SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.6 December, 2014


≪会議報告≫     2014年秋季低温工学・超電導学会報告      (20141157@コラッセふくしま)


Bi系線材】

Bi2223については線材・バルクで4件、超電導ケーブル関連で6件、超電導マグネット関連で10件、デバイス関連で1件の報告があり、多岐にわたって活発な議論が行われた。以下の講演概要が聴講した範囲に限られる点をお赦しいただきたい。

住友電工からNi系合金を補強材に用いたType HT-XXの機械特性に関する報告があった。Pre-tensionの最適化によって補強材厚み35 mにおける引張強度は500 MPa以上に達し、許容曲げ径は30 mmまで改善している。東大・住友電工・NIMSのグループでは、性能向上の一環として住友電工製テープ材に対して熱処理条件の探索を進めており、今回は2次焼成温度と酸素分圧の最適化に関する報告がなされ、比較的低い酸素分圧35kPaのもと810815°Cで焼成することで最も高いIcが得られるとしている。(Bi,Pb)2223薄膜の研究でもNIMSなどのグループより近況の報告があった。単層膜では焼成温度が低い場合CuOの凝集が、焼成温度が高い場合は分解に伴うBi2201AECが増加するなどJc低下要因が明らかになっている。また、Bi2212-CaCuPbO多層構造による (Bi,Pb)2223作製にも着手している。東大・ティーイービー・住友電工のグループは、前駆体粉末の粉砕過程や焼成条件の粒間Jcへの影響について報告した。粉砕過程を経ず焼成温度を844°C854°Cのように2段焼成すると、Bi2223結晶粒の粗大化を伴わず単相が得られており、残留磁化法で見積もった粒間Jcは粒界密度が高いにも関わらず飛躍的に向上する傾向を示した。プリカーサの状態や熱処理条件によって粒界の性質を変えられる可能性を示唆している。

東北大に設置する25 T無冷媒マグネットへのDI-BSCCO適用が検討されている中、東北大と東芝のグループよりType HT-XXを用いたコイル設計検討結果が示された。Type HT-XXを使うと起磁力が4%、電流密度も27%改善できるとしている。ただし接続抵抗が大きくなる点が懸念材料に挙げられており、接続長500 mmのコイル状スプライスを検討しているとのことである。理研と千葉大のグループからは1.2 GHz-NMR磁石に関する報告があった。従来のBi2223インサートコイルでは線材の強度不足によりコイルサイズが大きくなる問題があったが、Type HT-XXの開発によって1/2にコンパクト化できるとしている。別の講演では実際にType HT-XX線材21ターン × 6積層コイルを17 Tのバックアップ磁場下で励磁した結果が示され、0.1 mV/cm相当の電圧発生時のフープ応力は441 MPaに到達している。Type HT-XXを用いることで従来よりも200 MPa高いフープ応力に耐えられることが実証された。上智大・理研・JASTECNIMSのグループからは、NMRの磁場均一性向上の課題に対して、内層HTSコイルに誘導される遮蔽電流が及ぼす、超伝導シムコイルによる磁場補正効率への影響を実測した結果を示し、1.2 GHzNMR磁石における設計負荷率(58%)では超伝導シムコイルだけでは補正効率が僅か4.3%と小さいため鉄シムによる補正も不可欠であるとの見解を示した。またこれとは別に、最近のJc向上を受けてBi2212丸線を用いた400 MHzLTS/Bi2212NMR磁石の製作をH27年から実施するとしている。同グループからはこれに関連して、外層LTSクエンチにより内層HTSコイルに誘導される電流による熱暴走挙動の調査結果を報告した。Bi2223内層コイルの場合、コイルIc300%まで通電しても熱暴走は起こらない結果を示し、Bi2223N値が比較的小さいことが高い負荷率まで耐える要因の一つと考察した。住友電工の山口より、船舶用20 MW級モータ向け超電導コイルの1極を模擬した実機サイズコイルでのクエンチ保護条件を調査した結果が示された。電流減衰時定数とクエンチ検出電圧をパラメータとしてクエンチ保護条件を調査した結果が、小型のモデルコイルの結果と良く一致しているとのことであり、実機サイズでも本手法がクエンチ保護に有用であることが明らかとなった。また、これまで使ってきた非磁性フランジよりも磁性フランジの方が電磁力を利用して冷却効果を高められることから、クエンチ検出電圧を高くしてもコイル保護が可能であることを報告した。鹿児島大のグループより、高温超電導コイルを利用したリニアスイッチトリラクタンスモータ(HTS-LSRM)の開発について報告があった。プレス機や射出成型機の動力にこれを用いればモータの推力増進とコンパクト化を図ることができ省資源化に向けて有望な手段となる。報告では6突極構造を持つ鉄心とBi2223コイルで構成される1次コイルと鉄心のみで構成された4突極2次コイルを作製し、HTSコイルに印加される磁束密度分布や線材Icが磁束密度の変化から見積もった解析結果と一致しているとし、設計が妥当であることを示した。

