SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.24, No.6 Decemberr, 2013


磁場によるプラスチックの分画に成功              _大阪大学_


 大阪大学環境エネルギー工学専攻の西嶋茂宏教授らの研究グループは、ポリエチレン (PE) とポリプロピレン (PP) の分画に磁気力を利用する手法で成功した。 PE と PP はその物理的性質が似ており、分画には困難が伴っていた。実際、 PE の密度は 0.910 、磁化率は -8.07×10 -6 [-] 、一方 PP の密度は 0.905 、磁化率は -8.72×10 -6 [ -] である。 ( 結晶性のものは若干異なるが、両者の性質は類似している。 )
  現在、廃棄プラスチックのマテリアルリサイクルが求められているが、これを実現するためにはプラスチックの種類ごとの分画が必要とされる。その手法としては比重分離や近赤外線選別などがあるが、これら従来の手法は必ずしも満足できるものではなく、遅い分離速度、低い分離性が問題である。特に、 PE と PP は前述のごとく特性が類似しており、しかも廃プラスチックの中に占める割合は大きく、 PE が 33.3% 、 PP が 22.7% である。 ( これらに続くのがポリスチレンで 14.7% 、塩化ビニル樹脂は 9.7 % である。 )
  このため、 PE と PP の精度良い分画が求められているのである。そこで密度や磁化率などの物理的性質を利用する、磁気力を利用したプラスチックの選択的な分離に注目した。この手法は磁化率のみならず密度がほぼ等しい反磁性材料を、磁気力を用いて分別することができることを意味しており、発展させると、細胞や生体高分子などの分画も視野に入ってくる。
  図 1 に装置の模式図を示すが、超電導磁石のボアの中にフランジからはみ出すように、分画装置を設置する。分画装置上部より PE と PP の混合物を導入すると、分画装置の下からは PE のみが出てくる。 PP は磁石の巻線部分より上部に浮揚するとともに半径方向に押し出されるように移動する。このため装置を工夫すれば PP も容易に回収可能である。
  この分画装置の動作原理は、磁気アルキメデス現象である。磁気アルキメデス現象により PP ( c = -8.72×10 -6 [-]) のみを浮揚させ、 PE ( c = -8.07×10 -6 [-]) を 沈降させるのである。また浮揚した PP は半径方向の磁場勾配により半径方向に押し出されるようにしている図 2 に水平方向の磁気アルキメデス現象の原理の写真を示した。これは水平方向に磁気勾配が存在しており、媒質は動いていない。粒子は直径 1 mm の赤ガラス ( c = -1.33 x 10 -5 )あり、媒質は常磁性の塩化マンガン水溶液である。水平方向に磁気勾配があり、図中白矢印のような方向に磁場が印加されており、図の右側の磁場粒子は、浮上するとともに水平方向の磁場勾配によって、図の左の方に移動している。この現象を利用して PP を取り出すことにしたのである。 ( 白い球は直径 2 mm のアルミナ: c = -1.80 x 10 -5 である。 )
  改めて図 1 の概念に至った経緯について述べることにする。 PE と PP の物性を見てみる。 r を密度、 c を磁化率とすると、以下のようになる。

    

       r PE > r PP

      0 > c PE > c PP

                                   

                                            

                                     

  図 1  プラスチック分別装置の模式図                                 図 2  水平方向磁気アルキメデス現象の原理写真

                               

       

 このことから、 PP の方が PE より密度も磁化率 ( 負であるが ) も小さい事が分かる。このことは、 PP の方が、磁気アルキメデス法により浮揚させやすい事を意味している。そこで PP を浮揚させ、 PE を沈降させることを分画の基本とした。
  この分画を実現するためには、媒質の性質が重要である。まず媒質に要求される性質として、 PP および PE 両方よりも密度が小さい事である。これは、磁場を印加していない状態では、両者が沈降する必要があるからである。次に、磁場下では、 PP のみが浮揚する媒質であることが必要である。この要求に答えるために媒質として、エタノールを選定した。これは媒質の磁化率と密度を濃度の関数として求め、それに伴う、 PE と PP の磁気浮上力を磁場積 ( 磁場と磁気勾配の積 ) の関数として求め、上記の現象を満足する、エタノール濃度と磁場積を求めたのである。表1に設定したエタノールの密度および磁化率を、 PP と PE のそれらと共に示した。これで、 PE のみを沈降させ、 PP を浮揚させることができる条件を設定することができたと言える。
  次に、連続処理を想定した場合、 PP が中央に浮揚していたのでは、浮揚している PP が PE の沈降を妨害する恐れがある。このためため、 PP を横方向に移動させることにした。そこで、図 2 に示されるような水平方向の磁気アルキメデス法で PP を取り出すことにした。
  ここまでで、媒質が設定でき、 ( 分離対象物が経験する ) 磁場積が設定された。次に上記の境界条件で PP のみを水平方向に取り出すこ とを考える。使用 する磁場発生源はソレノイドコイルを想定しているので、コイル端部の水平方向の磁場成 分を利用すると PP の みを水平方向に取り出すことができる。すなわち、 PP を浮揚させる位置をコイル巻線の上 方に設定すれば、半径方向の磁場により水平方向に引き出すことができるのである。一方、 PE に関しては、コイル内部で沈降するので、経験 する磁場は内壁に近づくにつれて高くなる。このため PE にはコイル中心軸の方向に力が働くことになり、 PE は、分離装置の底部中央に沈降することになる。
  このような外的条件を設定することにより、従来は分離が困難であった、 PE と PP を分画することができるようになったのである。現在は、実用化を目指して、連続処理装置の考案しつつある。さらには作業媒体をアルコールから、引火の恐れのない作業媒体への変更を検討している。また合わせて、生体材料への応用も視野に入れて検討を行っている。 ( 磁場で何でも分離 )

 

       表 1  媒質のエタノールの密度と体積磁化率