SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.3 June, 2014


企業訪問:日本の隠れた逸品「ヘリウム圧縮機」を製造する前川製作所

 _前川製作所、SUPERCOM事務局_


 SUPERCOM誌では、先般ITER用大型ヘリウム圧縮機を受注した、株式会社前川製作所(1)を取材した。

ITER」は国際熱核融合実験炉の略称で、将来の核融合発電の実現性を研究するための超大型国際プロジェクトで日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの七極により進められ、2019年の運転開始を目指して南フランスのカダラッシュで建設が始まっている。

 500 MWの核融合出力となる高温のプラズマを真空容器内に閉じ込めるために、大型の超電導磁石が使用される。超電導磁石はプラズマの加熱や位置制御にも用いられる。

前川製作所が受注したのは、超電導磁石の冷却用大型ヘリウム冷凍装置に用いられる大型ヘリウム圧縮機だ。

今回訪問したのは前川製作所の主力工場である茨城県の守谷工場。つくばエクスプレスの守谷駅と常磐自動車道の谷和原インターチェンジの中間という好条件の立地。ここに約22m2の広い敷地を構えている。

出迎えてくれたのは同社の極低温・超電導関係に詳しい川村専務取締役。

 前川製作所の名前は一般の人にはあまり知られていないが、食品・水産・乳業・空調など幅広い分野で活躍する産業用冷凍装置メーカーで、この業界では世界トップ3のうちの1つである大企業だとのこと。普段私たちが口にしている肉・魚・冷凍食品等の多くの工程に同社の装置が活躍しているとのこと。

こうした冷凍装置に用いられるスクリュー圧縮機は、主に守谷工場と東広島工場、そしてメキシコ工場において製造され、世界中に供給されている。工場内では大小さまざまな圧縮機が製造されており、ITERには守谷工場で製造される最大クラスの圧縮機が20台納入されるという。

ITER用大型ヘリウム圧縮機を受注するまでの話を川村専務に伺った。前川製作所がヘリウム圧縮機を手掛けたのは古く、1972年のことだ。当時は無給油の小型のレシプロ圧縮機が主流だったが、将来の装置大型化・長期運用を見越しての開発だった。なかでも不純物を嫌う液体ヘリウム製造系統に油噴射式スクリュー圧縮機を使うのはもってのほかだという意見もあったが、圧縮熱の除去や内部リーク削減等の油噴射のメリットも大きく、圧縮機本体の改造と合わせて油を極限まで分離するセパレーターの開発や安定性の高い潤滑油を採用することで実用化にこぎつけたという。

この成果は、その後米国のフェルミ研究所の目にとまり、当時建設が計画されていたTEVATRON装置に採用されたのを皮切りに数多くの納入が始まった。今でこそヘリウム圧縮機は油噴射式スクリュー型が当たり前だが、その世界標準を作ったのは実は日本企業の前川製作所だった。

前川製作所は核融合研究への関わりも古く、1979年には京都大学ヘリオトロン、1980年には日本原子力研究開発機構(原研)LCTプロジェクトへと納入されている。その後、原研のJT60装置や九州大学のTRIAMへと納入が続き、1994年には核融合科学研究所のLHD装置に国内最大級のヘリウム圧縮機ユニットが納入されている。海外でも韓国、インド、ドイツ、中国へと立て続けに納入が続いており、現在稼働中の全ての核融合実験装置には前川製作所のヘリウム圧縮機が使われている。ITERについても、これら数多くの装置での長年の安定運用実績が評価され、採用に至ったとのことだ。

ITERでは機器毎に予算負担国を決め、自国の製品を納入する”イン・カインド”方式が基本で、日本でも超電導磁石等がその対象となっている。ところが、前川のスクリュー圧縮機はその枠をはみ出た調達となっている。日本からの発注ではなく、ヘリウム冷凍機の予算負担国であるフランスからの発注となったそうだ。「本来であればフランス製、欧州製を優先すべきはずだが、それ以上に前川製作所の製品が優れていたということ。」と述べている。

川村専務はこうも続ける。「我々前川製作所は、企業として子供たちに夢と資産を残す義務があると考えている。核融合は原子力に代わる大規模安定エネルギー源として重要な開発テーマの一つであり、ITERやその次にくるあろう実証炉の早期実現を願っており、今後も出来る限り協力をしていきたい。また、フェルミ研究所でのトップクォーク発見や、高エネルギー加速器研究機構(KEK)での物質/反物質非対称性発見、CERNでのヒッグス粒子発見のようなノーベル賞を受賞する基礎科学分野も子供たちへの夢を与え続ける世界として重要だと考えている。これら装置への納入だけでなく、今後日本での建設となるあろう国際リニアコライダー計画(ILC)等についても応援していきたい。その為に装置の大型化・高品質化、メンテナンスサービスの高品質化も重要だが、圧縮機・システムとしての高効率化も開発・提案を進めて行きたい。4月号の紙面で紹介頂いた「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」のような高温超電導製品の適用やその冷却システムの高効率化もシステム全体の効率アップに寄与できるのではと考えている。圧縮機システムについても、ケミカル冷凍機との組合せでの動力削減等のアイデアがあり、関係機関に対し複数の提案も始めている。」とのことである。

訪問するまでは、正直どんな会社か分からずにいたが、話を聞くうちに装置の凄さが伝わってきた。このような装置が超電導機器を支えており、また、その品質・技術が世界のトップランナーであることに誇りを持ちたい。

今後も新たな世界標準がこの会社からスタートするかもしれない。 (育じい3)

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(1) 株式会社前川製作所 

135-8482 東京都江東区牡丹3-14-15 Tel:03-3642-8181(代表)Fax:03-3643-7094

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テキスト ボックス: 図1 大型ヘリウム圧縮機

 

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テキスト ボックス: 図2 前川製作所 守谷工場