住友電工より、現在開発中の発電機引出線向け大電流ケーブルに関する報告があった。超電導ケーブルには大電流容量を担保するため超電導シールド層を省略した構造を採用する。二相短絡電流通過時にケーブルコアに誘導される電磁力がコアの特性劣化を引き起こす懸念があるが、短絡試験を実施した結果ケーブルコアの健全性が確認されたとのことであった。中部大からは石狩PJについて進捗が報告された。回線1 (500 m)と回線2 (1 km)のうち回線1200 m側冷却が完了している。その後接続部などの施工が行われる見通しも示された。九工大の松下は、超電導体の縦磁界効果を利用した超電導ケーブルの電流容量を検討した結果について報告した。単層ケーブルの試作では電流容量の増大を既に確認しており、3層構造においてもシールド層が作る縦磁界によって13.2%電流容量が増大する解析結果が示された。鉄道総研からは、電力システム合理化・省エネルギー化を目的とした超電導直流き電ケーブルの開発について発表があった。これまで30 m級鉄道用超電導き電ケーブルシステムによる試験結果においてケーブルシステムの健全性を確認しており、走行試験にも成功。今後300 m級き電ケーブルによる走行試験・耐久性試験を行う計画が示された。中部大のグループは、直流ケーブルのIcを上げるため素線が作る自己磁場の垂直成分を低減できる線材配置を検討し、逆相の電流を流すことに加えて電磁鋼板を用いることで30 A以上Icが向上することを明らかにした。東北大のグループは、電磁誘導電力伝送装置へのHTSコイル適用を検討しており、今回は既存のCuコイルとBi2223コイルとで伝送特性を比較検討した結果を述べた。Cuコイルより低抵抗となる共振周波数は25 kHz以下であり、伝送効率を測定した結果Cuコイルの2倍以上の伝送効率が得られている。

ケーブル・マグネットにHTS線材を適用させるためのメリットや技術的課題が矢継ぎ早に明らかとなる中、Bi2223線材のポテンシャルが改めて着目され始めている。今後益々の線材特性向上と機器応用の進展がなされることを期待する。(住友電工 菊地昌志)

                               

 

