SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.2 April, 2013


 

DI-BSCCO 最新情報 −強度向上に進展−             _住友電工_

 


  住友電気工業株式会社が製造する DI-BSCCO 線材はケーブル応用において近年数多くの実証プロジェクトに採用されており、国内では本誌でも採り上げられている NEDO 委託の実証プロジェクト (Vol. 21, No. 2, No. 6 など ) や社内実証試験 (Vol. 22, No. 1) 、国外ではドイツの AmpaCity プロジェクトやロシア・サンクトペテルブルグ市での直流送電プロジェクトが進められている。
  一方、コイル応用では超電導マグネットの高磁場化や大型化が進んでおり、それに伴い超電導線材にはより大きなフープ応力に耐えられるだけの機械強度が求められている。 DI-BSCCO 線材の場合、素線である Type H の 77 K における引張強度は 130 MPa と低いため機械強度を高める目的から、 Type H 線材の両面を金属テープで挟んで半田付けした Type HT が商品化されている ( 図 1) 。金属テープとしては銅合金やステンレステープが用いられており、 77 K の引張強度はステンレステープを用いた場合で 270 MPa にまで向上する。しかし、この強度も最近の主流である 300 MPa 以上の引張強度を必要とするコイル設計には足りておらず、臨界電流特性が改善していく一方でコイルにした際のフープ応力に耐えられないというジレンマを DI-BSCCO 線材は抱えてきた。
 長らく課題となっていた機械強度であるが最近になって目覚ましい進展を見せている。その一助となっているのがプリテンション (Pre-tension) という手法である。線材の引張強度を高めるには脆性材料のセラミックスである超電導フィラメントに圧縮応力が印加された状態を実現することが有効となる。圧縮応力を生み出すためにプリテンションでは半田付けの際に金属テープのみに張力をかけており、補強後の金属テープ内における残留応力が DI-BSCCO 線材に圧縮力を与えている。このプリテンションの原理・目的は、社会イ ンフラや建築の分野で広く用いられているプレストレストコンクリート ( Pre-stressed Concrete ; PC) と同じであり、 PC 鋼材の製造も手掛ける同社らしい技術と言える。プリテンションの適用とステンレステープの厚みを増大させることにより、本誌 Vol. 20, No. 5 では 77 K での引張強度 500 MPa 、引張歪み 0.5% を達成できることがすでに報告されている。
  金属テープに高い降伏応力を有する材料を用いればプリテンションを増加させることができ、さらなる機械強度の改善が見込める。同社はこの目的から最適な材料の探索を進め、銅合金、ステンレステープに続く第 3 の補強材として『 XX 』 という材料を新たに提案している。『 XX 』 が具体的に何であるのかという点についてはまだ明らかにされてはいないが、『 XX 』 は非磁性でステンレステープと同等以上のヤング率と熱膨張率を有しており、なおかつ高い降伏応力も有しているため強いプリテンションを印加することが可能である。 50 m m 厚の『 XX 』 テープを用いて作製した試作品ではプリテンションを 170 N とした時に 77 K の引張強度が 540 MPa にまで達している ( 図 2) 。 Type HT では製品化しているものに同じ厚さ 50 m m の銅合金テープで補強した Type HT-CA があるが、その引張強度はカタログ値で 250 MPa となっており、『 XX 』 テープでの補強では倍以上の強度にまで改善している。
  補強線の開発を担当している山崎浩平氏は「今後はさらに試作を重ねながら高 J e 化を狙って『 XX 』 テープの薄肉化を進め、最終的には『 XX 』 テープ厚 30 m m を目指す。その薄さの『 XX 』 テープで補強した場合でも引張強度は 500 MPa を越えると試算している。 DI-BSCCO 線材の弱点とされていた機械強度の問題が克服され、超電導マグネットの設計尤度が広がることで多くのコイル開発者に受け入れられ普及が加速していくことを期待したい」とコメントしている。 ( 梅田 十三 )

 

 

図 1 Type HT 線材の製造模式図 .

 



 

図 2 Type HT-XX の 77 K 引張特性 ( 図中、 pre-tension の値は XX テープ 1 枚当たりの値 ).