SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.3 Junel, 2013


 

≪会議報告≫

2013 年春季低温工学・超電導学会  (2013 年 5 月 13~15 日@タワーホール船堀 )

 


Bi 系線材】

 Bi 系では合計 18 件の報告があった。筆者が聴講した発表を中心に講演の概要を記す。
  住友電工の菊地らは同社製品である DI-BSCCO の最近の性能向上を報告。 200 A 級長尺線の製造が可能になっているほか、ポストアニール技術の改善により短尺では最高となる 273 A を達成している。また、 Type HT 高強度化開発について、ヤング率・熱膨張係数などの物性を考慮して新補強材『 XX 』を選定し Type HT-XX を試作した結果、引張強度は 270 MPa から 500 MPa 以上に改善しており、今秋に製品化予定としている。産総研の山崎らは Bi2212 薄膜のピン止め機構に関して報告した。 STO 基板上に作製した Bi2212 薄膜を TEM 観察した結果、 ab 面内において積層欠陥周辺や双晶界面において転移ループが高濃度で存在していることがわかった。 1 本の磁束線に 4 個程度の転位ピンが作用すれば有効性を持つという見積結果も合わせて示し、転位ループなどが主要なピン止め点であることを示唆した。
  マグネット応用では、東芝の花井らのグループより次期定常強磁場施設コラボラトリーの一環として、インサートに Bi2223 コイルを使った 20 T 無冷媒マグネットについて報告があった。内層の DI-BSCCO コイルを高 I c のものに置き換えたことと外層である Nb 3 Sn の交流損失を低減したことによる効果として 20.1 T の磁場発生に成功したとのことである。 NIMS の西島らは、 I c = 60 A 級の DI-BSCCO Type AC ソレノイドコイルの通電特性に関して報告した。 4.2 K 、 17 T までの磁場下で I c を測定した結果、低磁場領域における I c の緩やかなピークが観測され、テープ線材に誘起される遮蔽電流の効果と考察した。また測定時のノイズ低減方法としてコイル内外に銅コイルを配置して I V 測定結果も示し、スイープ時のノイズを各段に低減させることが可能であることも示した。鹿児島大の樋渡らはポインチングベクトル法 (PV 法 ) を応用させた超伝導コイル常伝導転移の観測技術について報告した。 Bi2223 テープ線材による試験用超伝導変圧器の定常運転中に、窒素ガス吹付により意図的に局所的な常伝導転移を発生させた部分においてエネルギーフロー量の解析から異常信号を検出できている。異常の程度についても今後検討するとのことである。
  ケーブル応用について中部大の孫らより、直流超伝導ケーブルを対象に超電導線材配置が臨界電流特性に及ぼす影響について報告があった。外層の線材を内層の線材のギャップを埋めるように配置することで垂直磁場が低減され、 20% 程度臨界電流が向上するとのことで、今後理論的見地に基づいた検討も期待される。
  交流損失について、鹿児島大の平山らは、外部磁界印加用銅コイル内に軸方向に配置した Bi2223 サンプルコイルの交流損失について報告を行った。上側と下側の要素コイル接続時に転位が施されており、外部磁場印加用コイルに対するサンプルコイルの位置を変えて液体窒素蒸発法により磁化損失を測定した結果、正規の位置からずれると 2 つのコイル間の鎖交磁束がキャンセルされず結合損失が発生する。このためサンプルコイル全損失としては正規位置配置の場合よりも増加するとし、 Bi2223 積層導体とコイル両端の接続部で形成される閉ループのインダクタンスと接続抵抗による計算結果とも良く一致するとした。続いて鹿児島大の古河らは外部磁界と交流輸送電流の同時掃引が及ぼす交流損失への影響について報告した。負荷率 12% の交流電流を外部磁場と同位相 (30 Hz) で Bi2223 ソレノイドコイルに通電した結果、交流損失は磁界振幅数 10 mT 以上では無通電時と変わらないが、数 mT の低磁界側では影響が現れるとし、理論値と良く一致したとのことである。同じく鹿児島大の樋口らより Bi2223 コイルと Cu バルクとで形成した疑似組み合わせコイルにおける交流損失について報告した。 Bi2223 サンプルコイルの内層に Cu バルクを入れた状態と入れない状態とで交流損失を評価。 4 端子法の場合は Cu バルクあり / なしで渦電流損失の影響が現れるが、 PV 法では両状態の交流損失には変化が見られなかったことから、組み合わせコイルの一部の交流損失を PV 法で評価することが可能であることを示した。
  京大の中村より車載用モータに関する研究の進捗報告があった。 20 kW 級高温超伝導誘導同期回転機 (HTS-ISM) について、超電導状態、非超電導状態の回転特性と冷却特性を検討し、温度 77-105 K 程度の温度領域において連続無負荷回転試験に成功しているとのことである。  ( 住友電工 菊地 昌志 )

