SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.2 April, 2013


トルクの限界は磁気飽和を超えて!?

−リラクタンストルク発現形高温超伝導誘導同期回転機の可能性提案

_ 京都大学、イムラ材料開発研究所 _


 京都大学大学院工学研究科・中村武恒准教授,同修士課程・西村立男氏,および ( 株 ) イムラ材料開発研究所・伊藤佳孝主任研究員らのグループは,始動時や過負荷時にのみリラクタンストルクが発現する高温超伝導誘導同期回転機を提案し,その実現可能性を明らかにした。
  一般に,駆動モータは始動時や過負荷時に大きなトルクが要求され,その限界値として最大トルクが定義される。一方,最大トルクが要求される時間は短時間であり,その他走行モードの多くではあまり大きなトルクを必要とせず,むしろ高効率駆動が要求される。京大を中心とするグループでは,これまで高温超伝導誘導同期回転機 (High Temperature Superconducting Induction/Synchronous Machine: HTS-ISM) の研究を実施しており,現在はアイシン精機・イムラ材料開発研究所・産業技術総合研究所・新潟大学と共に輸送機器応用をターゲットとした産学連携プロジェクトを推進している [1] 。 本プロジェクトでは, トランスミッションを使わないダイレクトドライブシステムの実現を目指しており,トルク密度の究極化を指向した研究開発に挑戦している。
  京大・イムラ材研の研究チームは, HTS-ISM の 回転子鉄心内に適切に HTS 磁気遮蔽体を挿入することによって,最大トルクが必要な高トルク同期回転状態でのみ自動的にリラクタンストルクが発現する HTS かご形回転子構造を提案した。本提案のポイントは,最大トルクが必要な緩やかな磁気飽和状態において, HTS 磁気遮蔽体がリラクタンストルクを発現し, HTS-ISM の誘導同期トルクに追加される。一方で,磁気飽和が起こらない通常回転時には,誘導同期トルクを発生する磁気回路を上記磁気遮蔽体が妨げず,リラクタンストルクも消失する。一般に,リラクタンストルクは力率や効率に悪影響を及ぼし,通常回転時に発生することは必ずしも好ましくない。従って本提案は,緩やかな磁気飽和現象を効果的に利用することによって,輸送機器特有の走行モードを制約条件とした高機能性と高効率性の両立が要求されるモータに適していると考えられる。

図 1 リラクタンストルク発現形高温超伝導誘導同期回転子の構造

 

 

          (a) 非飽和時                           (b) 飽和時

図 2 回転子断面内の電磁界解析結果 ( 磁束密度分布 ) の一例

 

 図 1(a) には回転子断面の模式図を、また同図 (b) には試作した回転子の外観写真を示す。かご形巻線には Bi 系高温超伝導テープ材が使われており、鉄心内に Gd 系バルク磁気遮蔽体が挿入されている。図 2 には、電磁界解析結果の一例を示す。磁気飽和が起こっていない通常回転時には、誘導同期トルク発現に寄与する 4 磁 極成分のみが発生している ( 図 2(a)) 。一方で、高トルクが要求される磁気飽和時には、上記 4 磁極に加えて 8 磁極も生じており ( 図 2(b)) 、即ちリラクタンストルクが付加的に発現すると期待される。そこで、 HTS 磁気遮蔽体の効果を検証するため、図 1 の回転子を従来形銅固定子と組み合わせ、昇温過程で実施した無負荷回転試験結果を図 3 に示す。同図では、試作機を液体窒素中で無負荷同期回転状態とし、その後液体窒素を抜きながら昇温過程における回転特性を測定した。同図に示すように、温度 83 K 程度において一次電流が減少しており、このとき Gd 系バルク体の不可逆温度に達したと考えられる ( なお、昇温過程における温度分布の影響によって、特性にバラつきが生じている ) 。また、温度 105 K 程度になるとさらに一次電流が低下しており、この温度は Bi 系かご形巻線の不可逆温度に対応する。つまり、上記両超伝導材料特性が回転特性として明確に現れていると考えられる。以上の結果から、リラクタンストルク発現形 HTS-ISM の実現可能性が示されたものと考えられている。同グループでは、上記成果を 2013 年度春季低温工学・超電導学会 ( 東京 ) で報告 [2] するとともに、第 23 回国際磁石技術会議 (23 rd International Conference on Magnet Technology, Boston, MA, USA) にて発表 [3] する予定である。

 

図 3 昇温過程における無負荷回転特性 ( 一次電流 ) の試験結果

 

 研究責任者の中村准教授は、「超伝導リラクタンス回転機の研究については、これまでロシアなどで精力的に実施されてきたが、駆動原理上低力率や低効率であることが課題であった。それに対して本提案では、高トルクが必要な駆動モードでのみリラクタンストルクが発現し、通常走行時は自動的に消失する設計が可能であることから、広い速度範囲に亘る高効率化と高トルク密度化の両立が可能になると期待される。今後は、 HTS 磁気遮蔽体の構造や配置を最適化する検討を推進し、輸送機器応用への具体的展開を目指したい。」と話している。

 本成果は、科学研究費補助金 ( 挑戦的萌芽研究、 No. 23656199) の助成によって得られた。 ( 京大 TN)

 

参考文献

[1] T. Nakamura et al., Electronic Materials and Applications 2013(January, 23-25, 2013, Orlando, USA)

[2] 西村立男 他, 2013 年度春季低温工学・超電導学会研究発表会 (2013 年 5 月 14 日,江戸川区 )

[3] T. Nishimura et al. , 23 rd International Conference on Magnet Technology (July 14-19, 2013, Boston, MA, USA)