SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.2 April, 2013


 

低温超電導デバイス開発用、新クリーンルーム稼働開始 _ ( 独 ) 産業技術総合研究所 _

 


 平成 24 年 11 月、産業技術総合研究所において低温超電導デバイス作製を主目的とする新たなクリーンルームが稼働を開始した。
  このクリーンルームは、その名称を超電導アナログ - デジタル計測デバイス開発拠点  (Clean Room for Analog & Digital Superconductivity : CRAVITY) といい、その名の通り、超電導アナログ応用とデジタル応用の融合を目指しているそうである。
  これまで、先端的な超電導アナログ計測デバイスを主に開発してきた産業技術総合研究所 (AIST) と、超電導デジタルデバイス開発を先導してきた国際超電導産業技術研究センター (ISTEC) の有するデバイス作製用プロセス機器とノウハウを集約している。 AIST 以外の研究機関における主要超電導デバイス開発拠点としては、アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) 、ドイツ国立理工学研究所 (PTB) があるが、超電導アナログ - デジタル技術の両方をカバーしているのは、 AIST のみであり CRAVITY は世界的にもユニークな研究開発施設とのことである。
  本施設の担当者の言によると、本施設が設立された経緯は以下の通りである。「これまでは、国内外の複数の研究機関のデバイス作製施設において独自の超電導デバイス開発が行われてきました。しかし、近年、実際にユーザーが手軽に使用できる実用化レベルの超電導計測デバイスも出現しています。実用化レベルにおいては、超電導デバイスの大規模化のため、プロセスの再現性、素子の歩留まりなどの品質に対する要求が高くなっています。このため、単独の研究機関での対応では、資金、運営の両面で難しい状況となってきました。このため、本施設は、大学、研究開発独立行政法人、企業への公開と、超電導アナログ - デジタルデバイスの安定供給をモットーとしています。施設内のデバイス作製用装置はほぼすべて自動化されています。また、デバイス作製に専従のテクニカルスタッフも複数名常駐、各装置の運転、整備を継続的に行うことで、高いスループットでのデバイス作製が可能です。従来 10 日間以上掛かっていたプロセス時間が、集約化により 3 日でできるようになりました。最新の超電導プロセス技術では、 9 層の多層配線超電導集積回路の作製が可能となっています。」
  本施設は、産総研以外の研究者にも公開されている共用施設であり、どの機関の研究者でも、デバイス作製装置の利用時間に応じた課金を支払うのみで施設内の全装置を利用することが可能となっているとのことでした。また、実際の利用に際しては、研究者自身が各作製装置を利用してデバイス作製をする方法と、研究者が各自のカスタムデバイス作製を本施設に依頼する方法 ( 本年度開始予定 ) の 2 つの選択肢を用意することで、幅広い支援を実現、ゆくゆくは、日本、アジア地区、あるいは世界のハブ施設として機能することが期待されています。 

 

デバイス作製装置

 本施設内のプロセス機器は、 http://unit.aist.go.jp/riif/openi/cravity/ja/index.html にリストアップされているが、主要なプロセス装置として図 1 、図 2 に示されるような装置があるとのことでした。

・ フォトリソグラフィー用装置

デバイス作製前に、ウェハー表面の精密洗浄を実施するウェハー洗浄装置とその清浄度をモニター可能なゴミ検出装置、 300 nm を切るラインパターンを作成可能な i 線ステッパー ( ニコン i12D) 、全自動でレジスト塗布および現像を行うオートコーターデベロッパーや微細なレジストパターンの設計値からのズレを低減可能なセミオートデベロッパー、そして反応性イオンエッチング (RIE) 後のウェハー表面のレジストを剥離、清浄なウェハー面とする有機洗浄装置を備えている

図 1 フォトリソグラフィー用各種装置

 

・ 成膜、パターン加工用装置


 超電導膜、層間絶縁膜としての酸化シリコン膜および各種金属膜 ( 金、チタン、タングステン、モリブデン、パラジウム ) の成膜用各種スパッタ装置を備えています。特に超電導 Nb/Al 多層膜の成膜用スパッタ装置は、 1 nm 厚のトンネルバリア層作製まで含めて、全成膜プロセスを自動で実施可能となっている。

パターン加工のための RIE 装置は 5 台あり、被エッチング材料に応じて使い分けることで、各種エッチングプロセスの安定化を実現している。

 

CRAVITY で作製可能なデバイス

最後に、本施設でこれまで作製された様々な超電導デバイスを見せて頂きました。主要なものだけでも、図 3 に示されるような 2 次電圧標準 NbN チップ、 X 線や質量分析装置用超電導検出器、データ処理のための各種 SFQ デジタル回路等多岐にわたっていることが分かりました。

 

デジタル超電導デバイス

 

 

アナログ超電導デバイス

図 3  作製した超電導デバイス例

 利用を希望される場合は、 http://open-innovation.jp/ibec/device/ で会員登録してほしいとのことです。利用に当たっては、各装置の維持に必要な経費を負担する必要がありますが、独自では保有することが難しい機器が使用できるメリットは大きいと考えられます。今後、本施設を活用することで日本においても、ベンチャー企業が超電導エレクトロニクスビジネスに参加できるようになるのでないかと期待されます。 (Mr. CRAVITY )