SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.5 October, 2014


石狩の直流超電導ケーブル工事現場を取材           _SUPERCOM事務局_


SUPERCOM事務局はこの918日に北海道石狩市の石狩湾新港地域で行われている直流超電導ケーブルの布設工事の様子を取材した。これは弊誌がVol. 121 (254月号)Vol. 122 (256月号)Vol. 127 (264月号)で紹介してきた経済産業省委託による平成24年度「高温超電導直流送電システムの実証研究」、平成25年度「高温超電導技術を用いた高効率送電システムの実証事業」によって実施されているものである。当初は中部大学、住友電工、千代田化工、さくらインターネット四者のコンソーシアム方式にて進められ今年1月より同じ四者の石狩超電導・直流送電システム技術研究組合(i-Spot )が引き継いでいる。

当日は朝から時折強い雨が降る荒天であったが、中部大学 筑本知子教授の紹介のもと、石狩工事事務所長であるi-Spotの木口正之氏、冷却システムを担当しているジェック東理社の青木五男氏のご協力によって本事業の現状について詳細に取材することができた。

1は工事現場周辺の略図である。石狩市は札幌市の北側に隣接する市で南北に長く、面積は東京23区よりも大きい。その南部にある石狩湾新港は日本海側の生産・流通の新拠点として開発され、港としては30年余の歴史を持つが、周辺の広大な工場用地は立地が進まず多くは平原のままである。この直流超電導ケーブルはその一角にあるさくらインターネット社の石狩データセンタに直流電流を供給するもので、近くに設置予定の太陽電池からの500 m (回線1)、交流の系統からの約2000 m (回線2)2本の建設が計画されていた。

テキスト ボックス: 図1 直流超電導ケーブル事業の実施場所

 

さて、現地は図1のとおり、札幌市の中心部から北北西に直線距離では15 kmほどのところにあるが、近くに民家が無いことから公共交通の便は良くなく、実証サイト前の停留所(新港中央一丁目)に着くバスは、手稲駅からの早朝の1本しかない。石狩市役所周辺のバス停には札幌から比較的頻繁にバスの便があるが、15分ほど歩く必要がある。今回の取材では手稲駅からバスに乗って現地に入った。バス停のすぐ近くの南西方向に延びる枝道を入って少し歩くと工事現場の看板(2)があった。さらに、その向こうに2階建ての現場事務所があり、ここでまずこの事業の現状についてお話を伺うことができた。

建設が進んでいる回線1500 mケーブルは図1に黒い線で示したように概ねL字型のルートで太陽電池からデータセンタに電気を送る。これをより詳細に表したのが図3である。500 mケーブルの途中には中間マンホールが設けられており、ここで約200 mと約300 mの超電導ケーブルが接続される。200 mケーブルの出発点となる建屋Aでは太陽電池からの電力を受ける端末が設けられる予定で、その背後には太陽電池の設置予定地が広がる。ちなみに太陽電池の容量は2 MWの予定で2015年度に置かれるとのことである。もう一方の端末はこれから増築されるデータセンタにつなぐ部分にあたり、これを収容する建屋@には冷凍機、ポンプなどが置かれる。つまり、このシステムでは冷媒の液体窒素を建屋@から送り、建屋Aを経て少し温度が上がって建屋@に戻ってくる液体窒素の温度を冷凍機で下げてから送るという連続運転によって低温状態が維持される。また、ケーブルの規格は20 kV, 5 kAで、同軸の双方向通電タイプが採用されている。図4に示したように断熱二重配管内にはこれを入れるためのケーブル配管と液体窒素が戻ってくる配管が配置されている。断熱二重配管は112 mの長さで地下約1.5 mに埋設される。地下水位が地下約1.2 mとのことで、排水を行いながらの布設工事であるが、最終的に配管は地下水に浸ったような状態になり、断熱二重配管の周辺温度の変化が小さいことが利点となる。既に配管の設置と溶接が終わっており、この日は一部では埋め戻し作業が始められていた。超電導ケーブルは大阪の住友電工社から途中、日本海フェリーを使って、200 m用、300 m用を別々に運ぶとのこと、引き込みはそれぞれ102日と109日に予定されている。その後、液体窒素の注入、冷却システムの稼動試験を経て、年度内には通電試験を始めるプランである。なお、冷却にはターボブレイトン型の2 kW冷凍機1(大陽日酸製)とスターリング型の1 kW冷凍機1(アイシン製)を用いて液体窒素の温度制御を行うとのことである。

さて、回線2 1 kmケーブル布設は用地が8月中旬に決定したとのことで、回線1よりも北側に数ブロック離れた平原で工事が10月上旬から始まる。結局、500 m往復のU字型の配線になるそうで、データセンタへの給電には用いずケーブル試験用の設備となる。配管は地上で、途中に2箇所ジョイントを設ける。地上配管の理由は工期の短縮で、既に1 km分の断熱2重配管は倉庫に納められており、管路の接続は年内に終えるとのことである。

テキスト ボックス: 図4. 断熱二重配管。長さは12 mで、現地で溶接によって接続されている。管内の上下2本の管のうち下に超電導ケーブルを入れ、上は液体窒素の復路用である。当初は公道を挟んだ2点間を結ぶ2 km長ケーブルの計画であったが、道路を横切ったり沿ったりするケーブル設置方法や布設許可のための諸手続きが予算や事業期間を圧迫した結果の計画変更とのことで、少し残念である。とはいえ、国内初の実用的な直流超電導ケーブルの布設が着々と北の大地で進んでいる。年度内の通電に成功し、図2の看板が珍しくない時代到来の起点となる成果を伴った事業になることを祈りたい。           (SUPERCOM事務局補佐員)