SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 6, No. 4, Aug. 1997.

1. 高い実効臨界電流密度を有する高温超伝導線材開発
− 古河電工 −


 古河電気工業株式会社はBi系酸化物高温超電導体を用いた世界最高の実効臨界電流密度銀シース多層テープ線材を開発した。この研究は、通商産業省工業技術院ニューサンシャイン計画の一環として新エネルギー・産業技術総合開発機構から委託を受け超電導発電関連機器・材料技術研究組合の研究テーマとして実施してきたものである。

 今回試作された銀シース多層テープ線材は一般に行われている多芯構造の銀シーステープ線材とは異なり、銀シース内の酸化物超電導体が細いフィラメントではなく同心円状に多層構造になっている(図)。このような構造のため銀比(線材中の銀の体積/超電導体の体積)を小さくでき、多芯線材と比較して線材全断面積当たりの実効臨界電流密度(Je)を高くできるという特徴がある。

 一般の多芯線材では上記銀比が2〜4と大きいため、酸化物超電導体当たりの臨界電流密度が高くても、線材全断面積当たりの臨界電流密度は1/3から1/5に減少するのが通例であった。ちなみに、数百m以上の長尺線材においては、従来銀シース多芯テープ線材の酸化物超電導体当たりの臨界電流密度(Jc)は20,000〜25,000 A/cm2、線材全断面積当たりの実効臨界電流密度(Je)は6,000〜7,000 A/cm2である。

 これに対して今回開発の多層線材では銀比が1.3と小さいため、酸化物超電導体当たりの臨界電流密度は液体窒素中で21,300 A/cm2であるが、線材全断面積当たりの臨界電流密度は9,270 A/cm2の世界最高値に達した(表)。

 通常、酸化物超電導線材では酸化物超電導体当たりの臨界電流密度でその線材特性を評価することが多いが、線材の実用上からは線材全断面積当たりの臨界電流密度が高いことが重要である。これは酸化物超電導線材を用いて作製するコイルやケーブル等の機器のサイズは線材全断面積当たりの臨界電流密度によって決まるからで、これが高いと機器をコンパクトに設計することが可能となる。また、コスト的にも安くなる。 銀シース多層テープ線材は外側に銀シースを有する構造のため、一般の銀シース多芯テープ線材と同様に伸線・圧延などの加工によって数百mの長尺線材とすることが可能であることが実証された。Bi系酸化物高温超電導体を用いた機器としては、線材全断面積当たりの臨界電流密度は10,000〜15,000 A/cm2が目安とされているが、その値にもう一歩のところまで来ており、今後、電力ケーブル、限流器、変圧器、冷凍機冷却型マグネット等への応用が期待される。

Width and thickness : 0.16 mm and 2.9 mm
Silver vs SC ratio : 1.3
Critical current (Ic) : 43.0 A
Critical current density (Ic) : 21300 A/cm2 (at 77 K, self field)
Engineering Jc (Je) : 9270 A/cm2 (at 77 K, self field)
Length of the wire : 300 m

表 高Je Bi-2223線材の仕様

図 上 : 圧延前 下 : 圧延後 Jc = 9270 A

 この線材の開発を担当している三村正直主任研究員は「線材全断面積当たりの臨界電流密度が10,000 A/cm2クラスになり、実用化に一歩近づいた。今後更に高臨界電流密度化、長尺化を進め、この多層線材の優位性をコイル等の機器要素モデルで実証していきたい」と話している。  なお、この研究成果は6月15日から18日にかけてハワイで開催されたISTEC/MRSワークショップにおいて発表され、コンテストの線材部門で受賞した。

( NU )