SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.2 April, 2013


 

SQUID を用いた鉱物探査実用機最新情報

_超電導工学研究所、三井金属資源開発、 JOGMEC _

 


 ( 公財 ) 国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所は三井金属資源開発 ( 株 ) と共同で、 JOGMEC ( ( 独 ) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ) からの委託研究「 次世代 SQUITEM 機器開発・ SQUID 磁力計開発 」により開発してきた、地下資源探査システム、 SQUITEM 3 号機が完成したことを 2013 年春季電子情報通信学会総合大会で発表 した 。
  本誌 2012 年 8 月号でその原理や開発途上の報告を行ったが、秋田およびオーストラリアでのフィールド試験 ( 図 1) を無事終了し、実機としての性能が明らかとなった。開発途上の鉱脈情報がからむデータについては公表が難しいようだが、公表された範囲では以下のような状況である。
  TEM (Transient Electromagnetic) 法では、磁場の変化に追従できる性能指標であるスルーレートと、広い周波数帯域での高感度性が性能を左右する。その点に注目しながら性能評価結果を解説したい。図 2 は、秋田でのある地点での地下比抵抗構造を測定解析した結果である。従来の Protem ( 誘導コイル ) 、これまで JOGMEC が使用してきた SQUITEM 2 号機、そして今回開発した 3 号機での解析結果である。まず地表近くでは高抵抗層がある。このような表層を有する場所では、人工的に印加した磁場を遮断したとき、急激に磁場は減少する。そのため、誘導コイルである Protem は正確にその変化をとらえ、比抵抗構造を再現している。 3 号機が同様に再現できている一方で、 2 号機では再現できていない。これは 3 号機のスルーレートが 2 号機の 10 倍に相当する 10.5 mT/s を実現しているためである。次に、地下 500 m 付近になると Protem から推定される比抵抗構造は不明瞭になっている。誘導コイルは磁場の変化 ( 微分 ) が小さくなると感度が低下するためである。 3 号機が明瞭に比抵抗の上昇をとらえているのに対し、 2 号機ではとらえきれていない。この原因は、人工磁場の遮断によってシステム本体に発生するエディー電流の減衰時間が長く、それが発生する磁場が地下からの磁場信号に重畳しているためであると考えられる。 SQUID を用いたシステムでは、低周波での高感度のため、地下 1000 m に達する比抵抗構造が得られている。地表から深部まで連続的にデータを取得できているのが今回開発した SQUITEM 3 号機の特徴である。
  オーストラリアでの最終試験は 11 日間行われた。比抵抗構造に関しての詳細は文書では非公開であるが、口頭講演では報告された。ボーリング調査の結果を反映した地下比抵抗構造を再現できたとともに、ボーリングより深い位置に、鉱脈の存在を示唆する結果も得られた。また、ユーザーサイドからの使用勝手の情報も公開された。表 2 に SQUITEM 2 号機と 3 号機の測定効率の比較を示す。 TEM 法では、ライン状に、移動しては測定を行い、 2 次元的な分布を解析する。そのため、機材を設置して測定を行い、次の測定点への移動を繰り返す。人工磁場を発生させるための電源であるトランスミッタや、液体窒素タンクは、トラックの荷台で運搬移動し、常に測定点とは 100m 程度離れている。 2 号機で平均 43 分かかっていた機材設置から測定完了までの所要時間は、 3 号機では 23 分に大幅に短縮された。 SQUID 動作の安定と、 100 m 離れたトランスミッタと受信機の同期が有線から GPS による無線に変更されたことによる。また、一日中、液体窒素の補給が不要であること、機材が軽量コンパクトであることも、作業者の負担を軽減し、実用性能の改善が実証された。探査深度の優位性は明らかだが、その限界は、 3 号機の耐人工印加磁場の限界にトランスミッタの性能が追従しないため未知である。しかし、人工磁場発生のための電流が、従来の 10 倍に相当し、ノイズレベルが半分以下であることは性能評価で明らかになっており、今後の探査現場での活躍がおおいに期待される。
  開発担当者の波頭経裕主管研究員は、「 TEM 法による資源探査では、 SQUID が単に感度が高いだけではなく、ダイナミックレンジが広く、 DC から 100 kHz に及ぶ広い周波数帯域において連続的に感度が安定していることが、他の磁気センサに対する優位性となっています。今後も SQUID の重要な応用分野であり、さらなる進化を画策しています。今回の成果は、度重なるアクシデントをチーム一丸となって克服してきた結果。そして、 2 号機に対する 3 号機の優位性も、先導した 2 号機があってこその成果です。」と述べている。 ( kirin )

 

 

           図 1  オーストラリアでのフィールド試験の様子

 

 


図 2  地下の比抵抗構造の解析結果の比較

 

 

 

表 1 SQUITEM 2 号機と 3 号機の測定効率の比較