SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.24, No.6 Decemberr, 2013


≪会議報告≫

2013 年秋季 低温工学・超電導学会( 2013 年 12 月 4 日〜 6 日 @ウィンクあいち)


Bi 系線材とその応用

 Bi 系の発表件数は線材特性 4 件、薄膜基礎物性 2 件、コイル応用 7 件、ケーブル応用 6 件であった。
  住友電工の菊地より、高 J e ・低コスト線材開発の報告があった。線材厚みを 0.23 mm から 0.20 mm まで薄くすることで J e は約 15% 向上した。なお、銀の使用量も低減することで低コスト化も可能であるとした。補強材に XX を用いた Type HT-XX では 77 K における引張り強度は 500 MPa を超え、薄型の new Type H とともに 2014 年春を目処に製品化を目指す見通しを示した。住友電工の長部は、局所 I c 分布を高い空間分解能で測定できる DDMS 装置について報告した。線材内に発生する遮蔽磁場をホール素子で測定する方式を採用している。平均 I c = 186 A の線材の全長分布を計測した結果、 I c の標準偏差は 3.6 A 、 COV は 2% と優れた均一性を示している。印加する磁場の強さについて議論がなされた。大同大の町屋は、 Type HT の引張り・圧縮歪みが I c や格子歪みに及ぼす影響について報告した。スプリングボードで様々な歪を与えた状態で白色 X 線による回折ピークを測定した結果、 -0.1% 以上の圧縮歪をかけると格子歪みと線材歪みとの線形関係から外れることを示し、 Type HT の歪みの window 幅は Type H に対して引張り側には広がるが圧縮側には狭くなることを明らかにした。これに関連して、応用科研の長村は曲げ径に対する I c の振る舞いが圧縮 / 引張り応力下におけるフィラメントへの歪みから説明できることを明らかにした。線材の圧縮側の振る舞いについて、今後さらに深い議論がなされることを期待する。
  物材機構の松本は、 (Bi,Pb)2223 薄膜の特性について進捗状況を報告した。キャリア調整やターゲット組成の最適化により、平行磁場中の J e は昨年時に対して 10 倍向上しているが、先行例などを鑑みるとさらに上がってくるものと思われる。今後より良質な薄膜ができてくることで、性能向上のきっかけとなる指針が得られるが期待される。熊本大の吉村は、 Pb 入り 2223 薄膜の特性への影響について報告した。物材機構と同様の方法で作製された薄膜に対して柱状欠陥を導入した結果、中磁場領域において J e が向上するとしている。
  日立の青木より、非強化線材で巻いた超電導コイルの伝熱特性改善方法について提案があった。ソレノイドコイルの層間にプリプレグシートを挿入することで、コイル軸方向の伝熱抵抗はエポキシ樹脂含浸と同等になると見積もられ、通電試験の結果はこの考え方を支持している。冷却用ボビンとの接触熱抵抗低減や励磁・減磁時の過渡的な変化を抑え込む対策が今後検討される。住友電工の山口より、クエンチ保護手法に関する報告があった。実機を模擬した DI-BSCCO ミニコイルを用いて、コイルを保護するためのクエンチ検出電圧と電流減衰時定数の関係を明らかにし、今後 20 MW 級回転機の実機規模での設計に反映される見通しを示した。京大の長崎より、宇宙機搭載用高温超伝導マグネットの設計検討に関する報告があった。今回はコイル内に誘導される遮蔽電流の残留磁場への影響に関するする解析コードと実測との整合性を検証している。 Bi2223 コイルでは遮蔽電流によるコイル磁場への影響が小さくなることが確認され、これは素線内にフィラメントブリジングが 10 mm 程度の間隔で存在していることで説明できる、との仮説を述べたが、遮蔽電流の減衰に最も影響を与える線材内抵抗の特定に取り組むとしている。住友電工の上野より、 3 MW 級船舶用モータに搭載する DI-BSCCO レーストラック界磁コイルの耐久試験結果の報告があった。 He 浸漬下で 43 MPa の拡張力を 2400 回繰り返しや 20 回のヒートサイクル後も劣化は見られなかったとのことで、実用上重要となる高温超電導コイルの耐久性に関して成果が見られている。