Y系線材】

名大からはPLD法薄膜に関して4件の発表があった。吉田らは、BaHfO3 (BHO)を添加したSmBCO薄膜のピンニング特性について報告した。通常のPLD法よりも、低温成膜手法(LTG)を用いて作製した薄膜のほうがBHOのナノロッドが約4倍高密度に導入されることを明らかにした。また、BHO添加量を増やすほどJcの平坦領域の終端磁場が強磁場へシフトすることを報告した。浅野らは、引張応力を印加した状態でBHO添加および無添加のGdBCO薄膜を成膜し、特性の変化について報告した。BHO無添加膜では外部応力の有無による影響が見られなかった一方、BHO添加膜では外部応力を加えることで高磁場下のJcが改善した。石川らは、BHOナノロッドに加えて層状のBHO層を交互に導入したハイブリッド型の人工ピンについて報告した。ハイブリッド型ピンを導入することで特に低磁場においてB // ab方向のJc特性だけでなくJcminも改善し、Jcの異方性が低減することを示した。渡邉らは、Seed層を成膜後にLTG法で基板温度をステップ状に昇温または降温しながらUpper層を成膜しBHOナノロッドの成長過程を調べた。BHOナノロッドの成長は、基板の温度変化パターンによらず初期に形成されたUpper層でのBHOナノロッドの数密度に依存することを明らかにした。兵庫県立大の岡井らは、YBCOテープ線材用の基板として{100}集合組織を有するFe金属基板の作製を試みた。98%冷間圧延と800°C, 1 hの熱処理を組み合わせることで部分的ではあるが{100}集合組織の形成に成功した。電中研の一瀬らは、Goss方位({110}<001>) に配向したFeテープ上に2軸配向したカルシア安定化ジルコニア, CeO2および二軸配向したYBCO層を順に積層させることに成功しており、その断面微細組織について報告した。このYBCO層のJc~4×104 A/cm2と低い理由として、成長初期にY2O3が生成していることを断面観察から明らかにした。京大の土井らは、純Cuを圧延と熱処理で配向させ基材テープとして使用し、中間層を導電性物質で形成することができれば安定化層の形成が不要になり大幅なコスト低減が可能になることを提案した。実際に作製した線材にJc以上の電流を流すと、電流は導電性中間層を通って純Cuテープに流れていることが分かり、低コストY系線材の作製の可能性を示した。九工大の木内らは、PLD法、MOCVD法およびTFA-MOD法で作製したY系線材について、縦磁界を含む磁場中でのJc特性の変化を報告した。作製法の異なる複数の線材の特性を比較することにより、縦磁界効果によって優れたJc特性を得るための条件について議論した。東大の元木らは、フッ素フリーMOD法を用いてClドープおよびClSnHfの共ドープY123薄膜を作製し、その超伝導特性について報告した。Clドープによって結晶性が改善しJc特性が向上するとともに、角度依存性からc軸相関ピンの導入が示唆された。さらにClと不純物の共ドープによって角度依存性が大きく低減することを明らかにした。また、Clドープを行うことで成膜温度を下げることが可能であることを示した。名大の山垣らは、液相を介した結晶成長法であるVapor-Liquid-Solid成長法を用いてLaBCO薄膜を作製した。用いる基板によって大きくTcが異なっており、この原因として基板との格子のミスフィットが結晶格子を歪ませていることを挙げた。今後バッファー層を導入するなどして歪みを緩和することが高Tc化に向けた課題である。熊本大の古木らは、GdBCO線材に対して270 MeV Xeの重イオン照射を行い、c軸に対して15°-75°の交差した柱状欠陥を導入し、Jcの角度依存性を評価した。交差角が広い柱状欠陥を導入した試料では、広い印加磁場角度の範囲で高いJcを示したことから、柱状欠陥の交差した部分が点状ピンのように作用している可能性があると考察した。(東京大学 元木貴則)

 

 