 

RE 123 線材】

 名大の樋川ら、鶴田ら、三浦ら、及び電中研の一瀬らは、 PLD 法により作製した BaHfO 3 (BHO) 添加 REBCO 薄膜の磁束ピンニング特性について報告した。樋川らは、 BHO 添加量を固定し、仕込組成における Gd/Ba 比を変化させて、固溶体の生成とナノロッドの制御により磁場中 J c の向上を試みた。 Gd/Ba 組成を変化させることで BHO ナノロッドの形状に影響を与えた可能性が示唆された。鶴田らは、成膜時の基板温度によるナノロッドの形状及び J c 特性について報告した。三浦らは、低温成膜 (LTG) 法を用いて SmBCO 薄膜を作製し、通常より低温で生成した BHO ナノロッドの成長機構と磁束ピンニング特性について報告した。微細組織観察により BHO ナノロッドは SmBCO 結晶粒の中心から放射状に傾斜していることが推察された。一瀬らは、 Conventional-PLD 法と LTG 法の 2 通りの方法で成膜温度を変化させ SmBCO 薄膜を作製し、成膜条件を変えた際のナノロッドの形態に及ぼす影響を報告した。成膜温度の低下とともにナノロッドが傾き、径が小さくなることが示された。九工大の堀出らは、 BaSnO 3 ナノロッドに加え等方的な形状を有する Y 2 O 3 ナノ粒子を同時に添加することで、ダブル人工ピンニングセンター ( ダブル APC) が J c に及ぼす影響を報告した。ダブル APC の導入により F p,max が向上し高磁場側にシフトすることを明らかにし、ダブル APC が高磁場の J c 向上に有効であることを示した。東北大の淡路らは、 PLD 法によって作製したフジクラ製 GdBCO テープ線材を用いて B // ab 方向の J c と n 値特性を評価した。 n 値の挙動から、ランダムピンからイントリンジックピンへのクロスオーバーが顕著に表れることを明らかにした。名大の小島らは、コンビナトリアル -PLD 法を用いて Cu サイトを不純物元素 (Fe, Co, Ni, Zn) で微量置換した YBCO 薄膜を作製し、超伝導特性の変化を報告した。不純物元素の置換量の増加に伴い T c , J c が線形に低下したが、 Co 置換した試料では置換量の増加とともに B c2 の大きな向上が認められた。九大の寺西ら、成蹊大の鄭らは TFA-MOD 法により BaZrO 3 (BZO) を導入した YBCO 薄膜を作製し、その超伝導特性を報告した。寺西らは、 BZO 粒の微細化及び高数密度化を目的とし、本焼成の途中に BZO 結晶化温度付近で時間を変えた保持過程を導入し、結晶成長の様子を調査した。本焼成温度よりも低温での保持を行うことにより BZO 粒が微細化することを明らかにし、磁場中の J c の改善に成功した。鄭らは、 BZO 導入量を固定し、本焼成時のガス流量を変化させることで薄膜の成長速度を制御し、成長速度が J c 特性に及ぼす影響について報告した。成長速度を一定以上早くすることで、不純物が減り結晶性が向上するとともに BZO 粒子が微細化し、大きく J c が向上し角度の異方性も低減することを明らかにした。東大の元木らは、フッ素フリー MOD 法による Y123 薄膜への塩素ドープ効果について報告した。塩素ドープした仮焼膜を低温・低酸素分圧下で焼成することにより、 Y123 薄膜中に c 軸配向した Ba 2 Cu 3 O 4 Cl 2 で表される酸塩化物が析出し、磁場中での J c が大きく改善した。他の手法においても新たなピンニングセンターとして有効に導入できる可能性が示唆された。 ( 東京大学 元木 貴則 )

