SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.3 June, 2014


 遮蔽電流は消せる! −高温超電導NMR/MRI開発に朗報−    _九州大学、MIT_


 九州大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)は共同で、高温超電導テープ線を巻いた核磁気共鳴(NMR)用コイルを励磁した際に発生する有害な遮蔽電流を除去する補償コイルを設計し、実規模のNMR装置に適用可能な手法であることを世界で初めて示した。本成果は、5/26~28にタワーホール船堀(東京都江戸川区)で開催された第892014年春季低温工学・超電導学会にて講演発表された。

磁気共鳴イメージング(MRI)装置やNMR装置は数~数十テスラの強磁界が必要なため超電導マグネットが利用されており、同時にppm~ppbオーダの高磁界均一度が要求される。これらの従来装置にはNbTiNb3Snからなる低温超電導(LTS)線が利用されており、多芯線構造を有することから超電導フィラメント自身の磁化は磁界均一度にほとんど影響を与えない。一方、現在販売されているBi系やY/希土類系の高温超電導(HTS)線はテープ形状をしており、テープ面に垂直な磁界の印加により誘起された遮蔽電流による磁化が非常に大きくなるため、その影響による磁界均一度の低下がHTSコイルをMRI/NMR装置へ応用する際の障害となっている。九州大学のグループはこれまでに、HTSテープ線に生じた遮蔽電流を効果的に除去するために、図1に示すような「異常横磁界効果」を利用した方法を提案し、小コイルを用いた検証実験に成功している。図1(a)に示すように、HTSコイルを構成する1枚のテープ線に注目すると、中心磁界を発生するために流れる輸送電流に加えて、他のテープ線に流れる輸送電流が作る垂直磁界により幅広面内に遮蔽電流が誘起され、それらを重ね合わせた電流分布となる。その結果、各テープ線に流れる遮蔽電流による磁化の総和が均一度の低い磁界分布をコイル中心部に形成する。そこで、コイル励磁後に一定の輸送電流が流れている状況で、テープ幅広面に平行な方向に交流磁界を印加すると、図1(b)に示すように遮蔽電流の分布が変化してテープ面に垂直な磁化(テープ面内の遮蔽電流)が消滅する。実際には、この垂直磁化の変化は異常横磁界効果に基づいており、中心到達磁界以上の振幅をもつ交流磁界の印加により、垂直磁化は指数関数的に減少・消滅していく。

今回の低温工学・超電導学会で発表された内容の概要は、以下の通りである。実規模サイズのHTSコイル内の巻線に誘起された遮蔽電流の除去が可能かどうかを検証するために、過去にMITで製作されたNMRLTSマグネットのうちLTSインサートのみを置換するためのHTSインサートを設計し、遮蔽電流を除去するための補償コイルも設計した。想定したHTSテープ線の寸法は絶縁込みで幅4.05 mm、厚さ0.3 mmである。HTSインサートの総巻数は4800ターンであり、液体ヘリウム中で160.3 Aを通電すると中心磁界は2.35 T(100 MHz)となる。外側のLTSコイルが作る磁界7.05 T(300 MHz)と合わせて、中心磁界は計9.40 T(400 MHz)となる。また、HTSインサートの内外に厚さ1 mmの銅平角線をそれぞれ2層巻線して逆向きに結線した補償コイルを想定した。HTSインサートと補償コイルの高さは同一である。次に、HTSテープ線における臨界電流の磁界強度・印加角度依存性の実験結果に基づいて、HTSインサート内の臨界電流分布を評価した。HTSテープ線の超電導層の厚さを0.2 mmと想定すると、事前に評価した巻線内の磁界分布から得られた局所的な臨界電流の最大値は314 Aであり、これは49.4 mTの中心到達磁界に相当する。また、銅線の残留抵抗比RRR30と想定すると、抵抗率は0.531 nW·mであり、最大中心到達磁界の約1.4倍となる68.8 mTの振幅をもつ交流磁界を発生する銅補償コイルのジュール発熱量を見積ると、内外コイル分を合わせて計100 Wとなる。遮蔽電流の減衰特性から数分間の交流磁界の印加によりppmオーダが得られ、数リットルの液体ヘリウムが蒸発するが特に問題とはならない。さらに、断熱条件下で巻線の一部が熱暴走に至った場合の最大到達温度を見積った結果、厚さ195 mmの安定化銅を用いれば3秒後の到達温度を250 K未満に抑えることができる。

本研究を推進している九州大学超伝導システム科学研究センターの柁川一弘准教授は、「異常横磁界効果は実用第2種超電導体が一般的に示す特異な現象であり、30年以上前に当時の九州大学の船木和夫先生と山藤馨先生が共同で発見された。当時はまだ高温超電導体が発見される前であり、異常横磁界効果の実応用には結びつかなかったが、最近の一連の研究によりNMR/MRI用コイルのHTS巻線に誘起された遮蔽電流を効果的に除去する方法を提供できることがわかった。」と述べている。 (かみいゆ)

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テキスト ボックス: (a) コイル励磁直               (b) 交流磁界印加後

    テキスト ボックス: 図1 交流磁界印加による遮蔽電流分布の変化