SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 1

偏流防止対策を施した超電導ケーブル通電実験で交流損失が1/10に低減することを確認 〜 古河電工・東京電力

 高温超電導体を用いて電力ケーブルを実現するためには、二つの技術課題を解決しなければならない。第一は超電導ケーブルの長尺化であり、第二は交流損失の低減化である。長尺化については、本誌Vol.5, No. 2(1996.5)に既報のように、国内では住友電工と古河電工が第一段階として50m長の電力ケーブルを開発し米国ではASC社とPirelli 社が同じ50m長のケーブルを共同開発している。一方、交流損失については住友電工、ASC社 等いくつかの測定例が発表されているが、損失は何れも高く、交流損失の低減化が大きな課題となっていた。
 このほど古河電工は東京電力との共同開発により、偏流防止対策を施した新しい通電方法により従来の超電導ケーブルに比し、交流損失を1/10に低減することに世界で初めて成功したと、その成果を10月札幌で開かれたISS'96で発表した。
 この報告によると、同グループは、今年Bi 2223 相の銀シーステープ線材を用いて50m導体を製作した。この導体は、ステンレス製のフレキシブルフォーマ上に、複数本のテープ線材を螺旋状に10層巻き付けたもので、多層化することで導体の通電容量を2000A級とした。しかしながら同グループによると、多層積層した導体に交流電流を流すと、交流電流は、導体の外層に集中して流れ”偏流現象”が生ずる問題があった。これは、各層の自己インダクタンス・相互インダクタンスの差により生ずるものである。また、偏流現象が生じた導体の交流損失を測定すると、交流損失は交流電流の3乗に比例して、1200Armsで約3W/mの交流損失が生じることがわかった。
 これに対して、同グループは導体の端部を図1に示すように各層毎に切り出して、それぞれに電流リードを付け、加えてインピーダンス調整用の抵抗器をつけることで、各層の電流を均一化した。この導体の交流損失を測定したところ、図2の●で示すような交流損失となり、1200Armsで0.3W/mであることがわかった。同グループは、さらにこの交流損失のメカニズムも解明している。これによると、各層の電流を均一化した導体は、電流均一化モデル(Uniform Current Distribution model: UCD-model)と称するモデルでその電流分布・磁界分布を表わすことができ、その場合のヒステリシス損失を解析的に求めることができる。この解析によると、導体に流れる交流電流を増やしていくと、交流損失は電流の3乗に比例していたのが、1乗に比例する傾向が強まることがわかった。その結果、電流を均一化した導体の交流損失は1/10に低減することになる。
 実際の超電導ケーブルでは、彼らの実験のような抵抗体をつけることはエネルギー損失からみて得策ではないが、発表者によるとリアクトルでもインピーダンス調整ができるとのことである。 今回の開発に対して東京大学仁田旦三教授は「高温超電導送電ケーブルは、素線の多層化を図る必要があるため、金属系では余り問題とされなかった電流偏流現象がごく最近問題となってきた。偏流抑制対策を施すことによって、交流損失が非常に小さくなるとの実験データを得たことは損失とその対策の観点からその成果は非常に大きい。今後、電流密度の向上、長尺化の課題に加え、実用的な偏流抑制対策が図られることが期待される」とコメントしている。

図1.  Structure of the joint

図2. AC losses of the 50m HTS conductor


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