SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No4 August, 2014 


MgB2線材作製におけるボロン粉末の新しいカーボンコート法     _物材機構_


MgB2線材においては、カーボンやカーボン化合物の添加が盛んに研究されている。最も良く知られた添加物はSiCであるが、SiC添加ではMg2Siが不純物として析出するためにこれが超伝導電流の障害物になると考えられる1)。最近はカーボン単体を添加する研究が盛んであるが、その一つとしてカーボン被覆したB粉末を使う方法がある。例えば米国SMI社では、カーボンコートしたかなり高品位なB粉末を販売しており、これを使ったMgB2線材ではかなり高いJcが報告されている2,3)

しかしながらこのB粉末はRFプラズマ法で作製しているためにかなり高価である、という難点がある。これに対して、物材機構(NIMS) 超伝導線材ユニットの熊倉浩明氏、葉術軍氏らは炭素含有量の多い芳香族炭化水素の一種であるコロネン(C24H12)を使った簡便なカーボンコート法を開発した。この方法はボロン粉末とコロネンをガラス管に真空封入して加熱をするだけ、という簡単なものである。コロネンの融点は438°Cであり、加熱温度を450°Cとするとコロネンは融けてボロン粉末内に浸透して行き、ボロン粉末粒子はコロネンで覆われる。上述のようにコロネンは炭素含有量が多いことを考えると、この方法はカーボンコートと類似の方法と言うことができる。このコロネンコートボロン粉末を用いてMgB2線材を作製すると、SiC添加などと同様にボロンサイトのカーボン置換が起きて、特に強磁界領域において高い臨界電流特性が得られる。熊倉氏らはPIT法とMg内部拡散(IMD)法によって線材を作製しているがIMD法による単芯線材では4.2 K, 10 T105 A/cm2を越えるJc が得られるとしている4)。このJc 値は上述の高品位SMIボロン粉末を使ったIMD線材のJcにほぼ等しい値である。NIMSグループでは、さらにこのコロネンコートボロン粉末を使ってIMD法によって 100 m級長尺線材の試作を進めており、既に線材加工はほぼ終了している。IMD法ではMg粉末の代わりにMg棒を使うが、Mgは六方晶で加工性が良くないために長尺線材の作製は困難という見方もあった。しかし、今回の線材試作の結果、Mg棒は線材長手方向に均一に加工されていることが確認できたとしている。 

今回のコロネンコートボロン粉末を使用して作製したMgB2線材では、熱処理時にコロネンが分解して水素が発生するために、高い充填率が得られるIMD法線材の場合でもMgB2コア内に多数の小さな空隙が発生し、MgB2の充填率が無添加の場合に比べて低下するのを避けることができない。そこで、NIMSのグループではさらに研究を進め、上述のガラス管に真空封入した混合粉末をさらに高温で加熱することを試みた。文献5)によるとコロネンは600°C以上で脱水素化を伴ったコロネン分子の縮合が起こり、グラファイトが形成される。630°Cで加熱したボロン粉末の透過電顕写真、ならびにカーボンとボロンのマッピングを図1に示す。ボロン粒子表面に薄い層が均一に存在するのが確認でき、この層にはカーボンが多く含まれているのがわかる。高倍率の電顕観察からこの層がアモルファスであることがわかるが、X線回折ならびに赤外線分光分析の結果、さらに上記の文献から判断して、図1のボロン粒子表面に存在する薄い層はアモルファスカーボンであると考えられる。そこでこのカーボンコートされたボロン粉末を用いてIMD法で線材を作製したところ、4.2 K10 T85,000 A/cm2Jcが得られた。この値は上記のコロネンコートしたボロン粉末を用いた線材の値よりも少し低いが、このカーボンコートボロン粉末を用いた場合については、まだ線材作製のパラメータが最適化されておらず、パラメータの最適化によってコロネンコートと同レベルか、あるいはそれを超えるJcも可能であるとしている。

また、「カーボンコーティングは、リチウムイオン電池の電極やキャパシター電極、光触媒、トライボロジーなどの先進材料においても重要で、今回の方法がこれらの材料にも適用できる可能性がある。」と葉術軍氏は話している。(nhk)

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Boron map

 

1 コロネンコートしたボロン粉末の透過電顕写真()、およびカーボン(下左)ならびにボロン(下右)のマッピング像。

 

参考文献

1)  K. Higashikawa et al., Physica C 504 (2014) 62.

2)  S.J. Ye et al., Supercond. Sci. Technol. 26 (2013) 125003.

3)  G.Z. Li et al., Supercond. Sci. Technol. 25 (2012) 115023.

4)  S.J. Ye et al., Supercond. Sci. Technol. 27 (2014) 085012.

5)  A.V. Talyzin et al., J. Phys. Chem. C 115 (2011)13207.