのフィルタが必要といわれている。

 第二の理由は、HTS技術が従来のCu技術に比し非常に優れていることである。例えば、HTSレシーバの雑音レベルは従来技術に比し低く、従ってレシーバの範囲を拡大でき、1つの基地が受け持つ区域が拡大するからである。またHTSレシーバのもう1つのメリットは、冷却器を考慮してもなお小型であり、都市部など基地局のサイズや場所の制約が厳しい所では時間が経つと共に、この有利性がより重要になるだろう。第三の最も基本的なメリットは、HTSフィルタの選択性が優れ且つ低損失であることで、この有利性は電磁波のスペクトルが混雑している時(どこでもそうであるが)には決定的である。

 ISC社(Illinois SuperconductorCorp.)のJ. Hodge主席研究員は「当社のフィルターは従来技術に比し、適正周波数帯域外の干渉に対して数桁強い。ACS社(Ameritech Cellular Services)による実地テストにおいて、当社のフィルターは従来フィルターに比べ、帯域外のノイズ低減能力は1万倍で、音声信号の感度は35%高いことが実証された」と語った。Conductus社は、ウイスコンシンのCellcom社の4つの基地局で進行中のフィルタ/レシーバ 「Clear Site」実地テストについて中間報告を発表した。

 Cellcom社のJ. Lienau技術部長は、「HTSフィルタ/レシーバを採用することにより、1基地局が受け持つ区域がどれだけ拡大できるかを判定する1つの方法は、通話の脱落割合を見ることと考えている。

 Conductus社の超低ノイズ型レシーバを採用した基地局での観測結果は、基地局の通話脱落率が20%へ減少したことを示している。この統計的に有意の脱落率低減は全ての電話に対して記録し、週ごとにフィルタ/レシーバの運転と停止を切り換えて確認した。4つのシステムは過去数ケ月順調に作動している。このシステムは本フィルターをプラグに差し込む方式で設置が容易である」とコメントしている。

 また、Conductus社は同社最初の塔設置型多チャンネル式レシーバ/トランシーバフィルタを試験目的の為、LT社(Lucent Technologies)のベル研究所へ納入したことを明らかにした。本サブシステムは共同開発契約の下での2番目の納入であり、PCS基地局向けに超伝導フィルタ/冷凍機冷却型増幅器の製造を目指すものである。このサブシステムは、同社の小型スプリフト型の前面固定式発信器/受信器基台を利用しており、16極レンガ壁形フィルタを内蔵する最初の塔設置型製品である。

 Conductus社のC. Shalvoy社長は、「LT社との共同開発に並行して、PCS運用会社との共同事業を追求していきたい。彼等は、帯域外干渉の低減や通信容量の向上、サイズ及び重量低減を要する場合、超伝導式の発信器/受信器のメリットを最も評価してくれるからである」とコメントしている。

 SCT社(Superconducting Core Technologies)は、最近の実地テスト成功に引き、30台の同社製NTSレシーバ「Reach」を米国内外の20の顧客へ納入したと発表した。実地テスト結果は、6 dBの感度改善、基地局によってはそれ以上の改善効果を示しているという。同社のR. Yandrofsky社長は「実地テストの結果、本システムは、基地局の受け持ち範囲を50 %拡大できることが判った。もはやプロバイダーは従来ほど多くの基地局を建設する必要はなく、数百万ドルの資本コストの節約になるだろう」と語った。

 最後は、STI社(Superconductor Technologies Inc.)からの報告である。同社のSuper FilterをCWW社(Carolina West Wireless)が実地テストした結果、以前弱かった数ヶ所の0.6 WのHandy Phoneに対しても通話サービスを提供できることが判明したという。CWW社のM. Rankhorn技術運用部長は、「Super Filter」の設置により、従来の弱信号区域に対してもサービス範囲を拡げることが出来た。これによりシステムの全使用率は10%向上することになる。我社の技術者によると「本システムは小型で、設置も15分以内にできるほど容易である。'97年には、Super Filterの実地試用を拡げていきたい」とコメントしている。

 以上、米国の4社によるHTSフィルタ/レシーバ開発及び実地テストの進展を紹介したが、我が国でも移動体電話向けのHTSフィルター開発プロジェクトが昨年遂にスタートした。今後の国産勢の健闘を期待すると共に、近い将来その成果の発表を望みたい。

(高麗山)