  京大の中村は、高温超電導誘導同期回転機の開発状況を報告した。 HTS 回転子と Cu 固定子を用いた 20 kW 級試作機では、 26.8 kW の過負荷耐量 ( すべり回転 ) を確認した。電機子巻線では、バンドル導体と鉄芯スロットの磁気鏡像効果を利用した大電流容量化と電流負荷率低減による交流損失低減の考え方を示した。鹿児島大の平山は、高温超電導リニアスイッチトリラクタンスモータの研究報告がなされた。高出力化、高推進力化を目指して励磁巻線には Bi2223 線材を用いており、今回はその通電特性の結果を紹介した。
  中部大の山口は、石狩市での超電導直流ケーブルプロジェクトの概要を説明した。さくらインターネットのデータセンターまでの 500 m ならびに北海道電力の電力系統からの 2 km を Bi 系超電導ケーブルで輸送する。将来には稚内の風力発電施設からの 200 km 区間の超電導ケーブル送電構想も紹介された。早稲田大の佐藤より、 HTS ケーブルの過電流通電時の圧力解析コード開発を報告した。短絡電流が流れた場合、液体窒素が気化してケーブル端末から吹き出すことによって端末部圧力が上昇し、その程度は初期気体体積に大きく依存すると考えられているが、住友電工熊取での 30 m 級ケーブル実証試験結果に対して解析結果が乖離しているなど、解析モデルの再検討が必要とのことである。住友電工の渡部は、 66 kV 級高温超電導ケーブルの実系統運転状況について報告した。運転開始 9 か月後に系統から切り離して I c 測定を実施したが、変化は見られずケーブル特性は安定している。また、負荷変動に対しても冷凍機台数制御により安定して冷却できているとのことである。侵入熱の大きな夏場では、遮光塗料をケーブルおよび端末に塗布することで安定して送電することができたとのこと。鉄道総研の福本は、線材の過電流特性を評価した結果を報告した。複数車両の力行が重なった場合一時的に大きな電流が流れるが、これを想定して実際に過電流通電すると、臨界電流値以上の領域で気体窒素による大きな発砲が確認され、ケーブル化した場合には隣接する層への影響が懸念されるとのことである。今後はケーブル導体で実証される。中部大の孫は、直流ケーブルの最適線材配置を見出すことを目的に、線材の撚り方向とギャップ広さの線材特性への影響を評価した。各層の線材が平行となるように撚ることで最も高い I c が得られる。また、線材どうしのギャップ長を調整することで素線に対して最大 10% I c が上昇する。これらは自己磁場の分布形状により説明される。中部大の小原より、上記と同じ目的で電磁鋼板を組み合わせた場合の臨界電流特性の影響について報告した。 2 枚積層した BSCCO 線材を電磁鋼板で挟み込み、 neighboring 電流 I (N) を変えて I c を測定した結果、素線の I c (202.2 A) に対して I (N) = 0 A の場合 I c = 277.3 A で最大となっている。一方、 I (N) を流すと、順方向、逆方向問わず I c は低下する結果になっている。磁束密度の整形方法が今後の課題とみられる。これらの知見を今後どのようにケーブル構造に反映させていくか、注目している。( 住友電気工業 菊池昌志 )