Y系バルク】

Y系バルクの作製や着磁に関する発表は口頭で6件、ポスターで1件あった。東大の太田らはCaドープがY123溶融凝固バルクのa-growth領域のサブグレイン境界におけるJc特性改善に効果があることを報告した。東大の山木らはY123バルクへのSrの微量添加と還元ポストアニールの組合せ、及び、原料粉末へのボールミル処理がJc特性改善に有功であることを報告した。東大の瀬戸山らは、微細原料粉末の使用およびCIP成型の導入によるY123バルク内のボイド縮小に伴うJc向上機構を考察した。新潟大の下田らはGd123バルクを用いて正・逆方向それぞれから行ったパルス着磁を比較した結果、逆方向からの着磁によりバルクの侵入磁場が増加したことを報告した。足利工大の五十嵐らは、Gd123バルクに細孔を開けハンダを充填させることで着磁中の温度上昇のピークが低下することを報告した。足利工大の戸ヶ崎らは、Gd123バルクに開ける細孔を大きくすることで着磁時の磁束侵入量が増加し、捕捉磁場も向上したことを報告した。ポスターセッションでは芝浦工大の小林らが、樹脂含浸での補強の有無によるGd123バルクの複数回着磁時における最大捕捉磁場の変化を報告した。

着磁特性や機械的強度の解析に関する発表はポスターで3件あった。東大の横山らは、Y系バルクに細孔加工を施した場合の3次元数値解析モデルから、細孔の位置がバルクの中心に近いほど磁束の侵入が容易となることを報告した。鉄道総研の赤坂らは、大型のリング状バルクの中心部における捕捉磁場分布を冷凍機冷却により評価し、77 Kでは1 T程度であった磁場が50 Kでは2 T程度となったことを報告した。北科大の槌本は、円盤状のバルク材の内部の応力分布について、バルクの外径の固定が充分という境界条件の下での計算結果を示した。

応用に関する発表も複数あった。新潟大の金井らは、バルクを対向させて並べた場合に均一な磁場分布を作り出すために、仮想的に2つの渦巻きコイルを対向させることによって均一性の高い磁場空間に必要な条件を計算した結果を報告した。理研の仲村らは、リング状のY系バルクを用いて作製したNMR/MRIにおいて、通常のNMR装置でも用いられている室温シムコイルを導入し、NMRMRIの高分解能化に成功したことを報告した。新潟大の岡らは希土類永久磁石を着磁する際に、REバルクの磁場を回転子に対してその外周面内を軸方向に走査することで製品性能と同等の着磁に成功したことを報告した。八戸高専の佐々木らは超伝導バルクに鎖交する磁束密度を操作することで磁気浮上力の向上に成功したことを報告した。また足利工大の横山らは超伝導バルクの強磁場化や着磁の簡便化を目指し、スターリング冷凍機を用いたパルス着磁専用の卓上型バルク磁石装置を開発し、試料表面で2.8 T、磁極表面で1.3 Tの着磁に成功したことを報告した。京大の紀井らは、超伝導バルクをアレイ方式に配置することによりバルクへの誘導電流による漏洩磁束を利用したアンジュレータ等の応用可能性を提案した。鉄道総研の福本らは、超電導ケーブルの冷却システムにおいて、冷媒の循環ポンプには低温部に軸受が必要となることに着目し、リング状のY系バルクを用いて試作した磁気軸受の荷重実験の結果について報告した。横浜国大の山岸らは、回転子にY系バルクを用いた場合、変動磁界によって発生する交流損失がバルクに与える影響について測定した結果を報告した。磁気軸受セッションでは、鉄道総研・古河電工らが、超電導コイルと超電導バルクを用いた超電導フライホイール用超電導磁気軸受の開発について報告した。(東京大学 瀬戸山結衣、山木修、太田仁孝)

 

 

MgB2

MgB2関連の3つのセッションが組まれ、発表数は10(口頭発表8件、ポスター発表2)であった。液体水素冷却下におけるMgB2線材の特性や液面センサーへの応用、またバルク磁石の高捕捉磁場化などに関する研究報告がなされた。