 

RE123 コイル】

 RE123 系コイルに関わるセッションは、「 Y 系コイル化技術」、「 Y 系コイル」、「 Y 系コイル特性・保護」、「 HTS コイル」、「次期定常強磁場施設」などがあったが、ここでは筆者が聴講できた講演の中から幾つかご紹介したい。
  「 Y 系コイル化技術」では、宮ア ( 東芝 ) らが、輻射シールドレスのモデルマグネットを試作し、 42 K 以下に冷却後、 250 A 通電保持した状態で冷凍機を停止して 37 分間運転できることを実証し、新しいマグネット構成の有効性を確認した。横山 ( 三菱電機 ) らは、ポリプロピレンフィルム絶縁の RE123 系超電導線を用いてエポキシ含浸でパンケーキコイルを試作し、 8 個の パンケーキコイルを積層したコイルを試作、液体 He 中で 7 T バイアス磁界中 225 A までの通電 ( 最大経験磁界 9.3 T ) で劣化のないことを確認した。また、柳澤 ( 理研 ) らは、 LTS 外層コイル /RE123 系最内層コイルの構成で 400 MHz (9.4 T) NMR システムを開発し、世界で初めて 2 次元測定に成功した。大保 ( フジクラ ) らは、薄肉化した 75 m m 基板 RE123 系超電導線を用いて 2 層エポキシ含浸パンケーキコイルを試作し、 7 回の室温−液体窒素間のヒートサイクルを加え、 50 K 伝導冷却下で 5 T 外部磁場中 102 A までの通電 ( 最大中心磁場 5.36 T ) 後もコイル特性に劣化がないことを確認した。さらに、武藤 ( 東北大 ) らは、実用的なマグネットの運転環境を模擬した試験として RE123 系超電導線を用いた 2 積層エポキシ含浸パンケーキコイルにて、 5 回の室温−低温 (30 K) 間のヒートサイクル、 10 K 伝導冷却下で 5 T バックアップ中で 400 A までの通電、外層マグネットの遮断を想定したバックアップマグネット遮断試験を実施し、各試験前後で通電特性の変化がないことを確認した。
  「 Y 系コイル」では、小川 ( 東大 ) らが、過去に Bi2223 線材で製作したトーラスプラズマ実験装置 Mini − RT の特性向上を図るべく RE123 系コイルの設計および製作を行った。コイルは主コイルとバイフィラー巻きされたコイル状の PCS で構成され、コイル温度 25~45 K 、コイル電流 30~100 A で永久電流モードで電流減衰を調査し、時定数が 200 − 300 時間とプラズマ実験を行う上で十分なデータが得られたことを報告した。「 HTS コイル」では、植田 ( 阪大 ) らが、 RE123 系パンケーキコイルを製作し、遮蔽電流によって発生する磁場の測定結果と解析結果を比較した。解析では超電導特性は n 値モデルにより表現し、高速多重極法を適用した。実験はコイル中心軸から径方向に 4 点測定し、実験と解析とで定量的にほぼ一致して解析手法の妥当性を確認した。