RE 系線材・薄膜】

 名古屋大から PLD 法による RE123 薄膜作製に関して多数の報告が行われた。山垣らは、基板上に Ba-Cu-O 層からなる液相を設けて PLD 法によって成膜を行う VLS (Vapor-Liquid-Solid) 成長法により La123 を作製した。 VLS 成長法を用いると通常の PLD 法よりも成膜速度が速くなるといった利点が挙げられるが、報告では T c が 70 K 程度と大きく低下してしまったため、 La/Ba 固溶が起きていると考えられ、固溶の抑制などが可能な作製条件の最適化が求められる。澤野らは、 BaHfO 3 (BHO) 添加 Nd123 薄膜を PLD 法で作製した。 Nd/Ba 組成を変えることで J c 特性が改善したことから Nd/Ba 置換型固溶体が特に低磁場ピンニングに寄与していると考えられている。三浦らは、 LAO 基板上に Sm123 の Seed Layer を設け、その上に低温成膜 (LTG)-PLD 法を用いて BHO 添加 Sm123 薄膜を成長させた。低温での製膜により、細く高密度なナノロッドが導入され、特徴的な花火状構造が確認されている。鶴田らは、 PLD 法により [001]tilt 粒界 5° の LSAT バイクリスタル上に作製した BHO 添加 Sm123 薄膜の粒界における電流特性について報告した。粒界を挟んだ自己磁場下での J c は BHO 添加の有無に関わらずおよそ 1 MA/cm 2 で、 BHO が粒界電流特性に及ぼす影響に違いは見られていない。小島らは、 Cu サイトを微量の Co で置換した Y123 薄膜を作製し、さらに RE サイトへの Ca 置換を行うことで T c 低下の抑制を試みた。 Ca 置換試料で T c ~86.3 K を示し Ca 無置換試料に比べて T c が約 3 K 向上した。 T c 及び J c は Ca 置換量に対して上に凸の傾向を示し、 Ca 置換によりキャリアがドープされたことが示唆された。樋川らは、 BHO 添加 RE123 薄膜の RE 元素の違いによる磁束ピンニング特性を報告した。 Sm と Gd を比較すると、低磁場では同等の J c を示すものの、 1 T 以上の磁場中では Gd123 薄膜が Sm に比べて 3 倍以上高い J c を示した。 RE 元素の違いによる BHO ナノロッドの形状変化が考えられる。
  九大の向田らは、 PLD 法により作製した Y123 薄膜中における BaZrO 3 などのナノロッドの成長メカニズムに関する考察を報告した。薄膜表面に見られる花火状構造が結晶粒の大きさに対応していることを明らかにし、成長初期では基板表面に垂直であるが、膜の成長に伴いナノロッドに曲がりが生じる現象に理論的な説明を与えた。東大の元木らは、フッ素フリー MOD 法を用いて作製した Y123 薄膜の厚膜化について報告した。原料溶液に塩素をドープして 2 回焼成することにより J c 特性を維持したまま従来の 400 nm から 930 nm への厚膜化に成功した。成膜時に Ba 2 Cu 3 O 4 Cl 2 で表される酸塩化物が析出しており、これが Y123 の 2 軸配向を補助する可能性が示唆された。成蹊大の小峰らは、 TFA-MOD 法により作製した RE123 線材の最適酸素アニール温度に関して報告した。 Y123 と (Y,Gd)123 線材で J c が最も高くなるアニール温度に違いが見られ、材料によって最適アニールが異なることが確認された。ただし、今回の報告ではアニール時間が 3 時間に統一されており、低温アニールにおいては酸素導入が不十分であった可能性が考えられる。今後、平衡状態実現を意識したアニール時間の制御が必要であろう。 ( 東京大学 元木貴則 )

 

