SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.5 October, 2012


 

MgB 2 ナノ細線による単一光子検出                _ NTT 物性研_

 


 NTT 物性科学基礎研究所は第 73 回応用物理学会学術講演会(愛媛大・松山大、 2012/9/11-14 )および Applied Superconductivity Conference ( Portland 、 2012/10/7-12 )において、 MgB 2 ナノ細線を用いた通信波長帯 ( 波長 1.5 m m) の単一光子検出に成功したと報告した。
  MgB 2 は 2001 年に青山大学秋光研究室で発見された金属・金属間化合物系における最高の T c = 39 K を有する材料としてよく知られているが、現在、線材応用はもとより様々なデバイス応用について開発が進められている。
  一方、超伝導ナノ細線を用いた単一光子検出器 ( SSPD ) は、同じく 2001 年にモスクワ州教育大 Goltsmann 教授らによって発明された単一光子検出器で、半導体を用いた単一光子検出器より高性能であることから近年急激に利用が拡大している検出器である。既にロシアの企業から冷却系込みの検出システムが販売されており、国内でも十数台利用されている様である。 SSPD は厚さ 4 nm 、幅 80 nm 程度の超伝導ナノ細線からなるが、材料としては超薄膜作製・ナノ微細加工が可能で比較的 T c の高い NbN( T c = 16 K) が利用されている。動作温度は 3 K 以下であり、 NbN を用いる限り動作温度の向上は望めない。動作温度向上のためには高 T c 材料を用いる必要があるが、超薄膜作製・ナノ微細加工が困難なため成功例はないようである。
  MgB 2 は膜厚を数 nm まで薄くすると急速に T c が低下することが知られておりこの点の改良が必要であった。 NTT 物性研では、 MBE 成長した MgB 2 は表面が厚さ 5 nm 程度酸化されていることを見出し、 in-situ で AlN をパッシベーションすることによって表面酸化を防止した。さらに Ar ガス中でラピッドアニールを加えて超薄膜の平坦性を保ちながら結晶化を促進した。これらの改良により厚さ 10 nm で T c = 24 K の MgB 2 薄膜作製に成功した。この膜を Ar イオンミリングにより微細化し、図 1 のような幅 135 nm のメアンダ型ナノ細線を作製した。 AlN パッシベーションのために、加工に伴う超伝導特性の劣化は少ないとのことである。
  単一光子検出の確認は、極微弱なレーザー光をナノ細線に照射し、光強度と出力パルス数の関係を調べることにより行う。つまり、レーザー光源の光子数は Poisson 分布をしているため、単一光子検出器では光強度と出力パルスは比例する (2 光子検出器の場合、出力パルス数は光強度の 2 乗に比例 ) 。実際、図 2 のように波長 1550 nm のレーザー光を照射した場合、比例関係が保たれており単一光子検出していることが確認された。

図 1 . MgB 2 メアンダ型細線の (a)AFM 全体像、 (b)SEM 写真

( メアンダサイズ 10 m m ´ 10 m m 、線幅 135 nm 、線間隔 165 nm)

 

 開発を担当している柴田主任研究員によれば、「 MgB 2 は、高い T c 、短い磁場侵入長、強い電子 ― 格子相互作用など検出器に必要な優れた特徴を持つ。このため SSPD だけでなく、現在 Nb や NbN が利用されている様々な検出器を MgB 2 で置き換えると性能の 向上が期待できる。実際、 THz 帯ヘテロダイン検出用の HEB ミキサでも非常に有望な結果が報告されている。今回の MgB 2 -SSPD は、幅・厚さ共に従来型 SSPD の 2 倍程度大きいため光子検出効率が低いが、微細化を進めて高性能・高動作温度化を図りたい。」とのことである。 ( あゆころ )

                      図 2 出力パルス数の光強度 (m) 依存性