SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.1 Febuaryr, 2014

本新春号では高温超電導体の線材、バルクの現状と 2014 年の展望を特集しました。

 


PLD Y 系線材 現状と 2014 年の展望 _ フジクラ _


 PLD 法は高い酸素分圧下において高強度の紫外パルス光を用いて焼結体ターゲットの表層を選択的に高速蒸発させることが出来るため、他の製法に比べると元素組成比等の条件変動がし難く、比較的少ないパラメータ管理で長時間の安定合成が可能である。フジクラにおいては、一貫して物理的気相法である IBAD 法中間層と PLD 法超電導層の組み合わせによる Y 系線材プロセス開発を続けて来ており、 PLD 法については僅かな温度変動を補償するために、蒸着領域全体を均熱炉方式で輻射加熱する ( ホットウォール方式 ) 等の試みで更なる歩留改善、生産性の向上が進められてきた。
  この方式は蒸着環境がより熱平衡に近い条件になることから膜成長面の温度コントロール性に優れていると考えられ、ロット内、ロット間の全長均一性が高くなる傾向が見られる。その結果、現在 10 mm 幅線材において 300-500 m 単長程度での成膜が通常ルーチンで行われている他、 1 km 単長についてもサンプル作製は可能となっている。
  市販にあたってはこれを 5 mm 以下の線幅に裁断し、安定化銅被覆を行い絶縁を施して線材を構成する。線幅が小さくなるほど局所的欠陥による影響が露わになり、ユーザー要求を満たす均一性維持が難しくなる傾向にある。現在の標準である 5 mm 幅からより中心仕様の細幅化が出来ないか検討を進めており、 3 mm 幅程度までは市販可能となっている。基板厚さについても現在は取扱性を考慮し 75 m m 厚を標準としているが、同様に中心仕様の薄厚化の可能性を検討している。銅被覆については、現在は製造コストの低い半田 による銅箔貼り合せ方式を標準としており、厚さについては 300 m m 厚程度まで対応可である。更に銅厚が薄いことが望ましい場合は銅メッキ方式被覆 (20 m m 程度以下 ) で対応しており、結果線材厚みは絶縁含め 0.14 mm 程度となる。
  磁場特性についても、コイル設計上線材全長における均一性が重要であることは言うまでもないが、図 1 に示す 1 km 長線材の一部を切り出し、広い温度領域で 3 T 垂直磁界中における特性を評価した結果、自己磁界中と変わらない高い均一性を維持していることが確認されている。図 2 にいくつかの市販線材において、 20 K 、 15 T の磁界中特性と、液体窒素温度における自己磁界及び 0.6 T 磁界中の特性をプロットした図を示すが、液体窒素温度の磁界中特性と低温強磁界中の特性がよくスケールしていることがわかる。自己磁界特性においては J c の膜厚等へのパラメータ依存性が磁場中と異なる振る舞いが見られるが、 0.6 T 程度の小さな磁界で広範囲の特性を予測可能であることは、量産品として重要である。近年人工ピンによる Y 系線材特性の向上が多く報告されており、高温における実用化、強磁界特性の改善のために有効であるが、市販線材においては均一性と量産性に優れることが最も求められ、磁場特性が複雑過ぎないことも望ましい要素となる。
  Y 系線材は高強度の Ni 基合金を基板として用いることから、当初より機械特性の高さが期待されてきたが、本線材についても 1 万回の繰返し引張試験を液体窒素中で実施した結果、 0.46% 歪、 765 MPa の応力において劣化無く超電導特性が維持されていることが確認された ( 図 3) 。脆性材薄膜であっても高強度基板に支えられて大きなフープ力のかかる強磁界応用等を想定出来ることがわかる。一方、樹脂含浸コイルにおいて問題となる垂直引き剥がし方向の剥離力については、プロセス均一性管理による局所欠陥低減と比例して改善の傾向にあるものの、脆い超電導層が起点となる破壊が要因となっていることから限界があり、そのままで通常の含浸構造を適用することは難しく、線材側、コイル巻線側双方の工夫が必要である。例えば銅メッキ方式線材を適用することで銅貼り合せ構造のエッジ部の応力集中破壊を克服することが考えられるが、巻線側で剥離方向応力を低減する工夫も有効で様々な検討が進められている。フジクラにおいては銅保護層を貼り合せた構造の線材を 7.2 km 用いて含浸剤の影響を低減する工夫をした 24 層の含浸パンケーキコイルを作製し、 25 K 駆 動で 5 T の磁界を発生する 20 cm ボア径の伝導冷却コイルを開発した。同コイルは 2012 年秋に製造後、社内の磁場特性評価設備で実用に供されており、これまでのところ 1 年半の稼働に於いて劣化等の問題は全く生じていない。
  一方、 Y 系線材は高 J c であることから低ロス大容量ケーブル実現への期待がある。 NEDO 「 交流 超電導電力機器基盤技術研究開発」プロジェクトに於いて、 4 mm 幅の IBAD/PLD 法線材を 4 層計 60 本撚り合せた構造にて 15 m 長のケーブルを試作した結果、 77 K , 5000 A の通電で 1.4 W/m の低ロスを達成した ( 図 4) 。これは同一容量のケーブルに対して低い結果であり、より少ない線材量で熱負荷を下げられることを意味し、均一性の高い Y 系線材を用いることで線材境界部の垂直磁界成分の影響が低減し、ケーブル製造のコストダウンに繋がるという予測が改めて検証された。
  Y 系線材はいずれの製法も平滑な基板上に高度に結晶配向させた薄膜を成長させるテープ構造という点で共通しており、信頼性高い製法による低コスト量産体制の確立が急がれている。 PLD 法は高額なエキシマレーザーを必要とするものの、同種のレーザが液晶ディスプレイ製造プロセスで使われることから近年の技術進展が著しく、従来懸念されてきたランニングコストは大幅に低下しつつある。気相合成法としては制御パラメーターが少ないこと、材料収率が高い製法 ( 50% 程度 ) であること、紛体焼結のみで原料ターゲットを構成できる等、生産性やコスト面で有利な点も多く、事業化へ向けて QCD (Q: quality, C: cost, D: delivery) が急ピッチで進められている。現在、 10 mm 幅で 300 km / 年の製造を想定する設備として、ロードロック機構を備えた大型のホットウォール方式製造装置のライン化を進めており、品質、歩留の更なる向上と、製造 の キャパ シティ 拡大を図る予定である。 ( DB601 )

 

 

図 1 1 km 長線材の長手方向 I c 分布特性(77 K, 0 T 及び 20~77 K の 3 T 磁界中 ( B c ))

 

図 2 20 K, 15 T の磁界中特性と、液体窒素温度における自己磁界及び 0.6 T 磁界中特性の相関

 

 

図 3  液体窒素中の 1 万回の繰返し引張試験結果

 

 

図 4 IBAD/PLD 法線材を用いて作製した 15 m 長 モデルケーブルの通電 ac ロス