SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.24, No.6 Decemberr, 2013


インターカレーションで FeSe 系でも高 T c 超伝導発現!       _東北大学_


 鉄 11 系超伝導体 FeSe は、鉄系超伝導体の中でヒ素を含まない超伝導体であることと、 FeSe 層のみの単純な結晶構造を持つことから、多くの研究機関で研究対象とされてきた。近年、この FeSe においてインターカレーションによる高い T c を持ついくつかの新物質合成例が報告され注目されている。
  母体である FeSe の T c は 8 K と低いが、 FeSe - FeSe 層間に K や Rb 等のアルカリ金属を挿入した 122 系の構造を持つ超伝導物質では、この層間長の増大に伴い T c が上昇することが見い出されていた [1,2] 。その後、 FeSe − FeSe 層間をより伸長させる研究として、インターカレーションの手法を用いた新物質の合成が報告された。
  一つは、アルカリ金属やアルカリ土類金属等とアンモニアを同時に層間に挿入するもので [3,4] 、他方は、アルカリ金属とピリジンを挿入したものである [5] 。これらの物質の T c は 45K まで上昇しており、層間長を伸ばせば T c は上昇するというシナリオの信憑性が高まっていた。
  最近、東北大学の野地・小池グループは、簡便な手法でアルカリ金属とエチレンジアミン (EDA)C 2 H 8 N 2 を同時にインターカレートすることに成功し、 T c = 45K の超伝導を確認した [6] 。手法としては、まず母体試料である FeSe を固相反応法で作製する。次に、この FeSe の粉末試料を、 0.2M の濃度でアルカリ金属 A を溶かした EDA 溶液に、 A : FeSe = 1 : 2 の割合でガラス瓶に入れて、 45°C で一週間反応させ、その後、生成物を EDA で洗浄しながらろ過することで A x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 を得るものである 。これらのプロセスはアルゴンガスで充満したグローブボックス内で行っている。
  図 1 に、 A = Li とした時に得られた as-intercalated 試料の粉末 X 線回折パターンを示す。 2 q = 20° 付近のブロードなピークは、大気暴露防止のためのカバーによるものである。また、母体として用いた FeSe の粉末 X 線回折パターンを最下段に示し、 Li( C 2 H 8 N 2 )Fe 2 Se 2 と総電子数が同じであり ThCr 2 Si 2 型構造をとる仮想物質 RbFe 2 Se 2 ( a = 3.458 A, c = 20.74 A) の粉末 X 線回折パターンのシミュレーションを中段に示している。 as-intercalated 試料は、母体の FeSe とインターカレーション物質 Li x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 の混相であり、 Li x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 による回折ピークの指数は、このシミュレーションの結果を参考にして決定されたものである。この結果、 FeSe の層間長 ( c 軸長 ) が 5.52 A であったものが、インターカレーション物質では 10.37 A ( c 軸長の 1/2) まで伸長している。

図 1 as-intercalated 試料 ( 上段 ) と母体 FeSe( 下段 ) の粉末 X 線回折パターン。
中段は仮想物質 RbFe 2 Se 2 ( a = 3.458 A, c = 20.74 A) のシミュレーションパターン。
指数に * 付きは PbO 型、無は ThCr 2 Si 2 型の結晶構造。
▽ と ▼ はそれぞれ Fe 7 Se 8 によるピークと unknown ピーク。

 

  図 2 に、帯磁率の温度依存性を示す。 as-intercalated 試料では、 FeSe の T c = 8 K と Li x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 の T c = 45 K の二段の超伝導転移が観測されている。
  また、同グループは、超伝導転移の確証を得るために電気抵抗率も測定した ( 図 3) 。インターカレーション物質は、一般に電気抵抗率測定が難しく、本測定においても、得られた粉末をプレスしただけの as-intercalated 試料では、低温において半導体的な挙動となっている。これは、粒界の繋がりが弱いためであり、改善策としてプレスしたペレットを真空封入し て 200°C 、 20 時間熱処理した sintered 試料を測定している。その結果、 43 K から抵抗率の減少が見られ、 18 K でゼロ抵抗が得られている。帯磁率で T c = 45 K を観測した試料が、電気抵抗率では T c が低下し、かつブロードな転移となっている。この理由を明らかにするために、試料を真空封入してアニール効果を調べた結果、図 2 のように、熱処理温度の上昇とともに T c が低下する結果が得られている。また、 250°C で熱処理すると、デインターカレーションにより、 Li x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 が FeSe の単相に変化し、高温の T c が消失する結果が得られている。このことから、電気抵抗率での T c の低下とブロードな転移は、熱処理によるデインターカレーションのために起こっていると考察している。

 

                

図 2. as-intercalated 試料と熱処理した試料の 帯磁率の温度依存性。  図 3. as-intercalated 試料と熱処理した試料の 電気抵抗率の温度依存性。


  同グループは、最近、リチウムの代わりにナトリウムをインターカレートした Na x (C 2 H 8 N 2 ) y Fe 2- z Se 2 の合成にも成功し、 T c = 45 K を報告している [7] 。同グループは、以前、電気化学法で FeSe に Li のみをインターカレートした Li y FeSe の合成を行ない、結晶構造の変化を伴わないキャリアドープのみでは、 T c の変化は観測されなかったことから [8] 、これら、インターカレーションによる T c の上昇は、層間長が伸びたことによって電子状態がより二次元的に変化したことによるものと結論している。
  EDA やピリジンのような有機分子をインターカレーションで層間に挿入する最大の興味は、有機分子の形状や大きさによって層間長を制御できることである。これまでに報告された測定データを見ると、 T c は層間長が約 8 A までは急激に上昇するが、それ以上に伸長すると T c は横這いの傾向を示している。この T c が上昇する機構解明には、実験と理論両面からのアプローチが必要であろう。 ( 牛タン太郎 )

参考文献

[1] J. Guo et al ., Phys. Rev. B 82 (2010) 180520(R).

[2] A. Zhang et al ., Sci. Rep . 3 (2013) 1216.

[3] T. P. Ying et al ., Sci. Rep. 2 (2012) 426.

[4] E.-W. Scheidt et al ., Eur. Phys. J. B 85 (2012) 279.

[5] A. Krzton-Maziopa et al ., J. Phys.: Condens. Matter 24 (2012) 382202.

[6] T. Hatakeda et al ., J. Phys. Soc. Jpn . 82 (2013) 123705.

[7] T. Noji, T. Hatakeda et al ., proc. of ISS2014 .

[8] H. Abe et al ., Physica C 470 (2010) S487