RE 系バルク】

   今回の学会では RE 系バルクの作製や着磁に関する発表が例年よりも多く見られた。「 Y 系バルク」のセッションでは 8 件の RE 系バルクに関する発表があった。新潟大の岡らは種結晶の数や配置を変えることで異方的に成長させた Y 系バルクのパルス着磁特性を評価し、種結晶を 2 個用いた場合には Y211 粒子の異方的な分布によって、より低磁場での磁場侵入が起こることを報告した。新潟大の堀内らはパルス着磁における磁場の侵入経路を導入する目的で、種結晶を 2 個用いて Y 系バルクを作製し、 2 つの種結晶間の距離を変えることによる磁束の振る舞いの違いについて報告した。東大の瀬戸山らは、 RE を混合したバルクは高磁場まで J c の減衰が起こらず、特に Y123 相原料を用いた RE 混合バルクが低温・高磁場で最も高い J c を示すことや、 Ba 2 Cu 3 O 4 Cl 2 を 0.5 mol% 添加した試料は種結晶からの距離が離れた位置での J c の低下が抑制されることを報告した。東大の山木らは、 Ga を微量添加した Y 系バルクの低温における J c - B 特性について評価し、 Ga を微量添加したバルクは低温で大きな第 2 ピークを持つことを報告した。また、電子線を照射したバルクの照射前後での J c 特性の違いについても報告した。新日鐵住金の手嶋らは Gd 系バルクの捕捉磁場特性が温度領域によって逆転する現象について報告し、従来 77 K で行われてきたピン止め点の最適設計を想定される運転温度領域によって変える必要があることを示した。岩手大の藤代らは Gd 系バルクの磁場中冷却着磁過程における電磁界と温度のシミュレーションモデルを構築し、 J c -B 特性の実測値をシミュレーションに導入することで捕捉磁場の温度依存性を再現したことを報告した。また、バルクと cold stage の熱抵抗を最適化することで捕捉磁場と温度上昇の時間依存性の実験結果を再現したことも報告した。足利工大の三田らは対向型バルク磁石装置の磁極間で均一磁場を発生させるために既存のバルク体の着磁結果を用いて数値解析により磁場分布や均一度を評価し、バルク体の内径が大きくなるほど、また磁極間距離が短いほど均一度が高くなることを報告した。足利工大の津久井らは Gd 系バルクに開けた細孔の大きさが着磁特性に与える影響を調査し、低印加磁場では細孔のサイズと磁束の侵入しやすさが比例するものの、高印加磁場では温度領域によって細孔の効果が異なることを報告した。ポスターセッションでは「酸化物バルク」のセッションで東大の大浦らがバルク超伝導体の J c - B 特性を推定する手法の検討について、芝浦工大の中里らが Infiltration-Growth 法を用いた Y 系バルクの作製条件の最適化について報告した。また、京大の堀井らは磁場中コロイドプロセスを利用した三軸配向性高温超伝導材料作製の検討について、横浜国大の山岸らは HTS バルク回転子の捕捉磁束に及ぼす変動磁界の影響について報告した。「加速器 /NMR 」のセッションで鉄道総研の富田らが大型リング状バルク超伝導体における捕捉磁場特性の評価について報告した
  バルクの応用に関する発表も例年よりも多く見られ、 Y 系バルク磁石がさまざまな方面で期待されていることが改めて感じられた。「磁気分離」のセッションでは 2 件、 Y 系バルクに関する発表があった。大阪大の三島らは溶存酸素パーフルオロカーボン (PFC) を利用した磁気アルキメデス分離法を水溶性物質分離について検証した。酸素注入圧力により溶存酸素 PFC の体積磁化率を制御し、 Gd 系バルク磁石を用いることで対象物質の分離に成功したことを報告し、新たな回収方法も提案した。大阪大の五十嵐らの発表はセシウム汚染土壌の除染に向けた土壌磁気分離に関する研究についてであった。セシウムを強く吸着し、かつ常磁性である 2 : 1 粘土鉱物を超電導バルク磁石により選択的に磁気分離するという内容であるが、今回は X 線回折法により分離前後の土壌の成分分析を実施し、各粘土鉱物の磁気分離率を調査したことを報告した。「超電導応用」のセッションでは東北大の鹿野らが磁気浮上型超電導免震装置の制動特性の実験・解析による評価結果を発表した。浮上層の安定浮上に最小限必要な力を得られるように、振動時に落下する地上層の永久磁石の重量を設定することで磁気結合消滅時の速度を抑制できると報告があった。同セッションで成蹊大の二ノ宮からは、磁性粒子が磁場空間で移動できるような超電導バルク磁石による着磁法について発表があった。「加速器」のセッションでは京大の紀井らが MgB 2 や REBCO のバルク磁石を放射光発生用アンジュレータに用いた際にどのような特性を持つバルクが望ましいかを計算モデルから評価・考察したことを報告した。「電気機器・電力機器」のセッションでは鉄道総研の山下らが、現在開発中の超電導フライホイール蓄電装置について報告した。 HTS バルクと REBCO コイルから構成された世界最強クラスの HTS 超伝導軸受を採用しているこの装置は、平成 27 年度から山梨県米倉山の 10 MW 太陽光発電所にて系統安定化実証試験が行われることが決まっており、実用化に向けて大きく期待されるプロジェクトである。ポスターセッションでは「超電導応用」で足利工大の横山らがスターリング冷凍機を用いたポータブル超伝導バルク磁石装置開発について、「電力応用」で鉄道総研の吉澤らが大型超電導フライホイール装置の超電導磁気軸受における発生電磁力計算について報告した。
  また今年度の論文賞受賞記念講演は日立の松田らによる「手のひらサイズの超小型超電導バルク磁石の開発」についてであった。主に MDDS での使用を目的に開発されたこの磁石は、超電導バルク磁石を他のバルク磁石で着磁するという手法を採用しており、表面磁束密度は 3.1 T であるということであった。講演後は実機をご披露され、その軽さに驚く学会参加者で大盛況であった。( 東京大学 瀬戸山結衣、山木修 )