まず線材、薄膜に関する発表について報告する。東大の水谷らは焼結温度を変えて作製したex-situMgB2について、焼結温度が500-800ºCでは密度は変化せずに粒間結合が生成する一方で、900ºC以上では粒子同士が凝集して緻密化し、900ºC付近を境に焼結反応の支配的な機構が異なることを報告した。NIMSの葉らは多環芳香族炭化水素のコロネンを用いたカーボンコートホウ素粉末を使用したMgB2線材について発表した。融点の低いコロネンを用いることで均一なカーボンコートホウ素粉末が作製でき、Icの値のばらつきが小さい均一な特性を有する線材の作製が可能であることを報告した。京大の茂田らは、液体水素冷却下における拡散法MgB2線材の臨界電流特性について報告した。I-V測定より、電流値を増加させるとある電流値で急激に電圧が上昇し、また外部磁場により臨界電流値が小さくなっていくことを確認したと発表した。神戸大の井上らは液体水素液面センサー用のMgB2線材の均一性を評価した。1.7 mの線材から切り出した2 cm長のサンプル2種の電気抵抗率の温度依存性を比較すると、その傾向に違いが見られ、線材内に特性の分布があることが示唆されたと報告した。産総研の馬渡らはMgB2ナノストリップを用いた分子イオン検出器について実験値と数値シミュレーションの比較結果に関して発表した。単一分子検出の応答時間は400 ps以下と高速であり、また時間依存Ginzburg-Landau方程式と熱拡散方程式を用いたシミュレーション結果は実験結果と良い一致を示したと報告した。

次にバルクに関する発表について報告する。東大の杉野らは、原料粉末の微細化によりMgB2の粒径制御を行ったMgB2バルク磁石で中心磁場として5 Tを超える値を7 Kにおいて達成し、クリープ特性についても報告した。岩手大の吉田らは、TiドープMgB2バルクの焼成温度を前回の報告の900ºCから700ºCに変更し、Tiドープの効果を明らかにしようとした。焼成温度の変更により捕捉磁場は変わらなかったが、900ºC焼成でできていたTiB2とは別の物質が生成しており、この物質の解析が待たれる。岩手大の遠藤らは、SPS法で作製したMgB2バルクの原料粉末の混合時間による特性の変化について報告した。混合時間の増加とともにMgB2の粒径が小さくなりJcが向上したが、600 min混合した試料ではMgOが増加したためコネクティビティが低下し、Jcが低下した。岩手大の望月らは、同心円状のMgB2バルクのパルス着磁における磁場均一性について報告した。同心円状のバルクを用いることで周方向に電流を限定し、着磁の際に大きな熱が発生するパルス着磁においても高い均一性を持つ磁場分布が得られた。鉄道総研の石原らは、MgB2バルク磁石の捕捉磁場分布を報告した。捕捉磁場分布は対称的なコーン型分布となっており、表面中心から径方向、高さ方向に離れるにつれ、系統的に磁場が低下した。(東京大学 杉野翔・水谷俊介)

 

 

A15線材】

 A15線材に関する発表は1セッション、6件あった。このうち4件はNb3Sn線材に関するもので、3件は機械的特性に関する話題、1件はNb3Sn線材の開発に関する話題であった。また筆者からNb3Alに関して2件発表した。Nb3Snの生成に関する研究がかなり熟してきたせいか、発表件数が少ない割には幅広いトピックのセッションとなった。

 1件目は応用科研の長村氏からで、ITER用線材の歪み依存性に関する国際ベンチマーク試験において研究機関ごとで印加歪みの絶対値にずれがある問題について、線材内部に生起する局所歪みの観点から議論された研究結果が報告された。本研究では中性子回折法を利用し、熱歪み及び格子歪みを総合的に考慮して検討がなされており、ずれの問題を解明する上で大きな手掛かりになり得る。

 東北大の大村氏からは、R&W法でコイル製作した場合の曲げ歪みとJc特性との関係性について、事前曲げ処理の影響を考慮して検討した結果が報告された。線材には古河電工製のCuNb補強Nb3Sn線材が使用されている。事前曲げ処理の影響でJc-ε曲線がずれ、事前曲げ処理のない線材のJc-ε曲線と交差する結果が示されている。コイル設計に役立つ有益な情報だろう。

