SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.6 December, 2014 


超電導と風力熱発電                           _国際超電導産業技術研究センター_


超電導炉の再生可能エネルギー分野への応用が検討されている。数年前ドイツにて超電導炉が実用化され1)、現在も稼働中である(1)。静磁場中で円柱状の導電体をモータで強制回転させると導電体中に渦電流が発生し加熱される。家庭のIHコンロと原理は似ており非接触で対象物を加熱できるのが特徴である。導電体に磁性があれば永久磁石等でも十分効果的な静磁場を作れるが、導電体でも磁性が無いアルミや銅では大空間に強力な磁場を作るために超電導が必須となる。IHコンロでも土鍋(電気を通さない)やアルミ鍋(磁性がない)は加熱できないのと同様である。

加熱のための回転力(エネルギー)を風車軸から得て風車タワー頂部で高温を生成し、あとは集光型太陽熱発電と同じシステムを用い熱から電力に変換するのが風力熱発電である。600°C程度で運転するならば銅鉄マグネットで十分到達可能で、太陽熱発電で実績のある溶融塩システムと一般的な蒸気タービンが採用できる。

蛇足になるが蓄熱については、アメリカでは太陽熱発電に付随する蓄熱装置が、僅か一つのプラントで揚水発電に次ぐ蓄エネルギー量を占めている程に電力系統向けの技術として成熟している2)。スペインでの蓄熱技術の実績がこれに繋がっている。

ところで熱から電気への変換効率は高温化により改善する。しかし温度が800°C以上になるとキュリー点を超え鉄が磁性を失い磁場が弱くなり銅鉄コイルは使えなくなる。磁性の無いアルミは鉄芯の代わりにならないと同様である。しかし超電導を採用すると大空間に強磁場を低電力で発生できるため高温での加熱が可能となる。これが冒頭に述べたドイツの炉で、アルミ塊の加熱に利用されている。また銅を使い1000°Cまで加熱した実績を持っている。この温度では太陽熱発電向けに熱媒体に空気を用いたシステムが日本とドイツで蓄熱実験が進められており、要素技術的に大きな課題は無い。

話を戻し太陽熱では兎も角、風力では回転力から直接発電できるのになぜ熱に変え、再び電力に変換するのか。普通に考えれば熱に変えるとカルノー効率という理論限界のため効率は半分以下になり割に合わないため、誰も検討してこなかった。しかしこれは局所最適でしかなく全体最適の概念が全く抜けている。すなわち再エネの不規則発電に対する、電力の同時同量性と、最も重要な経済性が抜けている。

再エネの課題はその不規則性にあり、そのため系統への導入が制限されるのは既知の通りである。安定化のためにはバッテリーが技術的には適用可能であるが、高コストが解消できず革新的なバッテリーが期待されている。欧州では火力発電所を新設して対応しているがそれでは二酸化炭素排出量削減に繋がりにくく、隠れたコスト要因となり全体の電力料金に影響している。欧州の高電力コストには再エネの買い取り価格だけでなく、火力発電所の低稼働率も影響している。

これに対して高温蓄熱はエネルギーあたりの蓄積コストがバッテリーに較べて1/20と格段に安く、熱から電力への低変換効率を考慮しても経済性に勝る3)。図2に待機火力コストを含めた現状の風力コストと、バッテリー、蓄熱システムのコストを示す。蓄熱システムはバッテリーシステムの半分、また待機火力などの隠れたコスト要因を加えた現状火力と同程度となる。より長期間になるとさらに蓄熱システムが有利になり、数時間以下になるとバッテリーが有利になる。短時間変動にはバッテリーが対応し、ピークシフト・季節要因の平準化などは蓄熱が担当するのが合理的であろう。

2月末にはドイツにて第二回風力熱・太陽熱シンポジウムが開催される。ご興味ある方は国際超電導産業技術研究センターの岡崎までお問い合わせ頂きたい、とのことである。                (じてこ)

 

参考文献

1) http://www.bueltmann.com/heating.html

2) http://www.energystorageexchange.org/projects

3) 岡崎徹:「風力熱発電」電気学会電力技術電力系統技術合同研究会、PE-12-156, PSE-12-172 (Aug. 2012)

 

 

 

技術名

蓄エネルギー量MWh

サイト数

平均MWh

全体

263,000

327

-

揚水

256,000

36

7,100

溶融塩蓄熱

1,680

1

1,680

CAESCCGT用蓄冷など

バッテリー

300

154

2