  また、 3 日目の「次期定常強磁場施設」では、国内で強磁場施設を有する物質・材料研究機構、東北大学金属材料研究所、東京大学物性研究所、大阪大学極限量子科学研究センターの 4 機関が計画する「強磁場コラボラトリー」の計画概要が紹介され、 RE123 系コイルに関する報告もされた。
  宮ア ( 東芝 ) らは、 Bi2223 線材を用いた 20 T 無冷媒マグネットを RE123 系最内層コイルに置き換えることで 22 T 無冷媒超伝導マグネットを開発中であり、実機を模擬した要素コイルの伝導冷却試験結果について報告した。実機と同サイズの 2 積層パンケーキコイルを 10 K 伝導冷却下、 5 T バックアップ磁場中で通電試験を行い、 472 A 通電 ( 基板換算最大 BJR = 430 MPa ) 試験および冷却時の熱応力でもコイルに劣化が生じないことを確認した。また、淡路 ( 東北大 ) らは、 50 T 無冷媒、 30 T 無冷媒超伝導マグネット開発に向けたコイル技術開発のための 25 T 無冷媒超伝導マグネット計画内容について報告した。内層には RE123 系コイル、中層には Nb 3 Sn コイルを用いる予定であり、開発における重要な技術は RE123 系コイル化技術と高強度 Nb 3 Sn 導体コイル化技術の 2 点とのことである。これまでの開発成果を踏まえて平成 25 年度に RE123 系コイルおよび高強度 Nb 3 Sn ラザフォードコイルを作製し、伝導冷却下で 18 T までの強磁場中試験を実施し、平成 26 年度末までに 25 T 無冷媒超伝導マグネットを完成するスケジュールとのことである。さらに、渡辺 ( 東北大 ) らは、 50 T 級ハイブリッドマグネット用の大口径 400 mm 室温ボア 20 T 超伝導マグネットの設計について、無冷媒型マグネットで 13 T の Nb 3 Sn コイルと 7 T の最内層 RE123 系コイルからなる線材構成とし NbTi 線材を使用しない設計を報告した。
  まだまだ多数の報告があったが書面の都合上ここで紹介しきれなかったことをご容赦願いたい。 RE123 系コイルの課題としてテープ形状による遮蔽電流の磁場への影響が挙げられるが、一方で具体的なマグネット開発計画も進んでいる。今後、さらなるコイル応用開発が進んでいくことを期待したい。( フジクラ 大保 雅載 )

