SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.23, No.4 August, 2013


 

超電導マグネットの省ヘリウム化への取組み

_ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー_

 



  財務省貿易統計 ( http://www.customs.go.jp/toukei/info/ ) によれば、ヘリウムの輸入量は、 2011 暦年は 2257 トン、 2012 暦年は 2042 トン、今年の上半期は 969 トンで漸減傾向である。また、 2012 年の平均重量単価は 2011 年の 16% 増、今年の上半期は 2011 年の 60% 増となっており、価格高騰が著しい。月次でみると 2012 年 9 月、 12 月、 2013 年 2 月、 3 月、 6 月の輸入量減少が顕著である。
  2012 年は、米国エクソン社のプラントが数ヶ月の定期保守に入り、続けて BLM( 米国土地管理局 ) のプラントにトラブルが発生して、供給体制が一気に悪化した。テーマパークでの風船販売停止が一般ニュースの話題となるくらいであった。長期的には、ヘリウムの主要産出国であるアメリカで、シェールガス採掘技術の進展による移行により、天然ガス採掘量が減少し、ヘリウム生産の減少に繋がると指摘されており、他国での生産開始や増産努力はされているものの、流通量減少と価格高騰は避けられないと言われている。
 このような状況において、超電導線材とマグネットのビジネス展開をしているジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社 ( 本社:神戸市 ) の最近の取り組みを取材した。

 

図 1 ( 株 )JEOL RESONANCE との共同開発品NMR 用ゼロボイルオフ方式 400 MHz 超電導マグネット外観

 

 同社のマグネットビジネスのメニューの一つの柱は NMR 分析用超電導マグネットである。相当工夫された断熱構造で、液体ヘリウム蒸発量の低減努力をしており、最も台数多く生産している 400 MHz ( 9.4 T ) マグネットの液体ヘリウム蒸発速度は 15 cc/hr 、一年間では 120 リットルである。以前であれば多いというほどの量ではない。しかし昨秋には、エンドユーザーで運転されているマグネットに補充するヘリウムの確保が困難となり、一部のマグネットは連続運転を断念する事態に追い込まれた。また、新規冷却には大量のヘリウムを必要とするため、ヘリウム量の確保に非常に苦労をしているという。
この状況に対応するために同社では、 NMR システムを製造販売している株式会社 JEOL RESONANCE ( 本社:昭島市 ) と共同で、世界で初めて液体ヘリウムの補充を必要としない ( ゼロボイルオフ方式。液体窒素も使用しない ) 超電導マグネットを用いた NMR システムの実用化に成功した ( 2013 年 4 月「第 54 回 Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference ( 通称 ENC ) 」において発表:図 1 、表 1) 。

  

  

                          表 1 性能一覧

             

 

 ゼロボイルオフ方式は、 MRI 用マグネットでは以前より採用されている方式であるが、より微小な信号を扱う NMR 分析用では、冷凍機の振動によるノイズをいかに小さくするかが開発のポイントであった。また冷凍機は外部に設けられたヘリウムガス圧縮機で動作しているが、停電などにより圧縮機の動作が停止した場合、復電するまでに液体ヘリウムが蒸発する課題があった。特に週末や年末年始の長期休暇の間に停電した時には、対処されるまでの時間が長くなると予想されるため、冷凍機停止期間でも、液体ヘリウムの蒸発を抑え、超電導マグネットの磁場を保持する工夫が必要であった。加えて、冷凍機は約 2 年に一度のメンテナンスを必要とするが、超電導マグネットの磁場を変更しないでこの作業を実施するためには、構造上の工夫が必要であった。開発は平坦ではなく、苦労話は、 http://www.j-resonance. com/products/story/story01/ に記されているが、開発に成功した後、得られた NMR スペクトルは通常の超電導マグネットで取得されたものと同等である ( 図 2) 。

 

図 2 .クロロフォルムの 1 H{ 13 C} HMQC Centerband Suppression スペクトル ( 4 scans 、 no gradient 条件。冷凍機の振動の影響が出ると、中心のピークの周辺にノイズ信号が出る。上記データでは、ノイズ信号の大きさは +/-110Hz 付近にある 13 C のサテライトピークに比べ、非常に小さく、振動の影響が少ないことがわかる。 )

 

 両社合同開発チームのプロジェクトマネージャーである 株式会社 JEOL RESONANCE 末松浩人 技術部統括部長は、「 NMR 装置は、タンパク質、高分子材料、薬品、新素材などの開発に不可欠な基本分析ツールです。液体ヘリウムの入手が困難な状況や場所でも、当該機を用いることで、通常の高分解能 NMR データを取得することができ、 NMR の用途拡大につながると期待しています。今後、磁場強度の高い 500 MHz ( 11.7 T ) 機や 600 MHz ( 14.1 T ) 機へも本開発成果を活用し、ラインアップの充実に努めてゆく予定です。」と述べた。 ( ひのとり )