SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.1 Febuaryr, 2014

本新春号では高温超電導体の線材、バルクの現状と 2014 年の展望を特集しました。

 


コラム >  2014 年 “ 年頭のことば ”

「 靴磨きからの脱却」                    仁田 旦三(明星大学)


 住友電気工業株式会社が製造している DI-BSCCO 線材は、国内外問わず、ケーブル応用やコイル応用 ( 含む電流リード応用 ) の幅広い分野の実証試験や研究に供給されている。特に、最終製造工程に「 あけまして、おめでとうございます。この原稿を書こうとしているときに、日本で万能細胞作成の発表を聞き、最近の日本における技術に関するイメージが変わったように感じた。この年頭の辞の内容を変えようかと考えたが、引き受けた当時に思っていることを書くことにした。
  MgB 2 、鉄系など新しい超電導体の発見が日本においてなされたことは、非常に喜ばしいことである。その中でも Bi 系の超電導体を用いた送電ケーブルが製作、実系統における実証試験が行われ、さらに、電気設備の技術基準に載せる方向であることを聞いている。まさに、材料発見からシステムまでを含めた全過程を実践し、実用化に向かっている。この開発過程を非常に評価したいと考えている。その理由を以下に述べることにする。
  今までの日本の技術を「靴」にたとえて話を進める。日本において、「牛をみて、その皮を利用する。」考えがあまりないように思う。一つには、その考えを余り評価しないことにあると思う。さらに、「皮を利用して靴を作る。」考えもあまりないように思う。しかし、「革靴」の概念ができあがれば、「ぴかぴかの靴を作る。」が日本の技術の特徴であると思う。この特徴を持つ他国があまりなかったため、日本の技術が世界に評価され、資源に乏しい小国が経済大国となったわけである。自信をもってこの靴磨き技術を評価すべきと考えている。しかし、台頭している国々が増え、この「靴磨き技術」だけでは、日本の将来が危ないとも言われるし、また、携帯電話を例にとって、磨きすぎで「ガラバゴス化」と自己批判も行われている。
  それでは、なぜ「靴磨き技術」が世界における日本を一等国にしたのか? それは、単に一所懸命に磨いたのでなく、靴皮の性質、靴クリームの性質、さらに磨き布の性質等の基本に立ち返り、調べ、研究することによって、なしえたと考える。従って、自慢すべき技術であり、他国が容易にまねできなかったと考える。
  フランスが金属系交流超電導線を開発しているときにたまたまフランスを訪問していた。実用線の可能性について質問したところ、「日本がそれをするだろう。」との答えであった。自分のことは他人がよく知っている例でもあるが、日本の技術が評価されていると考えても良いのではないか。事実、その後、世界で一倍よい金属系交流超電導線を作ったのは日本だと思う。
  このようなことで、「靴磨き技術」も大いに評価すべきと考えるが、 パソコンを磨いて、世界一流のパソコンを作り、また、携帯電話を磨いて、多機能化をしたが、それからタブレット端末の概念に至らなかった。非常に残念である。家庭内のワイアレス電話を磨いて、 PHS を作ったが簡易携帯電話と称され、低い評価しかされなかった。少し、頑張れば、「靴磨きからの脱却」ができたのではないだろうか。
以上の様なことで、 Bi 系の超電導送電ケーブルの実用化への一連の技術とその過程が「靴磨きからの脱却」への道を切り開く一つの先導となることを期待している。