 

RE123 バルク】

 高温超伝導 (HTS) バルク「 HTS バルク・着磁」のセッションで 6 件の口頭発表、「 HTS バルク・応用」のセッションで 6 件のポスター発表があった。
  東大の瀬戸山らは 2 種類の RE 元素を用いた RE123 溶融凝固バルク体を作製する際に、 RE 元素の組合せを工夫することで RE/Ba 固溶量を適当な量にまで低減でき、臨界電流密度 J c 特性が改善することを報告した。東大の山木らは、 Y123 と Y211 を別々に作製し混合する従来の Y123 バルク作製手法を変えて、原料粉に BaO 2 を用いた低温焼成で Y123 と Y211 を同時に作製するプロセスを提案し、母相に分散した Y211 が微細化し、特に 40 K の低温における J c が向上したことを報告した。さらに微量 Ga ドープにより J c が 改善している。新潟大の木伏はパルス着磁させた Dy 系バルクについて GSB と GSR の磁場侵入量を検討し、その発熱量との関係を報告した。新潟大の岡らはパルス磁場により反復着磁させた Dy 系バルクにおいて、磁束侵入挙動や発熱温度変化を測定・評価した。反復着磁の印加は発熱の抑制に有効であり、磁場侵入領域は試料外側に向かって押し戻されたことを報告した。新日鐵住金の森田らは、 RE 系バルクのパルス着磁において、高密度の磁束を均一に着磁させることが難しいという問題点が、材料中に入れた切れ込みで電流の径方向成分を抑制することにより解決することを提案した。 2 種類 ( 入れ子型とリング積層型 ) のバルクにおいて実際のパルス着磁の実験を行い、想定された同心円型の捕捉磁場分布を確認している。理研の仲村らは Eu 系バルクを用いた NMR / MRI 用超伝導磁石の静磁場着磁過程を、 MRI の位相差を用いた磁場分布計測法により精密に計測した結果を報告した。均一磁場を構成するバルク磁石の内部の径を拡大することが、 MRI 計測に必要な傾斜磁場コイルの効率向上に有効であることを示した。
  新日鐵住金の手嶋らは Gd 系の 60 mm f 級バルク材の、捕捉磁場ピーク値から算出したマクロ J c と、切り出した試料片における磁化曲線から算出したミクロ J c を比較検討した結果を報告した。その差は比較的小さく均一性に優れた材料であると言え、新規ピン止め点についての技術確立によりさらなる捕捉磁場特性向上が期待できる。東大の大浦らは測定した捕捉磁場分布からバルクの J c − B 特性を算出し、逆問題解析による結果との比較を報告した。新潟大の山田らは Y 系バルクにおいて種結晶を 2 個使用して作製することで、足利工大の横山らは Gd 系バルクにおいて細孔を施すことで、磁束侵入が容易になる領域を作り出し、パルス着磁に適したバルク合成法を示した。岩手大の藤代らは細孔を有するパルス着磁特性の変化をシミュレーション解析し、それらが低磁場から選択的な磁束の侵入を許すことや、電流分布の不均一が再現されたことを報告した。捕捉磁場低下を抑制する細孔の最適な分布の検討が必要であることを示した。秋田県立大の二村らは HTS バルク磁石にピン止め浮上させた永久磁石のダンピングが永久磁石表面に磁性流体を吸着させることによって抑制されることを報告した。
  バルクセッション以外でも数件、バルクの応用研究についての発表が数件あった。阪大の三島らは磁気アルキメデス法を用いた磁気分離を、食品や医薬品等の安全性が必須である対象にも実用できるよう、酸素を加圧溶解させたパーフルオロヘキサンを溶媒に用いた手法を報告した。溶媒の磁化率を溶存酸素濃度で制御できることを利用し HTS バルク磁石による物質の選択分離の可能性を示した。阪大の野村らは磁気力による土壌除染の研究を発表した。放射性 Cs は土壌の中でも特に、常磁性物質である 2 : 1 型粘土鉱物に強く吸着されており、 HTS バルク磁石の磁気力により分離できることを明らかにした。実土壌において永久磁石による放射性物質の濃縮にも成功しており、放射線による超伝導磁石の劣化を考慮する必要はあるものの、より強力な除染システムの一日も早い実現が期待される。 ( 東京大学 瀬戸山 結衣、山木 修 )

 