 東北大の渡部氏は、CIC導体内の素線変形と電流分布に関して、特にキンク変形による特性劣化現象について、素線軌跡をもとに検討している。素線軌跡は梁モデルから計算し、その配置から素線間で構成されるループの循環電流を求めている。さらに循環電流から電磁力を求め、それによる変形量を求める手法である。まだデータが十分ではないが、実際の変形量と解析結果のオーダーが合うことから、電磁力によるキンク変形も原因の一つになり得る可能性がある。

 神戸製鋼の川嶋氏からは、分散SnNb3Sn線材の実用化開発について報告があった。基本的には内部スズ法と同じであるが、Snを分散させている。今回、実製品規模である50 kg級長尺線材の製作を行い、量産工程にも対応できることを確認した。

 Nb3Alに関する1件目の発表は、銀バリア線材の伸線加工性と超伝導特性に関してであった。銀を含む複合バリアは、これまで用いていたTaに代わり、加工性を確保しつつフィラメント間磁気的結合を抑制するのが目的である。銀は急熱急冷処理時の超高温状態にさらされても、隣接するNbと全く反応せず、バリアとしては非常に有効である。また加工性も優れており、今回実規模レベルでの試作において無断線での伸線に成功している。

 Nb3Alに関する2件目の発表は、ピンニング特性に関わる話題で、結晶内部に存在する結晶欠陥の構造をHAADF-STEM(高角度環状暗視野操作透過電子顕微鏡法)を用いて原子レベルで観察し、3次元的に構築した結果が報告された。(物質・材料研究機構 伴野信哉)

 

 

【超電導応用】

回転機セッションでは、10 MW級の洋上設置風力発電機を目指した検討について発表が3件あり、回転子に高温超電導コイル+鉄芯を適用したダイレクトドライブ発電機では線材量(25 km)、磁場強度(鉄芯部:約1.5 T)、電磁力(径方向:約6 kN, 周方向:約4 kN)が現実的なレベルで設計可能なことが報告された。また高温超電導、銅線、永久磁石の界磁機を比較し、空隙磁束密度、クライオスタット重量、発電機重量、発電機効率において高温超電導界磁が優れていることを定量的に解析するとともに、一段増速機で回転速度を10倍にしても総合発電機重量はほぼ変化しないという報告があった。その他、IPM モータの永久磁石を超電導バルク体で着磁する手法について報告が1件あった。

ケーブルセッションでは全部で約15件の発表があり、交流ケーブルでは従来の三芯一括構造のケーブルだけでなく、応用先に応じて三相同一軸型ケーブル、単相型ケーブルを対象に、直流ケーブルではPN同軸型ケーブルにおいて、短絡事故時の挙動や長距離化に向けた検討の報告があった。石狩PJから石狩湾新港地域での断熱管の敷設について、鉄道総研から30 m300 m級ケーブルを用いた車両走行試験について報告された。また基盤技術として電流容量の向上を目指し、電磁鋼板を用いた垂直磁界の低減や縦磁界効果を用いたフォースフリーケーブルの検討の報告があった。

加速器セッションでは、全部で約10件の発表があり、低温超電導線材を用いるSuperKEKBHL-LHCなどの主に基礎物理用加速器と、高温超電導線材を用いる医療用加速器について報告があった。SuperKEKBでは2016年からの運転開始を目指し、ビーム衝突点の左側部分から先行して製作が進められており、超伝導4極電磁石の性能試験では、液体ヘリウム中で積分磁場のエラー磁場(最大は6極成分)が要求仕様を満たす10Unit以下を達成したこと、超伝導ソレノイドの設計ではコイル全体での熱擾乱やホットスポットなどでのクエンチ解析で健全性が確認されたこと、その他、冷却システムの設計およびモニター・インターロックシステムの構築について報告があった。医療用加速器では磁場均一性についての議論が中心に行われており、スパイラルセクタ加速器では巻線精度が磁場均一性に与える影響、ならびに線材磁化が多極磁場成分に与える影響について、回転ガントリーではコイルエンドが積分磁場均一度に与える影響についての報告があった。

