SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.4 August, 2014


 PbFCl型結晶構造をとるAP2-xXx (A=Zr, Hf, X=S, Se)系新超伝導体群開発に成功!

_産総研_


 鉄系超伝導体の発見以降、次なる新規超伝導物質を目指した新物質探索、開発競争が盛んに行われている。新規超伝導体の探索手法としては、これまでの銅酸化物高温超伝導体、MgB2超伝導体、鉄砒素系超伝導体等での探索で培われた経験をもとに、高温超伝導の発現機構に極めて重要と考えられる二次元的なネットワークが注目され、最近では、BiS21), Ti2O2)からなる二次元的ネットワーク等を用いた超伝導体が開発されている。

産総研の鉄系超伝導体研究における新超伝導体開発に関しては、単純立方晶Au-Sb合金3)、東工大グループとほぼ同時期に見出されたBa-Ir-Ge系超伝導体4)をはじめとした化合物を報告しており、今回は()イムラ材料開発研究所との共同研究においてAP2-xXxで表記される新超伝導体化合物群5)を見出した。

 この化合物群が有するPbFCl型結晶構造(1)は、鉄系超伝導体LiFeAsと類似の結晶構造であり、これまでに鉄系超伝導体以外でPbFCl型結晶構造を有する超伝導体は、NaAlSi, NbSiAsが報告されている。

鉄砒素系超伝導体の発見以降、これまでに報告されている(Ln,F)OBiS2, Ba1-xNaxTi2Sb2O (0 x 0.33) 超伝導体は、NaAlSi, NbSiAsの場合と同様、母物質がLnOBiS2, BaTi2As2Oが既知化合物として報告されており、このような母物質に対してキャリアドーピング制御することにより超伝導化されている。

 今回、見出されたAP2-xXx系新超伝導体群5)は、PbCl2型結晶構造をとる金属間化合物ZrP2に銅酸化物高温超伝導体でみられる価数制御による超伝導化を目論見とした探索手法を適用した際、偶然にも全く別のPbFCl型相が存在し、そのPbFCl型相にキャリアドーピング制御し超伝導化することに成功した経緯がある。最近の新超伝導体開発において、このような未知相を新超伝導体群としてまとめて見出されたこと自体が極めて珍しい。

 結晶構造は、PbFCl型結晶構造であることが明らかになった際に、果たして超伝導を担うのに重要なのは、 P正方格子からなる二次元的なネットワークなのか、Zr2(P,X)2なのかということに興味が持たれた。最近、バンド計算からは、超伝導にはPの二次元正方格子のネットワークが重要であるというのでは…という示唆がなされている。このAP2-xXx系においてはZr2(P,S)2系超伝導体(超伝導転移温度(Tc) = 5.0 K)におけるS原子をSe原子で置換したZr2(P,Se)2系超伝導体のほうがTc = 6.3 Kと高いことから、P-Pの二次元正方格子間の結合距離を延ばすことに伴いTcが向上している。このように結合距離の制御が、さらなる高Tc化への道のりとなると考えられる。またこれまで見過ごされてきた異なる結晶構造を持つ物質相の間に存在する隠れた未知相を探索しキャリア制御等を施す手法により、新超伝導体発見が期待される。

産総研鬼頭聖主任研究員によると、今回の化合物群が見出された際、ZrS, ZrPともにNaCl型結晶構造をとるTc ~4 K程度の超伝導体であることが既知の事実であった故、最初の段階ではZrPではないか、ZrPの最適化、純良化に伴いTcが向上したのではないか等という点からこれらは新超伝導体ではないのでは…と危惧の念を抱いていた。

 昨今、巷では様々な研究分野の業界に一石を投じたSTAP細胞問題により実験データの捏造に関心が持たれている。企業との共同研究であることも踏まえ、研究成果に関して一研究者として雑な取り扱いをすることは決して許されない。筆頭著者は周囲の極めて優秀な研究スタッフ陣に恵まれていたことが幸いし、試料合成を快く引き受け、試料合成時の人間依存性(?)のチェック、再現性のチェック、結晶構造決定は労せずに済ませられた。かつて1980年代半ば、銅酸化物高温超伝導体フィーバーの際、田中昭二氏が提唱した新超伝導体の4条件6)として、“電気抵抗が0”であること、“反磁性”を示すことという超伝導の条件に、“結晶構造が決定されていること”、 “再現性”があることに関して、今さらながら特に4番目の“再現性”については、現在の研究業界においても充分に通じる良識のある見解であるとつくづく感じる。

今回のAP2-xXx系新超伝導体群の発見は、これまでに行われていなかった物性物理学の新分野を開拓する可能性を秘めた重要な発見であり、さらなる新たな超伝導体の発掘、開発の可能性が今後も期待できる。(Dr. Bean)

テキスト ボックス: 図1  AP2-xXx (A=Zr, Hf, X=S, Se)系新超伝導体の結晶構造。

 

参考文献

1)  Y. Mizuguchi, S. Demura, K. Deguchi, Y. Takano, H. Fujihisa, Y. Gotoh, H. Izawa, and O. Miura, J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 114725. 

2)  T. Yajima, K. Nakano, F. Takeiri, T. Ono, Y. Hosokoshi, Y. Matsushita, J. Hester, Y. Kobayashi, and H. Kageyama, J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 103706. 

3)  A. Iyo et al., Supercond. Sci. Technol. 27 (2014) 25005.

4)  S. Ishida et al., J. Am. Chem. Soc. 136 (2014) 5245.

5)  H. Kitô et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83 (2014) 074713. 

6)  S. Tanaka: APS meeting 1987 March.