【超電導ケーブル】

 今回の低温工学・超電導学会では、電力ケーブルのセッションが直流ケーブルと交流ケーブルとに分かれて行われた。
  直流ケーブルでは 3 件の研究発表があった。富田 ( 鉄道総研 ) らは、直流き電鉄道システムへの超電導ケーブル導入のための研究開発として、実際に DC 1.5 kV 、 5 kA 、長さ 30 m の直流超電導ケーブルを製作し、構内の走行試験線に沿う形で敷設し、基礎試験を開始した。ここでは中空フォーマを採用し、フォーマ内を往路、ケーブルコア外側を復路とする対向流循環方式を採用することで外径 100 mm 以下で冷媒循環を行えるコンパクトなケーブルを実現している。吉富 ( 九工大 ) らは、直流超電導送電を交流送電網と接続した場合に交直変換で生じるリップル電流の影響として、 6~12 相で交流電流を整流した後、平滑化せず直流超電導ケーブルに通電した場合にリップル電流により発生する交流損失が、ヒステリシス損、結合損、ともに 12 相以上であれば 10 m W/m 未満で十分損失の小さい送電が行える、との計算結果を示した。孫 ( 中部大 ) らは、直流超電導ケーブルを構成する超電導線材の配置と通電可能な電流との相関の検討として、 4.5 mm 幅の BSCCO 線材 5 本をヘリカル状に 2 層 (2 本+ 3 本 ) に巻き、各線材電流の作る磁場中での 1 本の線材の臨界電流測定を行い、線材を同方向に巻き、線材間に 2 mm のギャップを設けることで 20% の臨界電流の向上が得られたことを報告した。
  交流ケーブルでは 5 件の研究発表があった。王 ( 早大 ) らは、 NEDO プロジェクトにおける 275 kV 級 YBCO 超電導ケーブルの 63 kArms 、 0.6 s の短絡事故に対する耐事故設計に関する研究を行なってきたが、今回の講演では、 LN 2 ( 液体窒素 ) 流路を中に持つ中空フォーマケーブルを採用した場合、 HTS 導体層の温度上昇が 30 K 以下に抑えられることを実験的に示すとともに、これまで並行して開発してきた計算コードで良好に再現できることを示した。中山 ( 古河電工 ) らは NEDO プロジェクトとして 275 kV( 対地 160 kV)3 kA の 30 m 超電導ケーブルを開発・製作し、 2012 年秋期より 長期課通電試験を行っている。対地 200 kV 課電時の誘電損失 0.7 W/m は通常運転時換算で目標値以下、 3 kA 通電時の交流損失 0.19 W/m は設計通りの値がそれぞれ得られており、試験後の 310 kV 部分放電試験も含めて良好な試験結果が得られた。 我妻 ( 早大 ) らは HTS 超電導ケーブルの事故時の過渡現象解析のための計算コード開発として、銅フォーマ内への LN 2 の浸み込みなどを考慮した管路内の冷却特性を模擬した解析モデルを開発してきたが、今回では、窒素循環ポンプなどの冷却系を解析モデルに含むことで、短絡事故試験で過去に得られている圧力変動の実験値を良好に再現できることを示した。秋田 ( 東北大 ) らは、これまで研究を続けてきた三相同軸 HTS ケーブルを洋上風力発電の海中送電線として応用することを考え、その時の送電可能距離の検討として LN 2 輸送の熱計算を行った。その結果、加圧条件下での LN 2 の沸点上昇を考慮すると 40 km 以上の冷媒輸送ができる可能性があることを示した。大屋 ( 住友電工 ) らは REBCO 線材を用いた交流超電導ケーブルの低損失化の検討として Clad 基板・ IBAD 基板上に生成した線材幅 2 mm 、 4 mm の GdBCO 線材を用いた 1.5 m の 4 層短尺ケーブルを試作し、その交流損失を比較した。その結果、レーザースリットにより 2 mm 幅とした Clad 線材を用いた多層ケーブルが最も交流損失が低くなったことを報告した。 ( 中部大学 浜辺 誠 )

 

