SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.1 Febuaryr, 2014

本新春号では高温超電導体の線材、バルクの現状と 2014 年の展望を特集しました。

 


MOCVD 法 RE 系線材 現状と 2014 年の展望 _古河電工_


 古河電工の完全子会社である SuperPower 社では MOCVD (Metal Organic Chemical Vapor Deposition) 法による RE 系超電導線材を製造しており、世界各国の企業、研究機関の機器開発に採用されている。 MOCVD 法は大面積での結晶成長に適し、将来的にコスト低減に有利であると期待できる。
  現在、風力発電機や MRI 用として高温超電導線材を使用した大型の超電導コイル開発が進んでおり、これらの機器では 50 K 以下の温度、数テスラ以上の高磁場中にて超電導コイルを運用する事になる。 SuperPower 社では上記の使用条件において最適な超電導特性を示す、柱状人工ピンを導入した超電導線材 (Type AP: Advanced Pinning) を長年にわたって開発、提供を続けている。本稿では磁場中用途向け超電導線材の特性と機械的強度について紹介する。
  一般に RE 系超電導線材は薄膜状の超電導結晶を金属基板上に中間層を介して配向成膜させることにより製造されているが、この超電導結晶は大きな異方性を持っており、磁場の方向によって臨界電流特性は大きな変化を見せる。例えば、磁場がテープ状線材のテープ面に平行な方向に印加される場合には 100 A の超電導電流を流すことができるが、磁場を線材のテープ面に垂直な方向とした際には臨界電流は 10 A 以下に落ちてしまう場合がある。すなわち、磁場中にて超電導線材を使用するコイル用途などの場合には印加磁場の方向はテープ面に対してどの向きを向いているのかという事が重要になる。実際に超電導線材を巻いて超電導コイルを作製し、コイルの臨界電流と磁場分布を調べると、コイル形状にもよるが、コイルの内層部分では発生した磁場は線材のテープ面に対して 10~30° の方向を示す場合が多く、この磁場の方向に対して臨界電流を大きく保つことが重要である。さらに言えばどの磁場方向に対しても臨界電流が変わらない線材があれば理想的である。 SuperPower 社では超電導結晶内にナノサイズの BZO( バリウム・ジルコニウム酸化物 ) 柱 ( ナノロッド ) を成長させることにより磁束のピン止め力を向上させた製品を製造している ( 図 1) 。

 

 図 1 超電導膜中の柱状 BZO ( 左図:超電導膜断面、右図:膜表面 )

 

 SuperPower 社では磁場中での臨界電流特性を更に向上させるべく超電導膜の組成や製造プロセスの検討を行っている。これらの検討により低温、高磁場での臨界電流特性は従来比で約 1.5 倍に改善する事に成功しており ( 図 2 、図 3 :測定は東北大学 強磁場超伝導材料研究センターにて実施 ) 、今後この新しいプロセスを製造ラインに適用することを予定している。また、外部磁場無しの臨界電流を損なうことなく BZO ナノロッドの密度を高めた線材の開発も行っており、磁場中特性は更に向上する見通しが得られている。上記のような高特性線材の開発評価のため、 2014 年は低温、磁場中特性の評価システムを活用し、磁場中特性の均一化に向けた検討を行っている。
  また、コイル機器へ RE 系超電導線材を適用する上では超電導線材の機械特性も重要な要求特性の一つである。コイルに電流を流すと、発生した磁場と電流の間にローレンツ力が発生し、超電導線に大きな応力がかかる。線材にかかる応力の向きはコイルの形状や磁場分布により変わるが、ほとんどの場合はコイルの巻き径を外側に拡げる方向の力が発生し、線材を引っ張る方向の応力が生じる。信頼性の良いコイルを作るには、より薄い基板材料を用いてより大きな電流を流すことでコイルの電流密度を上げる必要があるが、この場合は単位厚さあたりの引張応力が大きくなり、強度の弱い基板材料では線材が伸びて超電導膜が伸びて断線してしまう。そのため、コイル応用向けの超電導線材には磁場中での電流密度と基板材料などとの機械的強度のバランスを取りながら両方の特性を向上させていくことが求められている。 SuperPower 社ではこの要望に対応するべく、総線材厚 0.1 mm 以下の高強度線材を開発し各国の超電導コイル開発に利用されている。現在、コイル用途向けの線材としては厚さ 0.05 mm の高強度ハステロイ基板を使用し、また超電導線材を覆う銅安定化層を片面 0.02 mm とする事で超電導特性および機械特性のバランスを取って いる ( 図 4 、図 5) 。このように、 SuperPower 社ではコイルの使用条件、用途に合わせて最適な線材を提供している。今後は更に薄い超電導線材の要望が高まってくると考えており、現在さらに薄い基板材料を用いた超電導線材の開発を行っている。
  また、超電導コイルを開発する上で、超電導線材を引き剥がす方向の力により超電導特性が劣化する場合がある事も課題の一つとなっている。超電導線材の剥離応力に対する特性を評価し、対策を取ることはこれまでは困難であったが、 SuperPower 社ではより実際的な剥離強度評価方法の検討を行ってきた。
現在では製造工場内に設置した様々な試験機により機械特性の評価が可能となり、製品の品質追求を進めている。
  近年、国内外で大きな RE 系コイル開発プロジェクトが立ち上がっており、 RE 系超電導線材の市場は更に大きくなることが予測される。線材メーカーとして市場拡大に貢献するべく更なる製造能力の向上と高品質化を図っている。( ヤス )

          図 2 磁場中の臨界電流特性 ( B ⊥ tape)

 

 

 

 

         図 3 臨界電流の磁場方向依存性

 

 

 図 4 異なる厚さの Cu 安定化層を持つ歪−応力曲線 ( 室温 )

 

 

 

 

 

        図 5 SuperPower 社線材の構造