SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.2 April, 2013


 

石狩市で始まる超伝導直流送配電プロジェクト

_ 千代田化工建設、住友電工、さくらインターネット、中部大学 _

 


 2013 年 3 月 26 日に経済産業省から平成 24 年度「高温超電導直流送電システムの実証研究」に関して、千代田化工建設、住友電工、さくらインターネット、中部大学が採択業者となったとの発表があった。これは 1 月 18 日に経済産業省から発表されたプロジェクト ( 「民間投資の喚起による成長力強化」 p.12 、 http://www.meti.go.jp/main/yosan2012/index.html ) の公募結果である。
  これによると平成 24 年度補正予算で 25 億円をかけて、図 1 に示すように変電所等から直流送配電システムを構築し、大口需要家に直流電力供給を行うことを予定している。システム長として 2 km 以上であり、ケーブルの送電電力は 50 MW 以上を目標としているプロジェクトである。同時に、このプロジェクトには太陽光などの再生可能エネルギーからの直流低圧電源からの給配電ケーブルを 500 m 程度建設することも含まれている。
 

図 1 データセンタ等大口需要家への直流超伝導送電のイメージ

 

 

 これについて問い合わせを行い、担当者である中部大学・超伝導センターの山口作太郎氏より下記のような返答を得た。
  問 1 :導入する場所とデータセンタへの導 入の意義は ?
  場所は北海道・石狩市を想定している。地元との調整も進んでいる。ここには最新の技術を導入したデータセンタがある。その特徴は寒冷地に設置することによってエアコンなどの消費電力を節約していることであり、さらに直流給電によってデータセンタでの消費電力を節約している。図 2 はさくらインターネットの HP からの引用である。

 

 

図 2 データセンタの消費電力の節約

 これに見られるように、東京や大阪などに設置するデータセンタに比べて消費電力が半分程度になる。このため、日本で最も競争力のあるデータセンタである。日本国内のデータセンタを海外から利用すると、これは利用料金が輸出に対応するので、日本の競争力強化と貿易外収支の黒字に貢献する。
  さらに、石狩市を中心にした「北海道グリーンエナジーデータセンター推進フォーラム」 (http://www.hokkaido-gedc.com/) があり、新しい技術を導入することについての地元の受け入れや支援体制などの環境が整っていた。
  加えて、北海道の石狩から稚内までの日本海沿岸側は風力発電の適地であり、昨年度から政府部内で送電線網の整備や再生可能エネルギーの導入が検討されている。また、石狩市には北海道で最初の LNG 基地が建設され、運用に入っている。 LNG の温度は− 160°C 程度であり、この冷熱を利用することは高温超伝導応用にとって損失及びコスト低減に極めて重要と思われる。特に、日本は LNG 輸入が世界で一番であり、今後 LNG 輸入は増えると考えられるので、 LNG の冷熱利用は益々求められる。
  以上から、高温超伝導直流送配電システムを石狩市で導入することは極めて適切と考えられる。

問 2 :ケーブル電流や電圧などのパラメータやケーブル長は?
  ケーブルの送電能力として 50 MW を満たす。一方、直流システムでは電力変換器コストが大きな割合を占めるので、ケーブル、変換器及びユーザー要求仕様を考慮して最適設計を行う必要がある。さらに、将来的には再生可能エネルギーからの電力輸送のためのパラメータ検討を行う必要がある。現時点では、電圧電流は 5 kA, 10 kV を中心にして設計検討を進めている。また、太陽電池からの仕様は 5 kA, 400 V である。
  ケーブル長は 2 km を超すことが目標であり、世界最長ケーブルとなろう。このため、今までに開発された技術だけでなく、長尺ケーブルの建設には新しいアイデアを持ち込むことは、必要不可欠になろう。超電導ケーブルは損失が少ないが、それは長いケーブルになって始めて発現するため、長尺ケーブルの開発はケーブル研究の基本である。このために、本格的な普及を見据えてコスト低減や設計標準化なども目指す。

問 3 :補正予算として単年度予算であるが、今後のプロジェクト展開はどうなりますか?
  平成 24 年度の補正予算なので、平成 25 年度までは利用することができる。一方、 2 km ケーブルの建設を考えると 1 年間では短いので、最終的にはもっと長い期間のプロジェクトになるのではと思っている。
  実際、北海道でこのような開発を進める大きな目標には、超電導送電の他に直流給配電、再生可能エネルギーの利用がある。これらはお互いに関連し合い、今後複数のプロジェクトが立ち上がることが期待されている。
  また、期間が短いこともあり今回は 4 者が採択機関となったが、将来的にはより多くの機関が加わっていく必要があると思われる。幸い、石狩市に「石狩超電導直流送電プロジェクト推進協議会」が 2 月 15 日に設立され、これに布設する研究会を中心にして多くの企業に加わってもらう仕組みができた。 ( 取材者:福山一夫 )