核融合セッションでは全部で8件の発表があり、ITERJT-60SAの進捗状況についての報告があった。ITERではトロイダル磁場コイル用の巻線システムにおいて0.005%の精度で導体長管理に成功したこと、熱処理炉において高さ16 m×6 mのターミナルを除く巻線全体で650 ± 5°Cの温度均一性を達成したこと、ラジアル・プレート(RP)において、RPセグメント、RPセクター余長を設けることで、高さ13 m × 9 m × 厚さ10 cmの大型構造物で高精度の製作公差を達成したこと、などが報告された。JT-60SAでは組立状況の紹介のほか、熱収縮対策を施したクランク型フィーダと固定サポートの試作に成功したこと、クライオスタット内という狭小空間における半田によるラップタイプジョイントで接続抵抗1.7 (2 T, 4.2 K, 20 kA)を達成したこと、中心ソレノイドの4層モデルコイルにおいてサーマルシールドからの放射の影響で最内層が約1 K高くなるという実験値と整合する解析結果が得られたことなどが報告された。また基礎検討として、高温超電導線材を用いた単純積層導体の電流分布解析や機械的ラップジョイントの引張・せん断強度について報告があった。

産業応用・磁場応用セッションでは全部で6件の発表があり、SQUID上に配置したPdNi薄膜の磁場応答・磁化反転に関する評価、ドラッグデリバリー応用を目指した電流制御による磁場回転手法、超電導バルクと磁性体の組み合わせによる磁気浮上力の向上、卓上型バルク磁石装置の着磁試験結果、磁気アルキメデス効果を利用した金・銀・銅の回収などについて報告があった。

磁気軸受セッションではフライホイール蓄電システムについて5件の発表があった。RE系超電導コイルを54Kの温度に保持した通電試験では110 A以上通電可能であったこと、超電導コイル5枚と超電導バルク体3枚を組み合わせることで40 kNの耐荷重が得られたこと、ステンレス鋼と銅合金を一体化したロータを使用することで7000 min-1まで劣化なくシールできたことなどが報告され、これらの技術を集約し、山梨県に完成した1 MW級の太陽光発電所に平成27年度より100 kWh級の実証機を設置し、電力安定化実証試験を行うとのことであった。

電力応用のセッションでは全部で約5件の発表があり、トロイダルコイルの要素コイルの数、アスペクト比などをパラメータにしたSMESの線材使用量の最小化の検討や、変電所間を走行する電車をモデルとしリアルタイム電力系統シミュレータを用いたハードウェア閉ループシステムの構築について、また高温超電導コイルを用いた非接触電力伝送効率の検討について報告があった。

NMRセッションでは、1 GHzを超えるコンパクトNMR磁石の開発について4件の発表があり、全体の展望、フープ応力特性、シムコイルによる補正に関する報告があり、遮蔽電流、費用、線材単長の観点から、高強度Bi線材が最適な選択であると結論付けていた。他にもRE系超電導バルク体を用いた均一磁場空間の発生、ならびに200 MHzNMRについての報告もあった。また基盤技術としては、外部応力を印加することでREBCO層のみを切断する細線化技術や、RE系線材のREBCO層を種結晶として用いる線材バルク線材の超電導接続などについて報告があった。

高磁場MRIセッションでは、RE系線材を使った10 T級のヒト全身用MRIの開発について4件の発表があり、極小口径10 Tコイルの設計試作・電流特性評価や、遮蔽電流が及ぼす不整磁場の評価結果の報告があり、撮像評価に必要な設計・製造基盤技術の構築を目指した発表があった。

(鉄道総研 富田優、福本祐介、石原篤、赤坂友幸)