SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No6 December, 2014


 見聞録:六ヶ所村で進む核融合原型炉開発      _日本原子力研究開発機構 六ヶ所核融合研究所_


  病床にあった宮澤賢治は、詩とも備忘ともつかない散文を手帳にしたためた。後日吟味して、この文に無くてはならないキーワードを朱で大きく書き添えた。『行テ』と足して賢治は散文に命を吹き込んだのである。手帳の片隅に埋もれていた一篇の詩は、没後、遺族の手によって日の目を見、日本人なら誰でも朗読したことのある代表作となった。「雨ニモマケズ」の誕生秘話である。

  東ニ病気ノコドモアレバ、『行テ』看病シテヤリ

  西ニツカレタ母アレバ、『行テ』ソノ稲ノ束ヲ負ヒ

  南ニシニソウナ人アレバ、『行テ』コハガラナクテモイイトイヒ

 

ところがどうしたことか、北には『行テ』を足さなかった。

  北ニケンクァヤソショウガアレバ、ツマラナイカラヤメロトイヒ

    ・・・

本州北端に近い六ヶ所村で冬支度が始まる1118日、日本原子力研究開発機構六ヶ所核融合研究所に『行テ』みた。

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  六ヶ所核融合研究所(1)は、青森の市街地から隔絶された(三沢から40km、八戸から60km)湖と原生林とに囲まれたところにあり、寒村というにはあまりに人の棲む気配に乏しく、むしろ仙境の趣である。国際核融合実験炉ITERの激しい誘致合戦を仏・カダラッシュ(現在のITER建設地)と六ヶ所村が繰り広げ、数年にわたる膠着状態を終結させるために提案された「(核融合の)幅広いアプローチ計画」(BA計画、Broader Approachの略)がこの地に核融合が根を下ろす発端となった。日・欧のどちらかがITER誘致を断念すれば、その国で、核融合エネルギーの早期実現のための日欧協力事業を実施するという取引材料がBA計画であった。結局、日本が誘致の旗を降ろし、BA計画は2007年から日本で実施することになった。六ヶ所サイトはBA計画の実施拠点であるだけでなく、核融合原型炉開発へ向けた国内の中核的研究拠点とすべく核融合界をあげて研究資源の集約を進めている。六ヶ所サイトができて5年程度だが、現在、研究・技術系スタッフは110(うち、外国人は15名程度)、事務・管理部を入れて約180名が勤務しているとのことである。日の浅い研究所とはいえ、ここに整備されている研究設備には眼を見張るものがある。

 まず、六ヶ所研究所のスパコンHelios(通称、「六ちゃん」)が凄い(2)。これは、欧州が2011年末に納入したBULL社製スパコンであり、Linpack性能1.2PFlopsは導入後間もない20126月のランキングLinpack500で世界12位、最新の201411月のランキングでも世界38位、国内3位である。もっとも、「この計算機の意義は核融合専用機というところにあり、Linpackランキングはどうでもよい」と関係者はいう。欧州が納めたスパコンとはいえ、日欧に配分される計算資源は50%ずつという事前取り決めがあり、この方針に沿って運用されている(その代わり、電気代などユーティリティチャージはすべて日本持ち)。スパコンは、プラズマの輸送現象、不安定性、核融合材料のシミュレーション等に有効に活用されており、CPUの稼働率は常時90%を超えるという。核融合研究では潜在的に膨大な計算資源を必要としており、このような核融合専用計算機は国内の研究者の大きな助けになっているようだ。

 核融合材料開発のための研究設備も充実している。毒性があるため大量のベリリウムを扱う設備は国内にほとんどないが、ここにはベリリウム合金の製造と微小球(直径1mm)加工を行う本格的な設備(3)や、海水からリチウムイオンを選択的に回収する透過膜の実験装置など変わり種の研究設備、放射線環境下での材料試験や組織観察を行える装置が多数整備され羨ましい研究環境である。このような研究環境を求めて、多くの研究者や学生がわざわざこの最果ての地まで足を運んでいるという。

 核融合炉では、高エネルギーの中性子が大量に発生するため、炉内構造物には中性子照射による弾き出し損傷や核変換による欠陥が生ずる。このような中性子重照射に耐えうる有望な材料は既にあり、原子炉照射試験でその基本的な特性を調べてはいるものの、核融合炉特有の高エネルギー中性子に対する材料寿命の評価のために、材料試験用の強力中性子源が欲しいとか。この強力中性子源はいわば大電流の加速器であり(加速エネルギーの目標は26MeV, 125mA)、視察時にはその一部が試験中であったが、今後は欧州や日本の機器が随時搬入され(4)、総合的な実証試験が行なわれるとのこと。

 これらの六ヶ所研究所で展開される要素技術の研究開発を束ねるのが、ITERの次段階の核融合炉となる「原型炉」の概念設計活動である。原型炉では、今世紀半ばに20-30kWの核融合エネルギーによる発電実証を目指すという。BA計画の一環で欧州とは定期的に共同設計作業を行っているが(5)、原型炉開発へ向けた国内の活動も盛り上がっており、最近では、文科省下の核融合作業部会の要請による組織された合同コアチームが六ヶ所研に滞在し、数日間をかけて原型炉開発戦略を練ったという(6)。我々の気になる超伝導コイルについて質問をぶつけてみると、「ITERと同様、原型炉ではNb3Sn導体の超伝導コイルを主案とするが、ITERで長期間運転してみないことには機械歪みが生じて運転電流が低下する懸念を拭いきれない。バックアップとしてNb3Al導体も選択肢に入れている」とのこと。高温超伝導線材はコイルの選択肢には入っていないとのことであったが、電流リードなどコイル以外のところではドシドシ使って欲しいと我々の要望をしっかり伝え、薄暗い雪雲の垂れ込める六ヶ所村を後にした。

 

その晩、八戸は「ろく横町」でひとり酒、手酌酒、演歌を聴きながら、思った。

そんだなす、核融合っこためだ、超伝導も北さ行がねばなんねべェ・・・てか。

(『行テ、北』)

 

 

独立行政法人 日本原子力研究開発機構 六ヶ所核融合研究所

039-3212  青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮字表舘2-166

 

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テキスト ボックス: 図3.ベリライド棒を放電・溶融させて微小球を量産する装置

 

4.材料試験用強力中性子源の技術実証装置の構成と担当国

 
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テキスト ボックス: 図5.原型炉設計日欧共同作業の一コマ

 

テキスト ボックス: 図6.原型炉開発戦略を練る合同コアチーム