SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No5 October, 2014 


超電導磁気分離法による火力発電所からのCO2削減の検討       _大阪大学_


阪大、物材機構、四国総研のグループは、火力発電所から排出されるCO2の量を低く抑えるため、超電導磁気分離を利用した技術を検討している。この開発に至った背景は原子力発電所の停止によるCO2の発生量の増大である。原子力発電所の運転停止により火力発電の利用率が増加し、それにともなうCO2の発生量が増大している。このためこれを抑える技術の開発が必須である。

現状でCO2の削減に効果的な手法は、火力発電所の経年変化が原因で引き起こされる性能低下を抑えることである。長期的には新たな低CO2排出システム、例えば、コンバインドサイクルなどの導入も考えられるが、これらには設備の大幅な改造や新たな設備投資が必要で、既存の火力発電所への適用が困難である場合が多い。さらに導入までに長い時間が必要であり、喫緊の課題への対応としては問題である。そこでボイラーの性能低下、特にここではCO2の排出量の増加に直接関係する問題であるスケールの蓄積による熱交換率の低下に注目した。この問題に対処する技術の開発が現実的な解決法であると考えたからである。火力発電所ではボイラー給水系中に酸化鉄スケールが発生し、圧力損失の増加やボイラーの熱交換能力の低下を生じさせ発電効率を低下させている。これが直接CO2排出の排出量の増加につながっているのである。

そこで給水中に発生する酸化鉄スケールを超電導磁気分離法で除去し、配管やボイラーへのスケールの付着を抑制することを考えた。スケールを除去することで、火力発電所の発電効率の低下が抑制され、発生するCO2の削減が図れると期待されるのである。1に火力発電所の給水系の概念図を示した。AVT(全揮発性処理)を行っている火力発電所の低温部 (復水器以降、図中水色部)では周囲の機器から鉄イオンが溶け出している。一方、ボイラーやその周辺の高温部 (図中赤色部)では鉄イオン等がマグネタイトとなり配管、ポンプ、熱交換器へスケールとして付着し、その性能を劣化させている。この現象を防ぐため、現状では火力発電所の低温部(1中、既存フィルター)でフィルタリング(銅コイルによる磁気分離)が行われているが、この箇所では、ほとんどが鉄イオンあるいはオキシ水酸化鉄(FeOOH、常磁性体)の状態であり、除去できていない。このオキシ水酸化鉄が高温・高圧部でマグネタイトとなりスケールとして付着するのである。そこで高温・高圧(~200°C~20気圧。場所により圧力は大きく異なる。図中、超電導磁気フィルター)において、超電導磁気分離法を用いて大量かつ連続的なスケール除去を実現するシステムを検討することになった。しかし、大きな問題となったことは、「高温・高圧下で超電導磁気分離装置が性能を発揮するか?」ということである。このような高温・高圧で作動する磁気分離装置はいまだかつて存在せず、果たして実現可能であろうか?

 この点をまず確認する必要があった。計算からは問題なく磁気分離は実施できるはずであるが、実際にそうであろうか? 実験的に確認するためには、高磁場を印加できる高温・高圧の試験ループの製作が必須である。

以下のようなシステムを考案し高温高圧の下での磁気分離実験を実現した。

 

@   少量の水を入れた二つのオートクレーブを用意する。

A   この二つのオートクレーブは連結されているが、バルブによって隔絶されている。

このためそれぞれのオートクレーブは独立に温度と圧力を制御できるようになっている。

B   両者では設定圧力、あるいは設定温度を若干変えている。

C   両者が設定圧力になった後、バルブを開け、両者を連結し、圧力差によって流れを生じさる。

D   高圧側には、模擬スケールを懸濁させておく。

E   この流れの経路中に磁気フィルターを配置し、超電導磁石の中に設置する。

 

2に開発した磁気分離システムの写真を示した。このシステムを用い、以下の実験条件で磁気分離実験を実施した。

・供給側 : 235°C, 29気圧、排出側: 200°C, 14気圧

・流速 : 60~70 cm/s

・外部磁場 : 0.512T

・模擬スケール : マグネタイト80 wt%

ヘマタイト20wt%

・実験結果(模擬スケールの分離率) :

0.5 T88%

1 T96%

2 T98%

 

 本実験で高温。高圧でも磁気分離は遂行できることを実証した。本試験結果は、超電導磁気分離装置を火力発電所の給水系に適用可能であることを実証した貴重な結果と言える。特に、高温・高圧で運転される磁気分離装置はこれまで存在せず、火力発電所に限らず、磁気分離技術の応用範囲を拡大したものと言える。超電導機器が低炭素化におおいに役立ちそうである。その成果に期待したい。

 なお、この研究は、平成25年から先端的低酸素化技術開発(ALCA)に採択された、”磁気分離法による発電所ボイラー給水中の酸化鉄除去”の援助により遂行されたものである。(磁場命)

 

 

 

 

 

1 火力発電所の給水系の概略図と想定されている超電導スケール除去システムの導入場所

 

 

 

 

 

 

2高温高圧下での磁気分離実験システム