SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.5 October, 2012


 

Nb-1212 系銅酸化物超伝導体の発見                 _東北大_

 


 東北大学大学院工学研究科の大学院生金鍵氏、加藤雅恒准教授、野地尚助教、小池洋二教授のグループは新超伝導体 EuSr 2 Cu 2 Nb 1- x Sn x O 8- y ( T c = 37 K) を発見したことを第 73 回応用物理学会学術講演会 ( 松山、 9 月 12 日 ) において報告した。これは久々の常圧下での固相反応法で作製された銅酸化物超伝導体である。
  新超伝導体の母物質 EuSr 2 Cu 2 NbO 8 は、 YBa 2 Cu 3 O 7 - y ( Cu1212 系)において Cu1 サイトをすべて他の元素で置き換えた物質群のひとつである。 Cu1 を Ru で置換した磁性超伝導体 RuSr 2 GdCu 2 O 8- y (Ru1212 系 ) はその代表例である。
  Cu1(CuO 鎖面の Cu サイト ) を Nb で置換した Nb-1212 系については、 1989 年に一瀬ら [1] により REBa 2 Cu 2 NbO 8 (RE= La, Nd) の合成が、また、 1991 年に Greaves ら [2] により RESr 2 Cu 2 NbO 8 (RE=Nd, Eu) の合成が報告されている。 Nb の価数は +5 であるため,電荷中性条件を保つために酸素を取り込み、 NbO 6 八面体を形成し、正方晶になっている ( 図 1) 。 Greaves らは、 Nb 5+ サイトを Ti 4+ で、 RE 3+ を Ca 2+ や Sr 2+ で置換したが超伝導化には至らなかったと報告している。
  今回、東北大のグループは、 REBa 2 Cu 2 NbO 8 (RE= La, Nd) 、および RESr 2 Cu 2 NbO 8 (RE=Sm, Eu, Gd, Dy) において、 Nb 5+ の一部を Ti 4+ , Sn 4+ , Ge 4+ , Fe 3+ , Co 3+ , Ga 3+ で置換して、超伝導化を試みた。その結果、 EuSr 2 Cu 2 Nb 1- x Sn x O 8- y で超伝導転移を観測し、 T c は x = 0.25~0.30 において 37 K であった ( 図 2) 。 また、 SmSr 2 Cu 2 Nb 0.7 Sn 0.3 O 8- y においても、ほぼ同じ T c で超伝導転移が観測された ( 図 3) 。この T c は, 同じく Cu1 サイトを置換した RuSr 2 GdCu 2 O 8- y や MoSr 2 YCu 2 O 8- y T c とほぼ同じであることは興味深い。
  東北大グループによると、銅酸化物における経験則「 CuO 2 面の Cu と頂点酸素の距離が長いと T c は高い」に基づき、 Cu1 を高価数の元素で置換することによって O1 を引き付け、 Cu2-O1 距離を伸ばすことにより T c を上げようとする試みであった。しかし、 REBa 2 Cu 2 NbO 8 では超伝導は出現しなかった。この原因は、 a 軸が 3.9 A 以上とホールドープ系には長すぎたためと考え [3] 、 a 軸が短い RESr 2 Cu 2 NbO 8 に着目した。その結果、超伝導は出現したが、 Ba がイオン半径の小さな Sr に換わり, Cu2-O1 距離も短くなったため、 90 K 級の YBa 2 Cu 3 O 7- y よりも T c が低くなったのだろうとしている。
  グループの加藤雅恒准教授は、「 Y 系で T c の向上を狙い、その過程で新超伝導体が見つかった。残念ながら T c は 90 K を超えることはできなかったが、この系では久しぶりの新超伝導体である。改良を加えることにより、銅酸化物の最高の T c である 134 K に近づけたい。最近ではノンドープ超伝導 (T'-RE 2 CuO 4 ) という以前は考えられなかった超伝導体も見つかっている。銅酸化物での新超伝導物質探索はほとんど行われなくなったが、実用化に最も近い銅酸化物をもう一度見直す必要があるのではないか。」とコメントしている。 (M2 は一刻千金 )

図 1 RE Sr 2 Cu 2 NbO 8 の結晶構造

 

  図 2. EuSr 2 Cu 2 Nb 1- x Sn x O 8- y の直流磁化率の温度依存性 

 

 

                                     図 3. RE Sr 2 Cu 2 Nb 0.7 Sn 0.3 O 8- y ( RE = Sm, Eu, Gd)の直流磁化率の温度依存性

 

                                                                             

 

【参考文献】

[1] 一瀬中ら,日本セラミックス協会学術論文誌  97 (1989) 1065.

[2] C. Greaves and P. R. Slater, IEEE Trans. Magn . 27 (1991) 1174.

[3] Y. Tokura, Physica C 185-189 (1991) 174.