SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.2 April, 2014

 

 


 

石狩直流超伝導送電プロジェクトの状況 _中部大学、住友電工、千代田化工、さくらインターネット _

 


 経済産業省の平成 24 年度の委託により、中部大学、住友電工、千代田化工、さくらインターネットの四者によるコンソーシアム方式にて、実施されている「高温超電導直流送電システムの実証研究」が開始されてからほぼ一年が経過した。

 本実証研究は、石狩新港地域 ( 図 1) を実証サイトとして、高温超電導直流送電システムを建設し、石狩データセンタ等の直流需要施設と直流電源施設あるいは商用交流変電所からの送電を行うことによって、トータルシステムとしての実運用システムの構築、さらに将来の長距離送電システムを実用化するための技術的、制度的課題を抽出することを目的としている。具体的には、システムとして 2 回線を設置し、回線 1 はさくらインターネット株式会社の石狩データセンタと同社保有の太陽電池を約 500 m の超電導ケーブル ( 住友電工製 BSCCO ケーブル、同軸・双方向通電 ) で接続して通電安定性の検証に供し、回線 2 は交流変電所付近から km 級の送電システムを公道脇に設置し、長距離送電のための準備・検討を実施する。 ( 図 2)

 本システムは、中部大学のもつ 200 m 級の超電導直流送電設備の運転実績をベースに、長距離送電の実用化を見据えて、断熱二重管及び端末接続部の低熱侵入化、長距離冷媒循環システムの構築、ケーブルの熱収縮対策等を一歩すすめた構成となっている。

 まず、配管に用いる断熱二重管については、冷媒の圧力損失が小さいことが期待される直管を採用し、熱侵入量及びコスト低減のため図 3 に示すようにケーブル配管 (65 A) & リターン配管 (50 A) を同じ外管に入れ、それぞれに新しく開発された多層断熱材を巻き付けている。これにより、配管からの熱侵入量について、従来よりもはるかに低い 1.5 W/m 以下を目指しており、中部大学におけるテスト配管を用いた予備試験において、目標性能が確認されているとのことである  ( 本試験結果の詳細については、 5 月 26 日からタワーホール船堀において開催される低温工学・超電導学会研究発表会にて報告される模様 ) 。また、超電導ケーブル端末には中部大学が開発したペルチェ電流リードを採用し、低熱侵入化をはかっている。これらにより、冷凍機 (2 kW) と補助冷凍機 (1 kW) 及び液体窒素ポンプ等の台数を減らすことができ、経済性に優れた冷却システムが構築可能になる。

 冷凍機については、 NEDO プロジェクト 「イットリウム系超電導電力機器技術開発 ( 平成 20 ? 24 年度 ) にて開発された大陽日酸製ターボブレイトン冷凍機 (2 kW) を超電導ケーブルシステムとしては世界で初めて採用する。本冷凍機は磁気軸受を採用しているため、長期間メンテナンスが不要という利点がある。

 ところで、超電導ケーブルは常温から液体窒素温度に冷却する際に約 0.3% の熱収縮が生じることが知られている。長尺になるほど、この熱収縮は大きな問題となる。例えばケーブル長が 500 m の場合は、熱収縮は 1.5 m となり、冷却時の破断、そして昇温時の座屈によるケーブル破壊が起こらないように対策を講じる必要がある。これについては、中部大学の 200 m 実験設備における冷却・昇温時のケーブル挙動の X 線写真の解析により見いだされたヘリカル変形挙動を積極的に利用することで対策する予定とのことである。

 初年度を終えて以上の機器・部品の設計と製作はほぼ終了し、今年度 6 月頃から、まず回線 1 の敷設工事がスタートする予定。 12 月には完成し、冷却開始し、年度内に通電試験を開始する計画になっている。一方、回線 2 は公道沿いに埋設するため、道路管理者との折衝や雪などの影響などにより試掘調査になかなか着手 できずルート決定が当初予定より遅れているが、ルートの影響を受けない主要機器等の設計及び製作の大部分はほぼ終了している状況である。

 本実証研究は、冒頭に述べたように初年度は中部大学、住友電工、千代田化工、さくらインターネットの四者によるコンソーシアム方式で実施されたが、さらに効率的に技術開発を行うために、石狩超電導・直流送電システム技術研究組合 ( i-Spot ) がこの四者により本年 1 月 20 日に設立された。 2 年目となる平成 25 年度産業技術研究開発「高温超電導技術を用いた高効率送電システムの実証事業」 ( 経済産業省 ) は i-Spot として受託し、実証研究を推進する。

 さて、超電導送電の実証研究に関しては数年前までは交流送電一辺倒であったが、ここ数年の間に、中国 ( アルミ電解工場 ) 、ロシア (St.Petersburg) 、韓国 (Jeju) にて、数百 m ? km 級の超電導直流送電の実証研究が計画・実施されてきており、これからは直流送電の分野も目が離せない状況になってきたといえる。 (SUPERMOM)

 

 

図 1  石狩湾新港地域の位置(石狩市 HP より引用)

図 2  試作システム概要

 

図 3  断熱二重管構造の模式図