 

A15 線材】

 A15 線材に関する発表は 1 セッション、 4 件あった。 Nb 3 Sn 線材は、酸化物線材と比べると製造が容易であり、かつオーバーオールの断面当りでは強磁場下でも優れた電流密度特性を示すため、今なお核融合炉マグネットや高磁場 NMR マグネットなどの高磁場応用に好まれている。またブロンズ法が開発されてからすでに 30 年以上過ぎているが、今なお特性改善の報告があり、興味の尽きない材料といえる。 Nb 3 Sn 線材の臨界電流特性は、内部スズ法などによるスズ濃度の増加、組成比の最適化等により向上してきたが、最近では製造コストに関わる研究開発も多く、高臨界電流と低コスト化を両立した新しい断面構成の線材開発も報告されている。}
  神戸製鋼の川島氏による分散 Sn 法 Nb 3 Sn 線材の開発に関する報告もその一つである。この製法は内部スズ法の一種で、 Nb が 241 本埋め込まれた多芯のサブバンドル 84 本と、 Ti 添加した Sn ロッド 37 本を束ねて伸線する単純さが特徴である。今回は高磁場応用を見据えて銅比を抑え、高オーバーオール J c 化を図った。低銅比でも良好な加工性を示しており、高磁場応用として有望であることが報告された。
  核融合研の菱沼氏からは Zn を添加した Cu-Sn-Zn ブロンズを母材に用いたいわゆるブロンズ法線材の開発について報告された。この製法の特徴は、 Zn が Nb 3 Sn 層に拡散せず、マトリクスに均質に残留する点である。これによってブロンズの高強度化が期待できると報告された。今回はいくつかの組成比の試料について、 700°C での熱処理における組織や超伝導特性の変化について調査した。 J c に関して従来のブロンズ法と同等の特性を示していることが報告された。
  東北大の高橋氏からは中性子回折を用いた Nb 3 Sn ラザフォードケーブルの内部歪み測定について報告された。中性子回折による歪み測定は、一軸引張での測定では困難な撚り線導体においても正確に内部歪みを測定できる。こうした内部歪みは、 Nb 3 Sn 線材の歪み特性を理解するのに非常に効果的である。中性子回折実験は J-PARC の物質・生命科学実験室に設置してある光学材料回折装置「匠」を用いている。今回はラザフォードケーブルに対し伸び計と中性子回折による応力―歪み特性を比較し、伸び計ではケーブルの撚り締り効果によって内部歪みが正確に測れないことが報告された。
  NIMS の伴野からは中間急冷焼鈍を利用した Nb 3 Al 線材の開発について報告した。これまで Nb-Al 複合線材における過飽和固溶体の生成に用いられていた急熱急冷処理を中間焼鈍の代わりに利用し最近問題となっている加工性の改善を図ることが目的である。急冷焼鈍においても Nb/Al 界面において微細な化合物の初晶が確認されている。焼鈍効果と化合物相の生成をどうバランスするかが今後の課題といえる。 ( 物材機構 伴野信哉 )

 