MgB 2

 本学会では MgB 2 関連の 3 つのセッションが組まれ、発表数は 12 件 ( 口頭発表 10 件、ポスター発表 2 件 ) であった。線材の高 J c 化へ向けた様々なプロセスに関して、また大型バルク磁石の捕捉磁場特性に関しての研究報告が多くなされ、応用面では液体水素液面計としての応用に関しての報告がされた。
  まず線材に関する発表について報告する。東大の水谷らは高純度自作 MgB 2 粉末を用い、焼結を行うことで ex-situ 法試料として従来よりも高いコネクティビティを持つ試料を作製したと報告した。また炭素置換原料を用いることでさらに自己焼結が促進されると発表した。 NIMS の葉らは内部拡散法 MgB 2 線材を作製するにあたり、ジメチルベンゼンで前処理した炭素コーティングホウ素粉末を用いることにより、高密度で均一かつ微細な結晶からなる MgB 2 層が得られることを報告した。この微細組織と炭素置換の効果により J c は 1.19 × 10 5 A / cm 2 @4.2 K, 10 T という高い値を示したと発表した。九大の東川らは、 MgB 2 線材を 10 K まで冷却し、 3.5 T の外部磁界を印加した後に除去した際の残留磁界分布を測定し、その強度から MgB 2 多芯線材のフィラメント内の局所臨界電流分布を評価し、臨界電流特性制限因子の解明を行った。局所的に J c には分布があり、特性が低下している部分には Mg 2 Si と思われる析出物が検出され、 Mg 2 Si がこの線材の主な特性制限因子であることを明らかにした。 NIMS の張らは、キシレンと SiC で前処理を行ったホウ素を in-situ 法 PIT 線材の原料に用いることによって臨界電流密度が改善したと報告した。キシレンは炭素置換とは異なるメカニズムで J c の改善に寄与していると説明していた。東京ワイヤー製作所の志村らは液体水素液面計用の MgB 2 線材の作製について発表した。液体水素内で超伝導であり、液体水素の外で常伝導であることを利用した液面計を作製するため Al を添加して臨界温度を液体水素の沸点 20 K 近傍まで下げた MgB 2 線材を用い、液面計として動作することを報告した。 NIMS の藤井らはあらかじめ炭素置換した原料 MgB 2 粉末を酸処理し、その原料を用いて作製した ex-situ 法 MgB 2 線材の超伝導特性を報告した。酸処理によって不純物である MgO が溶解除去され、粒間結合が改善し J c が向上したと発表した。
  次にバルクに関する発表について報告する。鉄道総研の赤坂らはさまざまな熱処理条件で作製した MgB 2 超伝導バルク磁石の捕捉磁場特性について報告した。その結果熱処理温度は 700-1000°C 、熱処理時間は 1-12 h という広い領域において再現性良く 1.5 T( @15 K ) を超える MgB 2 超伝導バルク磁石が得られることを明らかにした。鉄道総研の富田らは、 MgB 2 の超伝導バルク磁石としての素質についてバルクの作製条件、捕捉磁場特性から検討をした。 MgB 2 バルクは広い熱処理条件、サンプル内部の高い均一性、優れた磁場安定性を示し、 RE 系溶融凝固バルクとは異なる特徴を有することを報告した。東大の岩瀬らは、 MgB 2 バルク磁石の作製においてカルシウム化合物、炭素化合物をドーパントとした MgB 2 バルク磁石における不純物ドープ効果について報告した。 CaCO 3 を 1% ドープして作製した MgB 2 バルクはノンドープ試料と比較して 20 K 以下の温度領域で高い捕捉磁場を示し、 MgB 2 バルク磁石の表面磁場として初めて 3 T を上回る値を記録したと発表した。東大の山本らは MgB 2 バルク磁石における捕捉磁場のバルク径依存性について報告した。バルク径の増大とともに捕捉磁場は向上する傾向を示すものの、捕捉磁場はバルク径と J c の磁場依存性によって制限されると説明した。岩手大の吉田らは HIP 法で作製した MgB 2 バルクにおける捕捉磁場の径依存性を報告した。バルク径が大きくなるにつれて自己磁場の影響で J c が低下してしまうため、 J c の磁場依存性をより考慮して径依存性を検討する必要があるとした。岩手大の氏家らはパルス着磁を行った 2 枚重ね MgB 2 バルクの捕捉磁場特性について報告した。バルクの初期温度が低いときに捕捉磁場は高くなるが、捕捉磁場の外部磁場依存性がバルク表面部と 2 枚のバルク間とで異なっており、 2 枚のバルクにおいて温度差が生じている可能性があるとした。 ( 東京大学 水谷 俊介 )

 

