SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.3 Junel, 2013


 

実系統接続 7 ヶ月経過の東電旭変電所の状況 _ SUPERCOM 事務局_

 


 弊誌 SUPERCOM では、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託により進められている「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」 ( 東京電力−住友電工−前川製作所 ) の進捗について、 2010 年 4 月号 (Vol. 19, No.2 :住友電工熊取試験所における 30 m ケーブル事前検証試験 ) 、同年 8 月号 (Vol. 19, No.4 :旭変電所初取材 ) 、同年 10 月号 (Vol. 19, No.5 :前川製作所における冷却システム検証試験 ) 、 2011 年 8 月号 (Vol. 20, No 3 :旭変電所でのケーブル布設状況 ) 、 2012 年 4 月号 (Vol. 21, No. 2 :液体窒素注入 ) の計 5 回、取材記事を掲載し、 同年 10 月 29 日の 東電旭変電所における 実系統との接続運転スタートのニュースは読者からの寄稿記事として 12 月号 (Vol. 21, No. 6) に載せた。以後の本実証試験の状況は http://www.sei.co.jp/super/cable/jissho.html にてオンタイムで公開されており、順調に稼働していることが確認できる。また、本実証試験は様々な方面から注目されており、これまでに約 550 名が見学に訪れている。
  今回、運転開始後ちょうど 7 ヶ月にあたる 5 月 29 日に旭変電所の現場を取材する機会をいただいた。以下には、実証試験の現状をレポートする。なお、見学には東京電力の本庄昇一氏、三村智男氏、前川製作所の仲村直子氏に立ち会っていただいた。
  5 月 29 日は関東地方の梅雨入りが宣言された日で、時折雨が降る曇天のやや風が強いなかでの見学であったが、これまでの取材が言わば“練習中”のものであったのに対し、実系統の一部として稼働中の現地にはより緊張感が漂っている印象を受けた。図 1 は超電導ケーブルシステムの配置図 ( Vol. 21, No. 6 の再掲 ) で、図 2 は今回現地で撮影した試験設備の写真である。

 

 外観で大きく変わっていたのは管路の色で、これまで鮮やかなオレンジ色だったものが、ジョイント部も含めて白色になっていた。説明によれば、これは遮光用の塗料で 3 層に塗ってあり、管路周囲からの熱侵入低減の効果があるため、冷却システムに与える熱侵入量の影響を多面的に評価・分析することができるとのことである。なお、実際に超電導ケーブルが利用される場合には基本的に地下埋設となるため、管路の遮光塗装は不要となる。

 


   さて、実系統に接続されていることから超電導ケーブルを通る電流は刻々と変化し、時には系統の上流での制御と思われるステップ的な大きな増減もある。しかし、これまでの通電実績は概ね 1 kA 以下であり、この 3 相交流ケーブルの仕様、 66 kV − 3 kA に対してかなり低く、さらにこの季節は電力需要がそれほど大きくないこともあり日最大でも 500 A 程度である。つまり超電導ケーブル自体にとっては余裕綽々の運転であり、直流電流通電時の 77 K における I c の 1/10 程度であることから交流損失も無視して良いほど低いレベルである。
  一方、冷却系統では運転温度を意図的に変えながら、運転条件の最適化を試みているようである。例えば昨年 12 月号の記事中の 12 月 19 日の運転状況では 70 K 前後で液体窒素温度が管理されていたのに対し、今回の見学時は 73~75 K で運転されていた。なお、液体窒素の流量 40 ? / 分と圧力 0.2 MPa G  は変わっていない。つまり、冷却システム室に置かれた 6 台の 1 kW(77 K) スターリン冷凍機のうち何台を動かすか (1 台は常に予備なので最大 5 台 ) でケーブル中の液体窒素温度を制御していることになる。説明によれば、冷却システム室からケーブルを回って戻ってくる間には約 2400 W の熱が加わっており、うち約 1200 W がケーブル部 ( ジョイント含む ) から、残りの約 1200 W が端末部からの熱侵入+課通電損失によるとのことであった。ケーブル部の熱損失は、曲がり部が多く、側圧による影響で断熱管からの熱侵入が大きくなっているが、想定の範囲内とのことである。なお、ジョイント部には低融点半田を用いているが、接続抵抗が n W レベルの低いものでジョイント両端の液体窒素温度にも大きな差が無いことから、ジョイントを設けることによる損失は小さいようである。
  以上のように実系統接続から 7 ヶ月を経た時点においても通電面、冷却面ともに順調で、本プロジェクトで予定されている 1 年間の実証試験は問題なく終了しそうである。これには、実系統接続が約 1 年遅れた間に行った通電、冷却の模擬試験の実績・経験が役立っており、さらにこの 7 ヶ月間も貴重な新しい運転データが毎日得られているとのことであった。しかしながら、今後の高温超電導ケーブルの実用展開に向けての新たな課題が見えてきているそうで、具体的には長期運転における冷凍機の実績不足が挙げられた。液体窒素冷却用の冷凍機は既に国内のケーブルプロジェクトで用いられていたが、昨年 4 月の液体窒素注入以来となる 1 年以上の長期にわたっての冷却状態の維持の経験は無かった。このプロジェクトでは先述のとおり 1 kW スターリン冷凍機が採用されているが、徐々に冷却能力の低下傾向が見られるそうである。この原因については、解析中であるが、運転時間が 7000 時間を越えた冷凍機もあり、冷凍機摺働部での摩耗等による経時劣化と考えられ、 4 月より順次冷凍機の定期メンテナンスを行っている。それ以外の要因についても現在検討しているところである。いずれ多様な場所での布設が期待されており、できるだけシステムの維持を簡略化し同時に信頼性を高めたいところであるだけに、冷凍能力の経時劣化は改善されるべき課題である。現在、本プロジェクトでは実証試験と並行して 5 kW(77 K) のブレイトン冷凍機を前川製作所で開発しており、今後長期運転での性能評価を予定しているとのことであった。
  さて、本実証試験は最も過酷な運転条件となる夏期を経験していない。この夏が酷暑で電力需要が増えるほど、このプロジェクトには貴重な運転データが残ることになり、それは今後の実用ケーブル設計や運転条件の設定に生かされる。酷暑は社会生活面では全く好ましくないが、そうなってしまった場合には超電導ケーブル試験にとっては最適の環境と考えて、少しだけ寛大な気持ちで暑い日々を受け入れてみたい。  (SUPERCOM 事務局補佐員 )