SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.5 October, 2014


金属基板上にNdFeAs(O,F)エピタキシャル薄膜の作製に成功     _名古屋大学_


 名古屋大学、IFW Dresden、電力中央研究所、iBeam Materials Inc.Karlsruhe Institute of Technologyの共同研究グループは、世界で初めて鉄オキシニクタイド超伝導体に銅酸化物線材開発の技術(第二世代コーテッドコンダクター技術)を適用し、NdFeAs(O,F)コーテッドコンダクターの作製に成功した。鉄系超伝導体は低温で大きな上部臨界磁場を有し、その異方性が小さいことから強磁場発生用の線材として応用が期待されている

現在、世界中で鉄系超伝導線材の開発が行われているが、研究対象物質は主に超伝導特性と結晶構造の異方性が小さい“122”系や“11”系を中心に展開されている[1-3]。一方、鉄オキシニクタイド(1111“系)122“系や“11“系よりも超伝導転移温度(Tc)が高いことから、より大きな臨界電流密度(Jc)を得られる可能性がある。しかし、鉄オキシニクタイドは他の鉄系超伝導体に比べて超伝導特性と結晶構造に比較的大きな異方性があり、銅酸化物と同様に粒界でJcが低下することが懸念される。実際に世界中の研究者がパウダーインチューブ法でSmFeAs(O,F)線材の作製を試みているが、Jcはいずれも自己磁場中、4.2 Kにおいて103 A/cm2程度と低いものだった[4-5]

そこで研究グループは粒界問題を解決するために銅酸化物線材開発で使われているIBAD中間層付き金属基板上にNdFeAs(O,F)超伝導薄膜を分子線エピタキシー法により作製した。その結果、2軸配向したNdFeAs(O,F)超伝導薄膜が金属テープ上に成長した。また透過型電子顕微鏡による組織観察の結果から、NdFeAs(O,F) / IBAD-MgO界面で反応層が見られず、非常にシャープであることが分かった(1参照)。得られた薄膜のTc43 Kと単結晶基板上に成長させた薄膜よりはやや低いものの、“122“系や“11“系よりも高い値が得られた。Jcは自己磁場中、5 Kにおいて73,000 A/cm2で、この値はパウダーインチューブ法で作製されたSmFeAs(O,F)よりも20倍以上も高く、また磁場中におけるJc特性も大幅に改善することが出来た。(2参照)

研究グループの名古屋大学、飯田和昌准教授によると「MgO単結晶基板上に成長したNdFeAs(O,F)薄膜は自己磁場中、4.2 Kにおいて2 MA/cm2以上のJcを有しさらにc軸に平行に35 Tの強磁場を印加しても3 x 104 A/cm2以上の値を保っていることから、NdFeAs(O,F)は線材として十分なポテンシャルを有している[6]。今後、成膜条件等が改善されればNdFeAs(O,F)コーテッドコンダクターの輸送特性はさらに向上することが期待できる。」とのことである。  (Super K)

 

 

 

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1  NdFeAs(O,F)MgO界面近傍の透過型電子顕微鏡像。 

 

 

 

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 図2  NdFeAs(O,F)コーテッドコンダクターとパウダーインチューブ法で作製されたSmFeAs(O,F)Jc-H特性。

 

 

 

 

 

参考文献

1.     J.D. Weiss et al, Nat. Mater. 11 (2012) 682.

2.     Katase et al, Appl. Phys. Lett. 98 (2011) 242510.

3.     W. Si et al, Nat. Commun. 4 (2013) 1347.

4.     Z. Gao et al, Supercond. Sci. Technol. 21 (2008) 112001.

5.     M. Fujioka et al, Appl. Phys. Express 4 (2011) 063102.

6.     千原真志 他、第75回応用物理学会秋季学術講演会19a-A20-5