SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No3 June, 2014 


強磁場を利用した除染の可能性                    _大阪大学_


 大阪大学は強磁場を利用した汚染土壌の減容化の検討を進めている。今回、磁気アルキメデス法を利用した汚染土壌の減容化法の可能性を確認した。また、その技術だけでなく、土壌や有機物に吸着しているセシウムを、粘土の一種類であるバーミキュライトに移行させ、バーミキュライトのみを磁場で分離するシナリオを構築した。そのプロセスでは、大量の低放射性の土壌を埋め戻せる可能性がある。 

 福島では除染作業が進んでおり、中間貯蔵施設についての議論も始まった。しかしながら除染特別地域でも除染が開始されていない場所もある。137Csの半減期は30年であるが、指数関数的に放射能が減衰していくことを考えると、十分減衰するまでには、半減期の10倍程度の時間を待つ必要がある。1986年のチェルノブイリ事故であっても、まだ28年程しか経っておらず、まだセシウムの半減期にも満たないのである。ここに、除染の意味がある。また、次の事実も除染の重要性を示唆する。事故直後の134Cs137Csの放射能強度(Bq)はほぼ等しいと言われている。134Csの半減期は2年であるが、空間線量率への寄与は137Cs2倍ある。簡単な計算によると、空間線量率の変化は、事故後3年間で約1/2になるが、それ以降は137Csの寄与が大きくなってきて、これからは減衰しにくくなっていく。これからは30年の半減期でしか減衰していかないのである。このため、除染は福島の復興のためには必須の作業と言って良い。

しかしながら、除染作業を実施すると、それに伴う除染土壌等の処理の問題が大きくのしかかってくる。環境省によると、福島県内の除染土壌などの発生量は減容化(焼却)した後でも、1600万〜2200m3と言われており、10 Bq/kg超の土壌などは約1万m3である。800010Bq/kgの土壌および8000 Bq/kg以下の土壌などが、それぞれ約1000m3とされており、膨大な汚染土壌がこれから発生してくることになる。考え方はいろいろあるが、低濃度の汚染土壌を充分に除染して(放射能レベルを下げて)、希釈も含めて100 Bq/kgのクリアランスレベル(放射性物質として扱う必要がない物のレベル)以下にして、埋め戻すあるいは再利用することが経済的にも、時間的にも実現性が高いように思える。図1に広野町の仮置き場の写真を示すが、膨大な汚染土壌の山であった。ここで49000 m3である。1600m3とは、気が遠くなるような量である。

 もう一つの問題は、中間貯蔵施設への輸送である。これも試算によると(中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送にかかわる検討会)、前提条件がいろいろあるが、1000(1000 m3)のフレキシブルコンテナを2ヶ月(50)で輸送するには、4トンダンプ4台、10トンダンプ5台が必要とされている。汚染土壌などを少なく見積もり1600m3 としても、上記のトラック台数であれば、単純計算で、2600年くらいかかる計算になる。トラック台数を100倍にしても26年かかってしまうし、100倍にできる道路状況や受け入れ施設は困難と予想される。この現状を考えてみても、土壌の減容化処理がいかに大切であるかが理解できる。

 この大きな問題である減容化に、超電導磁石を使った磁気力制御が威力を発揮する。超電導磁石を利用した汚染土壌の新たな減容化プロセスのフローを図2に示す。以前より阪大では、高勾配磁気分離を利用することでCsを濃縮した粘土を分離できることを報告していたが、今回は、さらに発展させ、実用化に堪え得るような、減容化フロートして発表した。このフローのポイントは以下の3点となる。

@   分級後の砂礫やシルトを研磨し、希釈埋戻しを検討する。

A   研磨粉と粘土を混合、水に懸濁させ、希薄アルカリでセシウムをバーミキュライトに移行させる。その後、磁気分離するプロセスとする。

B   磁気分離法の一つとして、磁気アルキメデス法の可能性を検討した。

 まず、研磨-希釈埋戻しである。分級が除染−減容化に大きく貢献することは知られている。粒度の小さい粘土にセシウムは多く吸着していることが理由である。粒度の大きな砂礫は汚染レベルが低く、そのまま埋戻しが可能としていた。しかしながら必ずしも、汚染レベルが低いわけではないことが明らかになり、また、埋め戻すにはクリアランスレベル100 Bq/kg以下の濃度である必要がある。そこで砂礫の表面のセシウムが付着している層、あるいは砂礫に固着している粘土等を研磨し、分離するプロセスを採用した。本手法はすでに開発されている手法であるが、研磨後の砂礫分の放射能濃度を300 Bq/kg程度以下にし、希釈することでクリアランスレベルをクリアし、埋め戻すことを目指しているのが特徴である。

 続いて、Aの分級後の粘土成分と研磨粉を混合し、水に分散させる。そこに若干のKIあるいはK2CO3を加え、希薄(0.01 mol/L 程度)なアルカリとする。すると、変異電荷(環境のpHで正負が変化する電荷)で吸着していたセシウムが、永久電荷(構造上有する電荷で環境には左右されないもの)を有する粘土成分のバーミキュライトに移行することが明らかになった。実験は、永久電荷は持たないカオリナイトとバーミキュライトを用いて行ったが、研磨粉に吸着してるセシウムは、基本的に変異電荷で吸着しているので、カオリナイトに吸着しているセシウムと同じものである。実験であるが、図3に示すような移行の可能性を検討する評価システムを考案している。半透膜で区切られた3つの部屋の中央に、セシウムを吸着したカオリナイトを封入する。この半透膜はセシウムイオンを通すことができるが、粘土は通さない。両側の部屋に、セシウムを吸着していないカオリナイトとバーミキュライトを同量封入し、希薄アルカリで懸濁させ振とうする。その結果、セシウムは、バーミキュライトに79%、カオリナイトに2%ずつ、液相に17%移行した。このことから、効果的にバーミキュライトにセシウムを移行することができることが確認できたのである。この実験結果は図2Csの移行が可能であることを強く示唆している。現在、研磨粉からのセシウムの移行が可能であることを確認したところである。

 最後に磁気アルキメデス法によるバーミキュライトの分離である。図4に磁気アルキメデス法によるバーミキュライトとカオリナイトの分離の様子を示している。媒体は塩化マンガン1 wt%、磁場は3 THTSバルクマグネットである。バーミキュライトは永久電荷を持ち常磁性である。カオリナイトは永久電荷を持たず、反磁性である。分離の結果は、中央がバーミキュライトで周囲の白い紛体がカオリナイトである(若干見にくいが)。簡単に分離が可能であることが確認できている。現在は、媒体を水に換えて実験を行っており、良好な結果が出つつある。

西嶋茂宏教授によると、「高勾配磁気分離法と磁気アルキメデス法とどちらが望ましいかは、実験結果を基に、実システムを設計してみないと何とも言えないが、いずれにしても、汚染土壌の減容化に強磁場が有力な手段を与えてくれそうである。」とのことである。 (磁場で貢献)

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テキスト ボックス: 図1 広野町の仮置き場。

テキスト ボックス: 図2 考案した汚染土壌減容化フロー。

 

テキスト ボックス: 図3 セシウム移行実験セル。

テキスト ボックス: 図4 バルク磁石でバーミキュライトとカオリナイトを分画できる。