MgB 2

 本学会では MgB 2 関連の 2 つのセッション ( ポスターセッションを除く ) が組まれ、発表数は 17 件 ( 口頭発表 12 件、ポスター発表 5 件 ) であった。線材の高特性化へ向けたプロセスやバルク磁石の捕捉磁場特性に関しての研究発表が多くなされ、バルクの機械特性や放射光発生用アンジュレータなどの基礎物性から応用まで幅広い報告があった。
  まず線材に関する発表について報告する。日大の前田らは、ピレンガスによる炭素添加と CHPD による高密度化を行った MgB 2 線材の輸送臨界電流特性について発表し、ピレン添加によって MgB 2 の結晶構造に歪みが生じ超伝導特性が改善されたと報告した。また原材料 B 粉末の純度や粒径が MgB 2 線材の J c 特性に与える影響について検討し、非晶質の B を用いた線材では結晶質 B を用いた線材と比較して J c が高く、非晶質粉末は結晶質粉末よりも高純度で粒径が小さいことに由来すると報告した。東大の水谷らは、ボールミル処理をした高純度自作 MgB 2 粉末を焼成して得られた試料は粒間の結合が強化され高いコネクティビティを示し、より短時間の焼成での高特性化が可能になったと報告した。 NIMS の新田らは、 Mg 粉末の粒径が MgB 2 線材の組織と臨界電流に与える影響について発表し、粒径の大きい Mg 粉末を用いることでその周囲の B 層中に拡散した際、 MgB 2 相が高密度で得られ J c が高くなると報告した。 NIMS の葉らは、 MgB 2 線材を IMD 法と PIT 法を組み合わせた手法で作製し、その線材では未反応 B が減少し、また MgB 2 コア層の比率を増大したため J c , J e が向上したと発表した。九大の山本らは、走査型ホール素子磁気顕微鏡 (SHPM) を用いて外部磁場を印加した後に除去した際の残留磁化を測定することで、 MgB 2 線材の局所臨界電流分布を評価し組織構造との比較を行った。 B リッチな部分が局所的に低い J c の原因であるとし、 SHPM による局所特性評価と組織構造との対応を明らかにした。上智大の浅見らは、 MgB 2 素線について引張試験を行い応力 - 歪み特性及びポアソン比を測定した。常温中と低温中では MgB 2 素線の応力−歪み特性が異なり、それは MgB 2 の熱収縮が原因であるとした。またポアソン比が温度で変わらないことを明らかにした。九大の柏井らは、 B 粉末サイズが Mg 2 Cu 添加をした MgB 2 線材の微細組織と超伝導特性に与える影響について報告した。 B 粉末をボールミルすることで、焼成後の線材中に存在する未反応 B と空隙の面積割合が減少し、 J c が向上したと発表した。
  次にバルクに関する発表について報告する。鉄道総研の石原らは、 30 mm f , 10 mm t のバルク磁石のペアの中心位置において、 11 K で 4 T 級の捕捉磁場を達成したことを報告した。東大の杉野らは、バルク磁石の捕捉磁場のバルク厚依存性について評価し、バルクを薄くした際に捕捉磁場が Biot-Savart 則からずれる原因はバルク厚によってバルク磁石内の平均電流密度が変わることであると報告した。また厚みを 10 mm t に固定しバルク径を 10-100 mm に変化させたバルク体を作製し、それぞれのバルクで超伝導特性は変化せず、捕捉磁場はバルク径によって系統的に変化することも報告した。岩手大の吉田らは、 Ti ドープを施したバルク磁石を HIP 法により作製し、充填率を 90% 以上にまで向上させることに成功した。 2 つの 36 mm f , 7 mm t のバルクを重ねた間の中心で最高記録となる捕捉磁場 4.6 T (@ 14.1 K) を観測している。岩手大の氏家らは、カプセル法、 HIP 法、 20%Ti ドープをした HIP 法で作製した 3 種類のバルク磁石にパルス着磁を行い、捕捉磁場の比較を行った。 HIP 法で作製した 2 つのバルク磁石では高い J c に起因したフラックスジャンプが起こり、その回避のためにバルク磁石のアスペクト比を小さくしたものを作製し、フラックスジャンプの抑制に成功したことを報告した。岩手大の内藤らは、 GdBCO バルクと MgB 2 バルクのハイブリット型バルク磁石について報告し、捕捉磁場はバルク磁石の中心部で上昇し、外周部で低下するという特性を明らかにした。京都大の紀井らは、高い均一性を持つアンジュレータ開発のために、 REBCO と MgB 2 からなるバルク磁石を用いたシミュレーションと実験値との比較を行った。 REBCO は高い J c を有しながら均一性が低いため、高い均一性を持つ MgB 2 バルクの J c 特性が改善されれば、 MgB 2 バルクの応用が可能であると主張した。鉄道総研の赤坂らは、バルク磁石の捕捉磁場分布の評価を行ったと報告した。径方向・バルク磁石からの距離により捕捉磁場は系統的に変化し、周方向で捕捉磁場の変化がなかったため、 MgB 2 バルク磁石は高い均一性を有することを証明した。一関高専の村上らは、 MgB 2 バルクの曲げ試験による機械的特性評価について報告した。充填率を変化させて 4 点曲げ負荷による破壊強度試験を行い、充填率の向上による実断面積の増加や応力集中の緩和に加えて、コネクティビティの増加により機械的強度は指数関数的に増加することを明らかにした。また靭性値についても評価を行い、同充填率において REBCO の倍程度の値を持つことも明らかにした。 ( 東京大学 杉野翔、水谷俊介 )

