SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.5 October, 2014


 鉄系Ba-122超伝導線材 −既存の金属系線材を凌ぐ優れた強磁界特性−       _物質・材料研究機構_


 ()物質・材料研究機構の熊倉浩明特命研究員、戸叶一正外来研究員らのグループは、PIT(パウダー・イン・チューブ)法で作製した(Ba,K)Fe2As2 (Ba-122)線材についてハイブリッドマグネットを用いた高磁界での輸送臨界電流密度測定を行い、同線材が既存の金属系実用線材Nb-TiNb3Sn線材をはるかに凌ぐ優れた高磁界特性をもつことを明らかにした。測定に用いた試料はSUS/Agの二重被覆したex-situ PITテープ線材で、通常の圧延法で作製したものである。自己磁場でのJc~105 A/cm2であるが、磁界をかけてもJcの低下は極めて小さく、28 Tの高磁界でも104 A/cm2を優に超える高いJc 値が測定された。

 これらの結果は2014年春低温工学・超電導学会(5月、東京)2014 IUMRSICA(8月、福岡)2014ASC(8月、米国)などで発表され、鉄系超伝導体が新たな強磁界発生用の線材として極めて有望なことを実証した成果として注目されている。

2008年に発見された鉄系超伝導体は、銅系酸化物に次ぐ高い臨界温度Tcと高い臨界上部臨界磁界(Hc2)を有するために、物性研究のみならず応用面からも注目されてきた。そのためPIT法による線材の試作が発見直後から進められてきたが、当初試作された線材は弱結合の問題が大きく、測定される輸送Jcは実用レベルには程遠く低かった。しかし、(Ba,K)Fe2As2(Sr,K)Fe2As2122系に関しては、CIP(冷間静水圧プレス)HIP(熱間静水圧プレス)、熱間一軸プレス、冷間一軸プレスなどの圧縮応力の印加が弱結合の問題を解決するのに有効なことが分かり、最近では物材機構やIEE-CASのグループから磁界中でも実用レベルの105 A/cm2を超えるJcが発表されるようになっている。特に物材機構は将来の実用化を考慮して、静水圧や熱間などの高度なプレス技術を用いず、通常の冷間加工法を用いたプロセスにこだわった開発をすすめており、今回の成果もこのような過程で生み出されたものである。なお、銀被覆Ba-122線材の一軸プレスの効果については、本誌(SUPERCOM, 23, No.4 August, 2013)で既に述べられている。

今回測定に使われたBa-122試料はSUS/Agの二重被覆で、通常のex-situ PIT法で作製した。すなわち、予め準備したBa-122前駆体粉末を銀管に詰めて、通常の冷間加工によって単芯のテープに加工後、これをステンレス管に挿入してさらに圧延加工を施して作製した。一部の試料にはさらに一軸プレスを施した。図1にはテープの断面構造を示す。これらの試料を熱処理後、物材機構強磁場センターのハイブリッドマグネットを使って、4.2 K28 Tまでの磁界中で輸送臨界電流の測定を行った。図2がその結果であるが、比較としてNb-Ti線材、Nb3Sn実用線材および現在実用化が進められているMgB2線材の特性を示してある。これから分かるように、SUS/Ag/Ba-122テープのJcは自己磁界中で約105A/cm2という高い値を示しているが、さらに興味深いのはJcの磁界依存性が極めて小さく、その状態が28 Tの強磁界まで維持されていることである。20 T以上の高磁界中でこのような高いJcを有する線材は酸化物高温超伝導体以外にはなく、このことから鉄系超伝導体が新たな高磁界発生用線材として有望なことが改めて認識されたことになる。

開発を担当しているZ. Gao特別研究員は「銀単独では機械的強度が弱くいずれ補強が必要となる。SUSとの複合一体化はそのような意図で始めたが、思いがけずJcの向上という副次効果が得られた。SUSの使用によって組織がさらに緻密化したためと思う。さらに興味深いのは、銀単独ではプレス印加がJc 向上に必須であったが、二重被覆すると圧延のままでも高いJcが得られたことで、このことは実用を考えた場合は極めて有利と言える」と述べている。まだ実験は始められたばかりであり、今後加工プロセス、熱処理条件、被覆材などの適正化によってさらに高いJcが得られる可能性は十分にあり、今後の発展が期待される。 (makabochan)

 

 


1  SUS/Ag/Ba-122テープの断面

2  SUS/Ag/Ba-122テープの4.2 KにおけるJc-H特性。比較のためにNb-TiNb3SnMgB2線材の代表的な特性を示した。