SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.2 April, 2014


国内初の超電導ケーブル系統運転試験 無事終了      _ SUPERCOM 事務局_


  弊 SUPERCOM 誌では、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託により進められている「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」 ( 東京電力−住友電工−前川製作所 ) について、随時取材を実施してきた。本プロジェクトは、国内初となる超電導ケーブルシステムを実系統に接続し、ケーブル性能・信頼性・安定性を評価することを目的としている(図 1 、図 2 参照)。前回は、東京電力旭変電所で国内初となる 系統連系運転が開始されてから、 7 ヶ月後となる 2013 年 5 月 29 日に取材し、それまでの運転状況を報告した。今回、前回に引き続き東京電力にご協力を頂き、 2012 年 10 月 29 日〜 2013 年 12 月 25 日の期間にわたる系統連系運転について振り返って頂き、運転実績の総括や今後の展望を取材させて頂いた。

 図 3 は系統連系期間中の約 14 ヶ月間にわたる運転状況の推移、表 1 は運転実績をまとめたものである。途中、臨界電流測定等の定期検査のために、 2 回の計画的な系統切り離しを実施しており、この期間を除く系統連系運転の実績日数は 400 日程度であったとのこと。図 3 を見ると、送電電流は、系統連系直後は 300 〜 500 Arms で、その後、夏季において最大 1127 Arms を記録している。超電導ケーブルの臨界電流値が 77 K で 6000 A 以上であることを考えると、臨界電流値に対する負荷電流の波高値の割合(負荷率)は 27 % 程度であり、電流に関して裕度のある運転であったと言える。また、系統切り替えに伴う電流変動を 50 回以上経験しているが、安定に運転制御が維持され、主要指標である冷媒流量、冷媒圧力は 40 L/min 、 0.20 〜 0.25 MPaG の動作範囲に維持されている。冷媒温度は、運用開始当初、制御中心値である 69 ± 1 K の範囲で制御していたが、冷凍機冷却能力の温度依存性や、長距離線路適用時の温度上昇に対する信頼性検証を目的として、徐々に設定温度範囲を上げ、最大で 79 ± 1 K の範囲まで変更したが、安定運転が継続されることを確認できたとのこと。また、今回、運転期間中に負荷側の 66 kV 架空送電線で雷による一線地絡事故があり、健全相の対地電圧の上昇、地絡電流の流入を経験したが、ケーブルシステムへの影響はなく安定運転を実証できている。 PJ を通じた気象条件の変化の影響について聞いた所、気象庁 HP の横浜市気象データを元に作成した系統運転期間中の気象実績を表 2 の通り整理していた。震度 4 の地震、台風の接近・上陸や最大 37.4°C の猛暑日に対しても、安定運転を実証できたことがわかる。取材をしていて、外部事故や気象実績は系統連系運転ならではの貴重な検証条件となるが、こればかりは制御できないと苦笑してしまった。

 運用面の実績として、故障等によるトラブル対応について伺った。本システムは無人運転を指向しており、故障が生じると各メンバーの携帯電話に警報が発信されるシステムとされている。今回は、送電停止が必要となるような重大故障はなく、 UPS のバッテリー低下や、警報設定値の不備といった軽微故障のみであり、トラブル対応に追われて多くの時間を費やすといった負担はほとんどなかったそうである。

 プロジェクトリーダーでもある本庄昇一氏に、課題について伺ったところ、一つ目は、「冷却システムの効率改善であり、現状のシステムでは、消費電力に対する除去熱量の割合を示す COP が、運転前の検証試験で 0.05 程度であったものが、冷凍機の冷却能力に経時的に低下が見られ、 0.04 程度に下がってしまった」とのこと。これに対しては、 COP=0.1 を目指した高効率型のブレイトン冷凍機の開発を進めていて、現在、前川製作所守谷工場の方で運転試験を実施しているそうである。二つ目は、「曲がり部を含むケーブル部の侵入熱の低減が重要で、今回の実証試験では、臨界電流値に対する負荷率が小さく、交流損失による熱負荷上昇は無視出来る程小さかったが、外部からの侵入熱が大きく、特に直射日光による表面温度上昇など予想外の熱負荷も加わったため、冷却システムの運転にかなり気を配った」そうである。このため、断熱管の構造見直しに加え、経時的な真空度維持対策などについて、引き続き検討していくとのことである。

 最後に、プロジェクト全体を振り返っていただき、「無事にプロジェクトを終了できたことは、 NEDO や各委員会の皆様を始め、多くの方々のご支援・ご協力のおかげであり、まずは、そのことに感謝の言葉を申し上げたい。また、実系統連系運転を無事に達成することで、社内外の関係者に超電導ケーブルの信頼性を示すことができたと考えている。ただし、実適用の為には、内部・外部故障に対する超電導ケーブルの安全性をしっかり評価することが必要であり、今後も、謙虚な気持ちを忘れずに、強い使命感を持って取り組んでいきたい。」とのコメントをもらった。

 今回の実証試験では、系統接続時の長期運転において安定した運用を確認することができ、実用化に向け大きく前進したと言える。超電導ケーブルの安全性に関する次期 PJ も計画されているとのことから、事務局として、引き続きこれらのプロジェクトの動向に注目していきたい。 ( フランシスコ・ザビエル )

図 1 超電導ケーブルシステム配置図

 

図 2 各部位の外観写真

図 3 系統連系期間中の運転状況推移

 

表 1 系統連系期間中の運転実績総括

表 2 系統連系期間中の気象実績