 

【鉄系超伝導体】

 本学会では鉄系超伝導体に関して口頭発表で 7 件、ポスター発表で 1 件の発表があった。 1111 系、 122 系、 11 系の研究が多く見られ、また試料の形態も薄膜、線材・多結晶体と多岐にわたる発表があった
  電中研の一瀬らは SmFeAs(O,F), Ba(Fe,Co) 2 As 2 , FeTe 0.5 Se 0.5 薄膜について、 CaF 2 基板上に成膜した場合の界面近傍の微細組織を報告した。薄膜界面において SmFeAs(O,F) では反応層が見られず、 Ba(Fe,Co) 2 As 2 では反応層を界面の薄膜側に確認、 FeTe 0.5 Se 0.5 では反応層を界面の基板側に確認、といったように異なる微細構造を示していた。 NIMS の藤岡らは SmFeAsO 1- x F x において、アモルファスの不純物相を形成しない単結晶粉末を用いることで結晶粒界不純物が減少すると報告した。また単結晶粉末を再焼結する際にフッ素を含むバインダーを加えることでフッ素量を増加させることが可能であることも併せて報告された。 ISTEC( 現中部大 ) の筑本らは Co, P ドープ SrFe 2 As 2 及び BaFe 2 As 2 のピン止め特性について、同じ 122 系においても置換サイトやアルカリ土類金属元素の種類によってピン止め機構が大きく異なることを報告した。 Ba(Fe 1- x Co x ) 2 As 2 では Co のドープ量が高くなるにつれてピン止め機構が界面ピンから δ T c ピンに変化すると考えられるが SrFe 2 (As 1- x P x ) 2 では δ l ピン止め機構が支配的であると考えられる。首都大の井澤らはアニール中に鉄シースから鉄を供給し、六方晶相 Fe(Te 0.4 Se 0.6 ) 1.4 から正方晶相 Fe(Te 0.4 Se 0.6 ) へとコアを相変態させる手法を報告した。九大の金らは走査型 SQUID 顕微鏡を用いて FeSe 0.5 Te 0.5 薄膜の量子化磁束の観察に成功したことを報告した。 NIMS の高らは冷間加工を適用した K ドープ Ba122 線材で 10 T の磁場下において 7.3 x 10 4 A/cm 2 の高い J c を達成したことを報告した。東大の林らは焼成温度を変えて作製した Co ドープ Ba122 多結晶体について微細組織と粒界電流特性について報告した。焼成温度が高くなるにつれクラックが発生し、 700oC を境に微細組織、粒間・粒内電流の挙動が大きく変化した。一関高専の佐藤らは FeTe 1- x S x 多結晶体において FeTe 2 や Fe 3 O 4 といった不純物が析出することで過剰鉄が軽減し超伝導特性が向上したことを報告した。 ( 東京大学 林雄二郎 )