SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.3 June, 2014 


10 MW超級風車の調査研究の一環として

大型風車用超電導発電機の要素技術研究開発を実施中!

_産総研、古河電工、前川製作所、新潟大学、上智大学、東京大学_


 自然エネルギー導入量の飛躍的拡大は、我が国が取組むべき最重要課題の一つであり、風力発電に関しては、発電サイトの総発電容量を増大させ発電コストの低減をもたらす風車の大型化と洋上への拡大が大きなトレンドとなっている。このため、NEDO新エネルギー部では、風力発電高度実用化研究開発事業の中で「10 MW超級風車の調査研究(平成25~26年度)」を実施することになった。

 本研究開発では3つのテーマが採択され、「全体設計グループ(日立製作所)」がダウンウインド方式の3枚翼 10 MW風車の概念設計を行い、「要素技術グループ(産総研・東大・三重大・風力エネルギー研究所)」が、高速2枚翼風車などの先進的な技術を中心として要素技術のフィージビリティ・スタディを行う。そして「発電機グループ(産総研・古河電工(新潟大学・上智大学)・前川製作所(東京大学))」が、10 MW超級風車用の突極型超電導発電機(鉄心利用)全体の概念設計を行うとともに、それを製作するための要素技術の研究開発を行う。

 風力発電において、風力エネルギーを効率よく電気エネルギーに変えるためには、周速比(ブレード先端の速度/風速)を適当な範囲の値(3枚翼風車では 6-10)にする必要がある。このため、ローター径の大きな大型風車では風車の回転速度は小さくなり、ローター径が180 mにもなる 10 MW級風車の回転速度は 10 rpm以下となる。現在の主流である 2-3 MW風車では、多段増速器(ギア・ボックス)を用いて発電機の回転速度を 100 倍以上にする方式が一般的であるが、発電機の大容量化(>6 MW)に伴って増速器が技術的限界に達すると見られている[1]。このため、増速機を用いないダイレクトドライブ方式(ギアレス、大型多極同期発電機)が有望視されているが、現用技術の延長では大容量化に伴う体格・重量の増大やコスト増が大きな問題として懸念されている[1]。こういった観点から、三菱重工では、独特なデジタル制御油圧ドライブトレインによる 7 MW発電機を製作し、福島沖で浮体式洋上風車として実証試験を進めている [2]。また、単段増速機を用いて発電機の回転数を 10倍にする中速機も、大容量発電機の候補である[1]

 このような従来技術に対して、高電流密度・高磁界を特長とする超電導技術を利用することで小型・軽量な大容量発電機を製作できることが最近の設計研究で示されており[3,4]、それが実現すれば、洋上風力発電の普及拡大を大きく促進することが期待される。ただ、発電機の超小型軽量化が可能である空心コイル方式(回転子のみ超電導)は、高価な高温超電導線材を大量に使用するため、線材価格が現状の数分の1になったとしても、10 MW級発電機に期待される3~4億円というコストの実現は困難であることがわかった。回転子に鉄心利用超電導コイルを用いても従来型のダイレクトドライブ発電機の半分程度に軽量化できるため、今回の研究開発では、線材使用量が空心コイル方式より1桁程度小さい鉄心利用方式を前提にした。

 鉄心利用超電導発電機の概念設計を行い、鉄心(インナーヨーク)を含めて回転子全体を冷却する構造では、極低温容器の存在により回転子と固定子との空隙が大きくなって磁束の利用効率が悪くなるため、鉄心の周りに配置する超電導コイルのみを冷却するコイルモジュール方式と比較して小型・軽量化に難があることがわかった[5]。このためコイルモジュール方式を採用することにし、真空容器の構成法、コイル支持方法などを検討し、侵入熱を理論的に見積るとともに、実際に真空容器を製作し、銅製のダミーコイルを極低温ヘリウムで冷却する試験を行って熱侵入量の評価を行なった。実サイズのモジュール1つ当たり約20 Wと予想し、設計した10 MW超電導発電機は 36 極機であるので侵入熱は全部で約700 Wと試算されたが[6]、実際には、図に示すように6個程度のコイルモジュールを直列接続して励磁すると想定されるので、電流リードからの侵入熱が低減されて 500 W以下になるはずである。

 本調査研究では、鉄心利用超電導発電機を製作するための重要な要素技術である以下の3つのキーコンポーネントについて研究開発を行う。

(1) 鉄心利用超電導発電機用コイルモジュール:レーストラック型の超電導コイルをコンパクトなドーナツ型真空容器に格納したものであり、鉄心の各突極の回りに配置され、極低温ガスを循環して冷却される(1)

(2) 高信頼性冷凍機:冷却温度20~40 K、冷却能力1 kW級で、ナセル内に設置可能な寸法を有し、3年以上メンテナンスフリーなブレイトン冷凍機

(3) 超電導回転子用冷媒給排装置:極低温冷媒を静止系から回転する真空容器に供給するための装置で、内蔵型冷媒循環ポンプと回転・静止型熱交換器から構成される(1)

さらに、上記3つのキーコンポーネントの研究開発成果を活用し、コスト試算も含めた発電機全体の評価を行って、10 MW超級風車に用いる超電導発電機の実現可能性を実証する予定である。本研究開発の取りまとめを行っている産総研エネルギー技術研究部門の山崎裕文グループ長は、「これまで、電磁設計の結果を元にして、どのようにして実際の発電機を製作できるかを産学官で検討してきた。今回、幸いにしてNEDOのテーマに採択されたので、実際にものを作るとともに発電機全体の概念図を描いて、風車メーカーに超電導発電機の有用性をアピールしたい。風力発電先進国の中国で 12 MW級超電導発電機を実際に製作する、と言う関係者の発言もあるので、何とかして、次のプロジェクトに繋げたい。」とコメントしている。  (塞翁が羊)

参考文献

[1] 野澤哲夫:日経エレクトロニクス, 1110, pp. 63-71 (2013)

[2] http://www.mhi.co.jp/csr/csrreport/specialfeature/specialfeature02.html

[3] 福井 聡:低温工学, 476, pp. 362-369 (2012)

[4] Y. Terao, M. Sekino and H. Ohsaki: IEEE Trans. Appl. Supercond., 23, 5200904 (2013)

[5] 福井、古瀬、他:未発表データ

[6] 山崎、名取、古瀬:第882013年度秋季低温工学・超電導学会講演概要集、p. 93 (2013)

 

冷媒給排装置+コイル+回転機  

テキスト ボックス: 図1 突極型超電導発電機の回転子と超電導コイル
モジュール・極低温冷媒給排装置の概念図