【核融合】

 核融合関係では 3 つのセッションで合計 17 件の口頭発表があった。以下【 】内は講演者である。
  まず、核融合科学研究所 (NIFS) で設計されているヘリカル型核融合炉 FFHR-d1 について、導体開発の報告があった。ヘリカルコイルに用いる 100 kA 級導体として、ニオブアルミ線材を用いたケーブルインコンジット導体を基本案としつつ、代替案として 2 種類の間接冷却方式の導体が開発されている。このうち低温超伝導オプションでは、ラザフォード構造に撚ったニオブスズ線材を熱処理した後にアルミ合金ジャケットに入れて摩擦撹拌接合を行う「リアクト&ジャケット法」の開発を行っている。縮小導体を試作・試験した結果をもとに 100 kA 級導体の設計を行い、要素試験を行う計画である。【 NIFS 高畑】 また、 Y 系線材を用いた高温超伝導オプションも開発されている。 GdBCO 線材 20 枚を単純に積層し、銅とステンレスのジャケットに入れて大型導体サンプルを作り通電試験を行った結果、温度 20 K 、磁場 6 T で 45 kA の臨界電流に至り、単線データをもとに評価を行っている。【 NIFS 柳、総研大 寺ア】 このサンプルに設けた機械的接合部については、接合抵抗が 1 ヶ所あたり 2 n W 程度に収まると確認された。これを用いると連続巻線を行う代わりに全 8000 カ所の導体接続をすることでヘリカルコイルの分割製作が可能になると評価される。【東北大・量子エネルギー 伊藤】 一方、現在稼働している LHD のヘリカルコイルには浸漬冷却方式のアルミ安定化ニオブチタン導体が使われており、観測された常伝導転移現象について解析を継続している。その結果、コイル断面において磁場の最も高い最内層で常伝導転移が生じた可能性が高いことが示された。【 NIFS 今川】
  次に、日本原子力研究開発機構 (JAEA) において建設が進んでいる JT60-SA について、 3 件の報告があった。中心ソレノイド (CS) 用導体のバットジョイント部の試験が JAEA と NIFS の共同研究として行われ、 5 n W の要求値を満たすことが確認された。【 JAEA 村上】 装置のヘリウム冷凍機については、プラズマのパルス運転を詳細に解析した結果、必要な最大冷凍能力が 9 kW と評価されている。【 JAEA 神谷】 共同研究として、導体接続部における超伝導素線と銅スリーブ間の抵抗分布について素線の 3 次元軌跡をもとにした解析が行われ、接触状況で抵抗分布が影響を受け、電流分布に影響を与えることが示された。【東北大・電気情報 森村】
  最後に、 ITER について 7 件の発表があった。 CS 導体については、繰り返し励磁に伴う臨界電流の低下問題が撚線ピッチ長を短くすることで解決され、これにもとづき日本製サンプル 4 本を試験したところ、いずれも良好な結果が確認された。【 JAEA 名原】 この変更に伴い、 CS 導体を製造する際には比較的大きなコンパクションがかかり、小さいボイド率と併せて撚線素線にダメージが加わる可能性が出てきた。そこで、試作撚線で凹み具合を観察したところ、ニオブスズ素線で 0.1 mm 以下であり、銅素線がクッションとして働いていることがわかった。【 JAEA 高橋】  CS 導体の JK2LB ジャケットについては、フェーズドアレイ方式の超音波探傷を用いて初期欠陥を検出する方法が確立された。サンプル試験の結果、内表面欠陥は垂直探傷法で有効に探知できるが、外表面欠陥のうち周方向については外観検査の方が好ましいとわかった。【 JAEA 尾関】 トロイダル磁場 (TF) コイルについては、現在、調達第二段階の最終 R&D が行われている。ラジアルプレートは、許容公差 0.02% 以内という厳しい寸法管理が求められ、巻線導体の熱処理後に追加の機械加工を入れる余地を残すことも検討されている。また、高窒素含有率の完全オーステナイト系材料を用いるためセグメント間溶接は難しいが、レーザビーム溶接と TIG 溶接を併用することで必要な寸法公差を満たすことが可能と実証された。【 JAEA 小泉、高野】  TF コイルの構造物についても厳しい製作公差が求められ、セグメント間溶接に伴う変形量の把握が重要な課題である。検証試験の結果、溶接後に必要となる機械加工のための余肉を当初の想定より低減できる見通しが得られている。実製作にあたっては韓国の Hyundai 社も担当する予定であり、試作の結果、日本メーカーと同等の製作精度を達成できることが確かめられた。【 JAEA 井口、 Hong 】 ( 核融合研 柳 長門 )