SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.22, No.1 February, 2013


 

低温・超電導技術は、除染に貢献できるか? −その 2 −   _大阪大学_

 


  前回の記事で ( Vol. 21, No 3. 2012.6 ) 、磁気分離法を用いた土壌除染の可能性について述べた。その後、いろいろご意見を頂き、さらなる検討を行ってきたが、前段の分級に関しては実際に福島で除染活動 ( 土壌分級 ) を始めることができた。 ( この活動に関しては良好な結果を得ているが、超電導とは直接関係ないので、別途、紹介できればと思っている。 ) 表記命題についてさらなる検討を加え、超電導技術の応用の新たな可能性が具体的に見えてきたので、そのことについて報告させて頂きたい。
  結論から言うと、土壌分級を実施し、その後、粘土を磁気分離するという手法にたどり着いた。この手法は以下のような特徴を有する。@薬品を使わないか、あるいは使ったとしても最小限に抑えることができる。A新たな吸着剤を使用する必要が無いあるいは使用するとしても若干量で良い、B燃焼炉等の必要がなく、 ( 土壌燃焼の手法と比較して ) エネルギー効率に優れる。以下にその手法について説明する。
  まず、想定している除染対象物は土壌である。その理由は以下のようである。 環境省の推定によると空間線量率が 5 mSv 以上の地域に面的除染を行う場合、土壌の発生量は、森林除染を 10% のみ行った場合 20.8 x 10 6 m 3 、 50% 行った場合は 24.2 x 10 6 m 3 、 100% 行った場合は、 28.4 x 10 6 m 3 にも達する。すなわち、膨大な汚染土壌が発生するのである。いかに減容化するか大変な問題である。さらに問題は、土壌からのセシウムの脱離である。この脱離には困難を伴うことも明らかになっているである。また、最終的にどのように処分するのかのシナリオを明確にしておく必要があると思われる。

 さて、想定している除染のフローを図 1 に示す。

          図 1.  提案する除染フロー

 

 汚染土壌を分級するまでは、以前、報告した手法と同じである。分級は、除染現場では既に各種方法で実践されている。その後、粘土を直接磁気分離するのである。この磁気分離に超電導磁石が威力を発揮する。この手法で、なぜ、除染さらには減容化につながる可能性があるのかを以下に述べる。
  まず、セシウムは、土壌中の粘土に吸着していることは、以前にも述べた。このため、土壌分級を行い、粒子径の小さな粘土 ( 手法によってはシルトも含む ) を分離するのである。これで、土壌の質にもよるが、 30% 程度までに体積を減らすことができると考えている。このプロセスに関しては、環境省からの助成を頂いて、新たな装置開発を行い、福島県内で実証実験を始めており良好な結果を得つつあることは前述した。
  さて、その次の磁気分離のプロセスである。目的は、@さらなる減容化、Aセシウムの安定的保持である。最終的にセシウムをどうするのか?に答えなければならないが、ポイントは、セシウムを長期に安定に保持する手法の開発である。この手法が確立されたならば、仮置き場での貯蔵、中間貯蔵施設への運搬・処理のプロセスが安全に行うことができることになる。つまり、セシウムを安定に保持する材料の開発と、粘土からその担体への移動を実現する必要があるのである。ここで、これらの問題を一挙に解決する可能性のある手法が見つかったのである。
  さて、上記プロセスを取ることの理由について述べる。図 2 に描いてあるが、粘土には、 1 : 1 型粘土鉱物と、 2 : 1 型粘土鉱物がある。粘土鉱物は、 Si 四面体シート ( シリカ ) と Al 八面体シート ( アルミナ ) が交互に重なり合って出来ているが、 1 : 1 型はシリカとアルミナが交互に積み重なっている。一方、 2 : 1 型は、シリカの層の間にアルミナが挟まれており、これを基本的な構造として、複数積み重なっている。 ( 図 2)

             図 2. 2 種類の粘土鉱物の構造

 

 さて、セシウムの吸着である。基本的に静電的相互作用で吸着するが、粘土側が負に帯電しており、これにより吸着する。粘土側が負に帯電する機構に二通りあり、 変異電荷、永久電荷の二つの発生機構である。変異電荷は周りの pH が変化すると変化するものであり、 pH が高くなると負の電荷が大きくなる。したがって、 pH を下げると、変異電荷は小さくなり、ある値以下では正になる。したがってこの機構で吸着したセシウムは周辺の pH を変化させることにより脱離できることになる。これが、酸洗浄の意味である。この変異電荷で吸着されているセシウムは、福島では、全体の 15% 程度と言われている。
  一方、永久電荷は、粘土中のケイ素原子がアルミニウムに、アルミニウムがマグネシウムや鉄に置き換わる同型置換が理由であると言われている。このため、粘土結晶は負に帯電することになる。この永久電荷は外部条件で変えることができないため、この機構で吸着したセシウムを脱離することは困難である。この永久電荷を有しているのが、 2 : 1 型粘土鉱物である。 (1 : 1 型粘土鉱物も同型置換は起こるが、その数は少なく、ほぼ中性が保たれていると言われる ) このため、 2 : 1 粘土鉱物からのセシウムの脱離は困難となる。逆に言えば、この現象を積極的に利用し、セシウムを 2 : 1 粘土鉱物に吸着させると、保管・管理ができることを意味している。変異電荷による吸着したセシウムを洗浄し、 2 : 1 粘土鉱物に移動させることができれば、ほとんどのセシウムを安定に管理保管出来る可能性があることを意味している。この移動が必要である線量レベルの土壌に関しては、前回の記事に掲載したように、自然分解可能な酸 ( 例えばクエン酸 ) 等で洗浄し、 2 : 1 型粘土鉱物に移行させればよい。
  さて、この現象と磁気分離がどのように関わるのかについて述べる。それぞれの粘土鉱物の磁気的性質を測定した。 2 : 1 型粘土鉱物の代表であるバーミキュライトは、 2.2 x 10 -3 であり、 1 : 1 型粘土鉱物の代表のカオリナイトは− 1.97 x 10 -4 であった。すなわち、 2 : 1 型粘土鉱物は常磁性体、 1 : 1 型粘土鉱物は反磁性体である。このため、 2 : 1 型粘土鉱物は、高勾配磁気分離が可能と考えられ、それを実験的にも実証した。この磁化率の差は、同型置換によるところが大きい。他の、 2 : 1 型粘土鉱物も存在するが、磁化率から判定すると高勾配磁気分離で分離が可能である。 ( 磁化率は正であるがバーミキュライトに比較すると小さい。しかしながら同型置換の量は少なく、セシウムの固定量も少ないと想定できる。 )
  本実験を担当している大阪大学の西嶋茂宏教授によれば、「粘土は 1 : 1 型鉱物と。 2 : 1 型鉱物でできており、セシウムは 2 : 1 鉱物に強く吸着する。これは永久電荷によるもので、同型置換が原因である。この同型置換は、 2 : 1 型粘土鉱物の磁化率を大きくし、当該粘土は常磁性を示し、高勾配磁気分離で分離可能である。また、 2 : 1 型粘土鉱物をセシウムの吸着剤として考え、分別保管することでセシウムの保管が可能であると考えられる。このため、図 1 に示すようなシナリオが考えられるのである。この手法の実現のためには、さらなる実験が必要であるが、スピード感を持った実験を遂行していきたいと思っている。今後、土壌除染に限らず、他の汚染物質に関しても、 低温・超電導技術の除染への応用を検討していきたいと考えている。 」とのことである。 ( 福島復興 / 日本再生 )