SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.3 Junel, 2013


 

次世代強磁場施設建設 - 強磁場コラボラトリー計画 -

_物質材料機構 東北大学金属材料研究所 東京大学物性研究所

 大阪大学極限科学研究センター_

 


 日本の強磁場施設である、物質・材料研究機構、東北大学金属材料研究所、東京大学物性研究所、及び、大阪大学極限科学研究センターの 4 つの研究施設が合同となり、オールジャパン体制で日本の強磁場施設の増強を行う、強磁場コラボラトリー計画が進められている。定常強磁場を物質・材料研究機構と東北大学が、パルス磁場を東京大学と大阪大学がそれぞれ担当し、マグネット及び周辺設備の整備計画が進められている。
  この計画の中で、超伝導マグネットとして新たに開発するのが、 25 T 無冷媒超伝導マグネット (25 T-CSM) 、 47 T ハイブリッドマグネット (47 T-HM) 用大口径 400mm ボア 20T 超伝導マグネット ( 大口径 20 T-SM) 、そして、 30 T 超伝導マグネット (30 T-SM) である (Fig. 1) 。超伝導マグネットの開発は、主に東北大学が担当し、ハイブリッドマグネット用水冷銅マグネットの開発を主に物質・材料研究機構が担当することになる。 Fig. 2 には定常強磁場パートの開発計画をまとめた図を示した。以下、各マグネットの特長を説明する。

 

Fig. 1 強磁場超伝導マグネットの完成予想図。左から 25T-CSM, 47T-HM, 30T-CSM を表す。 47T-HM は物材機構へ、 25T-CSM と 30T-CSM は東北大へ設置される予定となっている。

 

 

 25T-CSM はすでに開発に着手しており、来年度の 3 月に完成予定となっている。無冷媒超伝導マグネットは、日本で開発されたオリジナリティ溢れる超伝導マグネットである。現在は、東北大金研の 18 T 無冷媒超伝導マグネットをアップグレードした、 20 T 無冷媒超伝導マグネットが世界最高記録を持っている。このマグネットは、今年の 10 月に 22 T へのアップグレードを計画中である。 22 T アップグレードの計画は、 25 T-CSM の開発を視野に入れた計画であり、最内層コイルを第 2 世代高温超伝導線材と言われる、 Coated conductor を用いて作製する。 Coated conductor は、磁場中で高い超伝導特性を持つ REBCO 系高温超伝導体を用いており、基板材料としてハステロイを用いているため、機械強度に優れている。このため、線材に非常に大きな電磁力の加わる強磁場超伝導マグネット開発に適した線材と言える。 22 T へのアップグレードによって、強磁場マグネットへ応用が可能である事を証明し、 25 T-CSM で Coated conductor を用いた実用超伝導マグネットとして完成させる計画となっている。

 


  計画の中で最も大きな定常強磁場マグネットとなる 47 T-HM は、物質・材料研究機構に設置されることとなっている。本マグネットが海外の強磁場施設で建設されているマグネットと大きく異なるのは、超伝導マグネットで 20 T を発生させることにある。このため、他に比べて小さな電力で 50 T クラスの定常強磁場を発生させることができる。資源が乏しい日本にとって、省エネタイプの定常強磁場発生装置となり使いやすいマグネットであるとも言える。また、現在は大口径 20 T-SM を冷凍機で冷却する無冷媒超伝導マグネットとして設計が進められている。これは、現在のヘリウム供給不足が続いても利用可能なマグネットとなり、また世界に類を見ないマグネットとなる。
  30 T-SM は本計画の最後に開発するマグネットであり、超伝導のみで 30 T を発生させることを目指したマグネットである。これまでに作ってきたマグネットの技術と経験を踏まえて開発を進めるため、現在は 30T-SM も冷凍機冷却方式によるマグネットになる予定である。このマグネットが完成することで、東北大金研に設置されている 30 T ハイブリッドマグネットが役割を終え、東北大は超伝導マグネットのみに特化した強磁場施設とする計画になっている。

 

 以上の超伝導マグネット開発に加え、水冷銅マグネットのみでの 35 T 超のマグネット開発、破壊型 1000T パルスマグネット及び非破壊 100 T パルスマグネットなどの開発を経て、日本の次世代強磁場施設として完成することになる。
  3 つの大型マグネット開発にあたって、 R&D も着実に進められている。いずれのマグネットもその磁場強度から高温超伝導線材である Coated conductor が使われるが、これをコイル化しその通電特性を強磁場下で測定している。 Fig. 3 にその結果を示すが、非常 に 大きな電磁力下 ( 基板のハステロイが力を全て受け持つとして 1.2 GPa) で劣化無くコイルが使用できることが示された。これは、 Coated conductor の高い機械特性をそのままマグネットに生かせることを示した重要な結果となる。また、高温超伝導マグネットをバックアップするための低温超伝導マグネットとして、 NbTi および Nb 3 Sn をラザフォードケーブルとして用いる。特にひずみに弱い Nb 3 Sn 線材は、素線を高強度線材 (CuNb 強化型 Nb 3 Sn 線材 ) としてラザフォードケーブルの開発を行い、劣化無く作製することに成功している。 Fig. 4 に Nb 3 Sn ケーブルの開発状況を示したが、通電試験結果からも劣化の無い良好な結果が示されている。これをさらに高い特性で使用するために、事前曲げ効果 ( 室温で繰り返し曲げひずみを印加することで、 Nb 3 Sn 線材の残留ひずみを緩和させ、超伝導特性を向上させる効果 ) を利用して線材の内部ひずみを制御し、最も良好な特性を持つひずみ条件に合わせて使用する試みもなされようとしている。さらに、素線の低コスト化、高強度化を目指した開発も行っており、こちらもすでに開発に成功している。

 

 

本計画の、特に超伝導マグネットに関して、主導的立場にある、東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センターの渡辺和雄教授は、「世界の強磁場施設を見ると、どの施設でも 40T 級ハイブリッドマグネットを設置、若しくは建設している。日本だけが取り残されている状況を打開するためにも、本計画は重要な位置を占めている。また、海外の施設では大電力を用いる水冷マグネットの能力で強磁場発生を行うが、電気代の高価な日本ではこの方式は合わないため、超伝導マグネット技術を駆使し、ハイブリッドマグネットでは超伝導で 20T まで発生する設計となっており、海外施設と全く異なる設計思想となっている。さらに、製作する超伝導マグネット全てが冷却方式を液体ヘリウムでは無く冷凍機冷却方式を採用する計画であり、ヘリウム資源にも依存しない独創性溢れるマグネットになる予定だ。」とコメントしている。 ( 日本の強磁場調査委員会 )